第1話 種子島Ⅱ上陸作戦(第2部・全14話)
どうやら結構以前から、月の裏側『モスクワの海』には謎の存在の『支配エリア』があったらしい。
20世紀のアポロ計画が早めに中止になったのも、宇宙開発の活動も地球軌道上の国際宇宙ステーションISSぐらいになったのも、月の裏側には謎の存在が影響したらしい。
当時の先進国同士は秘密裏に不可侵条約みたいなものを締結して、不交渉不接触を貫いたらしい。
中国などはそれを無視して、月面裏側に探査機を飛ばして一悶着あった時期もあったそうだ。
21世紀になって月面着陸を再度目指す『アルテミス計画』もなかなか進まなかったのも、それが理由だったと歴史的に証明された。
謎の『縄張りを荒らすな』『テリトリーに入ってくるな』と言う確約。
その不接触条約がしばらく続き、『月の裏側』については禁句となり、時は流れた。
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ある時を境に、急に変わった。
いや、徐々に変わったと言うのか。
流れ星が多数地上に降り注ぐようになった。
夜空の流れ星ならとてもきれいだ。
だが、真昼間の青空にも、だんだんと流れ星が降り注ぐようになった。
最初のうちは地上に落ちる事なくきれいに燃え尽きた。
だが『流れ星』側も学習していたのか、やがて地上にまで到達し巨大なクレーターを作るようになった。
人々は『流れ星』の大雨がどこから飛来しているのか、調べてみて驚愕した。
大量の流れ星は驚くことに『月の裏側』から飛来していることに信じられなかった。
『月の裏側』発祥の複数の『流れ星弾』は毎日のように降り注いだ。
巨大なクレーターを作るまではまだ良い。
確かに都市部に落ちれば、街一つ吹っ飛ばすのであったが。
問題はその後であった。
巨大クレーターを中心に三百六十度のエリアを『白い結晶化』へと変質していった。
それは生けるものすべてを取り込み、動植物全てを結晶化していったのだ。
人々が住み、街を、都市を形成している。
だが、ひとたびそこから人がいなくなると、植物が長い時間をかけて侵食していく。
そして人工建造物はやがて崩壊し『森の一部』となって埋もれていく。
巨大クレーターから発生する『白い結晶化』は、まさにそれをタイムプラスで加速して見ているのに久しい。
『敵』の『隕石』によって発生した巨大クレーターから、地球上の『白い結晶』の侵食が始まった。
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富士山嶺に存在した敵のドーム基地は人類側の攻撃により果てしなく物理破壊されていた。
そこに侵略者たる『宇宙人』の姿はなかった。
別に逃げたわけではない。
最初から『ヒトガタ』は存在していなかったのだ。
廃墟と化した敵ドーム基地の中を、もちろん人類側は探索した。
だがそれは迷宮であった。
全体的に『白い構成物質の森』または『複雑細胞の群れ』と言ったほうが良いのかもしれない。
それはまるで『電子回路』。それ自体が複雑で巨大な『IC』『CPU』と言えた。
一応それぞれ目的に合わせて階層にには分かれている。
司令系統部分や工場部分?であったり発電エリアであったり。
だが人類側の目的は明瞭であった。
残された巨大な白き『ハードディスク』部分を突き止め、『敵の目的』『敵の生態系』を分析する。
それが優先すべき項目であった。
そして再度ここで確認された事。
この『侵略者』は月の裏側『モスクワの海』の謎の存在の『支配エリア』から来た事が。
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富士山嶺の「白き灰の森の侵食』は止まった。
その原因を作っていた富士山嶺の敵ドーム基地を制圧した人類反抗軍は一路種子島に向かっていた。
種子島。
なぜに種子島?
