第12話 進撃のマーシャ(第1部・全15話)
来る!
攻めてくる!
スキャンチューブがやってくる。
新型装備の地図モニターに浮かび上がる点滅群の数々。
気を引き締めるキリや周りの捨て駒突撃隊。
各自支給された新型兵器と新型装備を再確認する。
しばらくして、地震の如く地響きが伝わってくる。
やがてその振動は地下洞穴ワームホール全体に大きく伝わり、
天井から土塊や小岩の塊の小雨が降ってくる。
ワームホールをひた走るスキャンチューブの地響きが、
まるで生き物のような叫び声のように聞こえてくる。
どっちにしても、敵だ。
どっちにしても、倒さなくてはいけない。
キリは自身の手に持つ新型武器を確認する。
右手に絶対零度砲、左手に高重力圧力砲。
とにかく敵に遭遇したら、絶対零度で凍らせて、高重力砲をぶち込み、粉砕する。
凍らせて、重力でぶっ叩く。
わかりやすい攻撃方法だ。
頭でわかっていても、現実は躊躇する。
来た!
見えた!
センチネルヘッドの頭部を激しく上下に揺らしながら、白蛇のようなスキャン
チューブが、地下洞穴ワームホール狭しと何匹も押し寄せてくる。
きもい!
気持ち悪い!
異常に拒否する気分が込み上げてくる。
やる!
やってやる!
キリは予定通りに右手の絶対零度砲を発射し、氷結したのを確認して左での
高重力圧力砲を打ち込む。氷の塊が四方八方、上下左右にきれいに飛び散る。
センチネルヘッドは当然な事、白蛇もどきのスキャンチューブ本体もまるで
ガラスの粉のように飛び散っていく。
氷と言うか、ガラスというか、シリコンのような物質が細かく宙に舞い、
地下洞穴ワームホール内に充満する。
関係ない。
関係ねえ!
進むんだ。
このまま前に進むんだ。
凍らせて、高重力で破壊!
凍らせて、高重力で破壊!
まるで二丁拳銃使いのように、キリたち捨て駒突撃隊は対応していく。
いける!
これなら、いけるぜ!
機動歩兵の装備を固めたキリたち捨て駒突撃隊は、地下洞穴ワームホール内を
前進していく。
敵ドーム基地本丸を目指して。
* * * * * * * *
一方、荒野を進む地上部隊群。
先頭を進む通常兵器戦車群から大量に発射された火薬兵器群が、荒野の先に
はるか見える敵ドーム基地に光の筋のように軌跡を描き雨のように降り注ぐ。
作戦指揮を行う陸上機動戦艦で状況が複数モニターに表示される。
ハヤセが口を開く。
「敵ドーム基地の反応は?」
マヤが現在の状況を素早く目で追う。
「ありません。敵ドーム基地、現在沈黙中。」
その言葉に割と早いタイミングで反応するマーシャ。
「こちらの攻撃状況を分析しているのかも。」
その言葉を聞いたハヤセはマーシャの表情を確認するが、彼女はただひたすら
前方を見つめていた。
「そうかもね。マヤ、フォーメーションは維持できている?」
複数モニターをすばやく目視するマヤ。
「はい。攻撃フォーメーション維持できています。
先頭に通常兵器戦車群、その背後に絶対零度砲ツングースカ・ファープ戦車群、
続いて超重力砲戦車群を展開中。
私たちの旗艦陸上機動戦艦は広がる三角点の中央です。
機動歩兵群は私たち旗艦陸上機動戦艦の周りを移動中です。」
「私たちの陸上機動戦艦が一番背後に逃げるわけ行かないしね。旗艦だし。」
ハヤセの呟きにマーシャがぼそっと呟く。
「本当は一番後ろがいいんだけど。悪い意味ではなく。」
ハヤセはマーシャの音葉を理解した上で返答する。
「作戦指示を出す旗艦が、周りから見えないようでは士気に影響するし、
私たちはドンと腰を据えていないと。」
その言葉にマーシャ、
「そうね。どのみち逃げ場はないし。私たち。」
その言葉を聞いてハヤセは前を見つめる。
通常火薬兵器の雨が降り注ぐ敵ドーム基地。
一瞬、それらの攻撃と異なるタイミングで敵ドーム基地がわずかに反応があった。
「動いてる?」
「違う、回転している。」
敵ドーム基地全体が回転している。
それは迫り来る人類反抗軍に対抗するため。
たが、単に回転しているわけではない。
それまで敵ドーム基地に迫ってきた攻撃対象を謎の触手群で対抗してきた。
