第13話 地下洞穴ワームホール攻防戦(第1部・全15話)
何か上はすごい事になっている。
地下洞穴ワームホールを進む機動歩兵部隊のキリはそう思った。
揺れる。
ものすごく揺れる。
何やら震源は地上のようだ。
普通地震は地下で起こるもの。
だが今の振動は地下ではない。
キリたちが進む地下ではない。
地上で何か起こっているようだ。
激しい振動が地下に入るキリたちにも伝わってくる。
作戦中の通信がいろいろ入ってくる。
混乱しているようだ。
指揮系統も混乱している。
それはとてつもない事だ。
地上を進んでいた機動歩兵部隊が、付近にできていた地下洞穴の入り口の洞穴から入ってくる。
大量の地上部隊が逃げ込んでくる。
情報を総合すると、地上では巨大な扇風機の刃というか、水平ギザギザパワー
カッターが回ってて近づけないらしい。
キリたち機動歩兵の情報モニターにも、それらしい映像が入ってくる。
どうやらここを行くしかない。
地下洞穴ワームホールを進んでいくしかない。
その結論に達したらしい。
キリがふと見ると、地上部隊だった機動歩兵の中に、見慣れた顔がいる。
カミヤだ。
げっ!
キリは思わずそう思った。
だが、少し離れた場所でキリと視線のあったカミヤはそっけない。
「お。」
それだけだ。
反応はそれだけである。
カミヤはキリを相手にしていない。
キリはカミヤを相手にしたくない。
相思相愛?
win-winだ。
まあいい。
別にカミヤは好きではないし。
昔からの知り合い?でしかない。
という事は。
選抜エリートであるはずの突撃兵団のカミヤがここにいるという事は。
そう思っていると声が聞こえる。
「おー、キリ君じゃない。」
同じく地上部隊で突撃兵団のアヤカ先輩がキリに近付いて声をかける。
「元気? また会えたね。でもまあ、また会えるとは思っていたけれど。」
殺伐とした殺気が蔓延する戦場に、アヤカ先輩のマイペースの口調がとても
穏やかで爽やかな雰囲気を醸し出す。
「あ、ええ。アヤカ先輩もお元気のようで。」
戸惑ったキリは思わず答えた。
いったい何を言っている。
なんと言う会話をしているんだ。
ここは明日をも知れない戦場なのに。
キリは自分のはなった言葉に戸惑っていた。
「そう言えば、カミヤもさっき地上から降りてきましたよ。」
しまった!
なんてこった!
なんでキリ自身が嫌う奴の話題なんて出すんだ。
ここはカミヤの件は話に出さなかった方が良かったのに。
アヤカ先輩は答えた。
「ああ、そうだね。彼も私と同じ突撃兵団だし。」
突撃兵団=それは通称エリート選抜兵団の事だ。
キリは階級下の捨て駒突撃隊の一員だ。
違う。
キリはアヤカ先輩と同じではない。
「同じだね。」
アヤカ先輩が唐突に笑いながらフレンドリーに肩をぶつけてくる。
「え?」
キリは驚いてその意味がわからなかった。
「私たち、同じだね。ほら、お揃いの機動歩兵の装備。」
そう言ってアヤカ先輩は自身の機動歩兵の武装スーツを見せてくる。
キリが着ている機動歩兵の武装スーツは全く同じものであった。
唯一異なるのは肩に示された階級章だけである。
明らかにキリの方が格下なのに、アヤカ先輩は気にもとめてなかった。
キリは話題を変えた。
「そう言えば、アヤカ先輩たちは地上を進んでいたんですよね。どうなっているんですか、地上は?」
その言葉にアヤカ先輩は弾けるように喋り出した。
「私たち地上部隊は普通に侵攻してたんだけどさ、そうしたらあの、
敵ドーム基地、触手をいっぱい水平に伸ばして回転し出したのよ。
風圧もすごいし、先頭を走っていた通常兵器戦車群とかモロあたりで。
前に進めないし、指示もあったんで、洞穴の穴からここに。」
なるほど。
確かにそれでは前に進めない。
「という事は地上は膠着状態なんですね。」
キリの問いにアヤカ先輩は淡々と答える。
「そう。だから地下洞穴ワームホールから進んで、敵ドーム基地の中枢に
突撃して回転を止めて、中からも攻撃ってことね。」
なんとも穏やかな空気が流れる。
キリにとって殺伐とした日々の繰り返しだったので久々に癒された気分になった。
アヤカ先輩は続けた。
「今、私たちのいるポイントはどこ?」
アヤカ先輩が装着しているモニターをチェックする。
モニターには地下洞穴ワームホールや敵ドーム基地の場所などの
位置情報が表示されている。
キリは答えた。
「ちょうど半分を超えて、敵ドーム基地まであともう少しのエリアです。」
キリはつい抽象的な事で答えを出した。
敵本陣から何キロとか、今の速度でどのくらい等の具体的な数字で答えなかった。
だがアヤカ先輩の返しにちょっとキリは戸惑った。
「この詳細な地図、あれでしょ? キリ君が本部に持ち帰った
ドロップアイテムを解析した結果でしょ?」
たぶん、そう。
たぶんそうだと、キリは思った。
だがちょっと恥ずかしいキリはつい本音で返してしまった。
「いや、僕は、偶然手に入れただけで。しかもあのドロップアイテムは
僕一人じゃなく、アヤカ先輩と、そう、三人で戦ったから得られただけで。」
あいつの名前を言いたくなかった。
カミヤの名前を出したくなかった。
だが自分自身に嘘をつくのが嫌であった。
しかし、アヤカ先輩はそんな事を気にもしていなかった。
「でも実際、切り取って手に入れたのはキリ君でしょ。」
いつものアヤカ先輩であった。
悪意がないさわやかな笑顔。
ネガティブな事があっても、前向きに進む。
嫌な事があっても、気にせず前に進む。
クヨクヨしない。
落ち込んだりもしない。
それがアヤカ先輩の魅力だった。
それがキリがアヤカ先輩に好意を寄せる根本的原因であった。
キリは嬉しかった。
またアヤカ先輩に会えた。
こうして二人の時間を持てる事が嬉しかった。
だが、楽しい時間はいつまでも続かない。
現実はすぐさまキリたちに押し寄せてきた。
地響きがする。
地上の敵ドーム基地回転による振動とは別の振動だ。
なぜならキリたちがいる地下洞穴ワームホール全体が、
新規に激しく振動し始めた。
各自の機動歩兵に配備されたセンサーが何かが接近している事を伝える。
「何か来る。」
キリが入手して分析結果された詳細な地下洞穴ワームホールの明細地図に
表示される接近物。
「これは?」
地下洞穴ワームホールを進む機動歩兵部隊全体が接近するものに対して
緊張して待ち構える。
音が、振動が激しくなる。
「来た!」
「見えたぞ!」
それは『肉団子』であった。