そこには宇宙基地がある。
初期の頃は小型~中型ロケットしか打ち上げができなかった。
国際宇宙ステーションISSが放棄され、宇宙開発がアルテミス計画の後期に移った頃、
種子島発射場が拡張されHLV重量物打ち上げロケットも発射可能となった。
それにより国際宇宙ステーションISSⅡ構築計画時においても、拡張種子島発射場は種子島Ⅱとなり、宇宙開発のハブ基地となっていた。
富士山嶺敵ドーム基地攻略後の人類反抗群のこのユニット兵団は初期の1/4まで兵員が減っていた。
当然残存兵力を再編成するわけで、キリがいた通称捨て駒突撃隊は解散となり、アヤカ先輩やカミヤと同じ突撃兵団に集約された。
もはや階級はあまり意味を持たない。
とにかく敵の攻撃を阻止しなければ、 人類の滅亡、 地球の白亜化・結晶化は避けられない。
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長きにわたる移動が終了し、まもなく人類反抗軍が種子島Ⅱに上陸しよう、その時であった。
荒波を乗り越えて、種子島Ⅱまでもうすぐの距離に迫った船団の目前で、驚愕すべき事態が発生していた。
不測の事態を象徴するかのような黒く曇った空。
その薄黒い雲を突き抜けて、かき分けて、天空から隕石群が降り注いだ。
種子島Ⅱを目指す人類反抗軍の船団を攻撃目標にしているのではない。
明らかに種子島Ⅱを狙って隕石群が降り注いでいる
明らかに種子島Ⅱに何があるのか、敵は知っているかのように。
ハヤセは驚いていた。
「どう言う事? 敵はあそこに発射基地があることを知っているの? 敵に情報が伝わっていること?」
ハヤセは不安な表情を浮かべて船の総合司令室で自分の横に立つマーシャの顔を見る。
「敵はあらゆる情報を収集・分析している。こちらの動きも予測できて当然かもしれない。」
じっと前を見るマーシャ。
敵にこちらの動きが筒抜け状態なことに、ハヤセは不安を隠せなかった。
「月からのマスドライバー隕石群、すべて種子島Ⅱ付近に着弾しています。」
モバイル式の総合司令コアで確認するマヤ。
モバイル式、と言っても結構大きい。
だが、この小さな機器が大型PC以上の性能を持つ。
マヤの報告を聞いて、ハヤセが問う。
「規模は? 隕石群のサイズは?」
ハヤセの問いに、目を素早く動かして応えるマヤ。
「すべて小型の隕石群の模様。爆弾ではありません。」
「爆弾ではない? では何を?」
マヤの答えに焦りを隠せないハヤセ。
マーシャが達観して応える。
「あれは、カプセルね。攻撃兵器を送り込む、輸送カプセル。」
マーシャの答えに目を細めて眼前を見るハヤセ。
確かに複数の隕石群が落下しているのに、強烈な衝撃が少ない。
月からのマスドライバー=隕石爆弾が落ちたのであれば、巨大な衝撃と数百キロにわたるクレーターが形成されるはずである。
だが、今目前に落ちている隕石群の衝撃等のインパクトは小さい。
衝撃波も起きなければ、海への落下による大津波等は発生していない。
敵はなぜ大型のマスドライバーで種子島Ⅱを巨大クレーター化しない?
敵は人類側の動きをどこまで知っている?
敵は単に探っているだけなのか?
あるいは面白がって放置しているのか?
それとも正に『高みの見物』と言う事なのか?
マヤが操作する総合司令コアの複数のモニターに天から飛来し、海に、種子島Ⅱに落下する隕石群の数量が表示される。
とてつもなく大量の隕石群の雨である。
種子島Ⅱに落下する隕石群はまるで火山噴火かと思わせるほどの噴煙を複数あげている。
「何を? あの輸送カプセルは、何を送り込んでるの?」
ハヤセの問いに、答えはすぐにわかる事となった。
海に、そして種子島Ⅱに落下した隕石群から、白く多角形のコアが隕石カプセルを割って出現する。
それらは、白く多角形のコア・ボディから、複数の触手をワラワラと伸ばし始めている。
イカ?
タコ?
それらであればよほど良かったかもしれない。
種子島Ⅱに落下した敵の多角形兵器は、島に構築されたHLV重量物打ち上げ発射基地を破壊しようと、集合し始めている。
海に落下した多角形兵器は、ハヤセたちが組む船団へと攻撃を始めようとしていた。
ハヤセが緊急指令を出す。
「突撃兵団、各個緊急出撃! 出れる人は出て! まずは船団を、次に種子島Ⅱを防衛して!」
その言葉を待つまでもなく、マーシャが総合司令室を飛び出そうとする。
それを見てハヤセが声をかける。
「私も、私もいくわ!」
ハヤセの決断に異議が唱えられる。
マヤである。
「でも、先輩!」
マヤの戸惑いにハヤセ、素早く。
「できるでしょ、あなたなら。」
珍しくマヤ、戸惑いを見せる。
いくら作戦副司令とはいえ、いままで問題なく冷静にこなしてきたとは言え、今眼前に広がる隕石群の雨と押し寄せる多角形兵器の数々に戸惑いを見せていた。
マーシャがフォローに入る。
「だめよ、あなたはここにいて。まだ目的地にも上陸していないし。あなたはマヤとともに、全船団の無事上陸を指揮して!」
マーシャの言葉に反論するハヤセ。
「でも!」
「敵ドーム基地攻略の時とは状況が異なるわ。あの時はそうするしかなかった。でも今は、作戦上まだ選択肢はたくさんあるわ。」
マーシャの説得に憮然とするハヤセ。
マーシャが続ける。
「私はこの作戦のオブザーバー。私の目的はこの作戦が成功する事!」
自分だってそうだ。
ハヤセはそう思った。
だがハヤセは船の総合司令室に残ることにした。
選択肢がなかった敵ドーム基地攻略時と異なり、まだこの先に起こるであろう、あらゆる事態を想定する必要があった。
素早く重機動歩兵を装着したマーシャ、フル装備で迎撃に出る。
荒れ狂う海。
降り注ぐ隕石弾群。
その中から現れる敵の多角形兵器。
イカ形状。
タコ形状。
その他、貝形状の多角体からニョキニョキと触手を伸ばしている。
強風が吹く環境下でホバリングが不安定だ。
ホバリングをするのを止めて、船体に身を寄せる重機動歩兵のマーシャ。
「不安定だ。動きずらいわ。」
するとマーシャの背後から敵の攻撃を受ける。
「あっ!」
後ろから伸びた多角形兵器の触手に捕まるマーシャの重機動歩兵。
船が揺れ、風も吹き、敵の触手にうまく対抗できない。
ぐるぐると触手がマーシャの重機動歩兵の身体に絡みつき、動けない。
ギシギシと締め付けが始まって、重機動歩兵のボディが軋み出す。
「しまった、こんな所で!」
色違い特注のマーシャ用の重機動歩兵の装備とは言え、ギリギリと触手が食い込んでいく。
足に、腕に複数の触手が重く絡みつき、マーシャは動くことができなかった。
やがて重装甲の鎧が軋み凹み始めていく。
「私はこんな所で! みんなの敵討を! ツングースカでの敵討を!」
苦痛と無念の感情が溢れるマーシャのピンチに助けが入る。
複数の超電磁砲のレールガン弾丸が敵多角形兵器の本体を貫いていく。
凹むボディ。
機械とガラスが擦り合うような『悲鳴』を上げて機能停止していく敵の貝形状の多角形兵器。
触手攻撃が無効化され自由になるマーシャ。
誰?
誰が自分を助けにきた?
「大丈夫ですか?」
カミヤであった。
「ありがとう。」
驚きの表情を浮かべて助けにきたカミヤの顔を見るマーシャ。
「あなたは?」
マーシャの問いかけに彼女の顔を見ずに周りを威嚇するカミヤ。
「あの時、一緒に戦った者です。」
マーシャは思い出した。
敵ドーム基地攻略時、一緒に戦った兵士の一人である事を。
マーシャは嬉しさと悔しさが交差した。
「また助けてもらっちゃったね。次こそは私が君を助けるからね。」
マーシャはカミヤの表情を見たかった。
しばしの間、じっとカミヤの顔を見つめていた。
似てる。
誰かに似てる。
誰だろう?
そう思ったマーシャの思考をカミヤが停止させる。
「敵、来ます!」
カミヤの声に銃器を構えるマーシャ。
マーシャとカミヤの二人は見事なコンビネーションで敵の攻撃を撃破していく。