前回のGボンバーへの直接攻撃や、高高度を飛ぶ爆撃機への『威嚇』で
見せてきた謎の触手群。今回は回転する敵ドーム基地から人類反抗軍目がけ
水平に複数の触手を伸ばしている。
それはまるで、裸になった扇風機のハネのよう。
回転ドリルのようでもあり、水平の回転キザキザ・パワーカッターのようである。
極端な風圧をも引き起こし、回転する敵ドーム基地から、
ぐんぐんと伸びてくる触手群。
先頭を進む通常兵器戦車群に直接あたり切り刻む。
回転を増し伸びた先端の触手は、続く攻撃フォーメーションの絶対零度方戦車群や
高重力兵器戦車群を吹き飛ばす。
「まずいわ! 全艦ストップ! 緊急停止して!」
大型戦車ならまだしも、人の大きさの機動歩兵たちは彼方へと飛ばされていく。
数名の機動歩兵たちは地面に伏せ、触手カッターの直接攻撃と風圧に耐えている。
「このままではまずいわ。」
ハヤセが焦る。
マヤが現在の味方軍の配置状況を確認する。
「現状のポイントに停止すれば、これ以上敵の物理攻撃は届きません。」
マヤの言葉にハヤセ、マーシャに問う。
「現状のこの位置から絶対零度方と高重力波動砲を撃っても効果あるかしら?」
マーシャの顔が歪む。
「敵ドーム基地の、あの回転が停止しないと効果はどのくらい出るのかわからないわ。」
マヤが素早く対応する。
「シミュレーションによると回転している触手群の反射効果の影響で、
攻撃の効果は15%以下の模様です。しかも各機バラバラに飛ばされていますので、
攻撃対象への標準ポイント修正にかなりの時間が必要となります。」
マヤの素早い返答にマーシャは頷いて続ける。
「高高度からの空爆は用意できる爆弾を全て使っているし、
各機基地に戻って再空爆するにも半日必要なので現実的じゃないわ。
Gボンバー自体は試験用で予備のものはない。
絶対零度砲も高重力波動砲も一旦撃ったら再チャージに時間もかかる。
それに不安定だし、Gボンバーみたいに自爆の可能性もあるわ。」
そう言ってマーシャは結論を出す。
「やはり敵ドーム基地の回転を止めないとだめね。」
視線を一直線に敵ドーム基地を見据えるマーシャ。
何か思惑があるのかとふと疑問に思うハヤセ。
「どうする? このままここで見ていて根比べする方法もあるけど。」
「機動歩兵で撃って出るわ。」
「え?」
「え?」
マーシャのその言葉にハヤセとマヤがほぼ同時に同じ言葉を放つ。
「ここで黙って見ていても仕方ないわ。
私の目的は敵の分析と対抗兵器の実践実験。
敵の詳細が知りたいの。私も機動歩兵で出撃します。」
くるっと踵を返し、作戦司令室の出口に向かうマーシャ。
「でも、どうやって? 地上侵攻は危険だわ。まさか?」
ハヤセの問いにマーシャ、振り返って二人を見る。
「機動歩兵で地下洞穴ワームホールを進むわ。」
二人を見ていたマーシャの視線がモニター上の回転する敵ドーム基地を見つめる。
「ツングースカでの、仲間たちの敵討を、今ここで!!」
そう言ってマーシャは司令室を出ていった。
その姿を見て、一瞬息を呑むハヤセ。
「私も行きます。マヤ、ここは頼んだわよ。」
予想外のハヤセの言葉に一瞬驚くマヤ。
「え?」
マヤの戸惑いにハヤセはブレる事なく続ける。
「私も機動歩兵で最前線に行きます。あとは任せます。」
躊躇して悩んだマヤ、口を開く。
「先輩が行くなら、私も行きます! 私も機動歩兵で!」
マヤの決意を爽やかな笑顔で返すハヤセ。
「そうしたら、作戦の全体指揮はどうするの? 全てが混乱してしまうわ。
それにあなたは作戦副司令でしょ。」
マヤが不満そうな表情を浮かべる。
「でも! 先輩が行くなら、二人が行くなら、私だって!」
先輩風を吹かすハヤセ。
「だってバラバラになった絶対零度砲戦車群と超重力波動砲戦車群の攻撃体制の
再構築、誰が指示するの?」
「……。」
「複雑な計算式で再度全機再フォーメーションを配置して組むのよ。
できるでしょ、あなたなら。
全車両の発射角度修正、効率よくできる人、他にいて?」
ハヤセの言葉に視線を落とし少し考えるマヤ。
「わかりました。作戦行動指令、受け継ぎます。」
「ありがとう。まかせたわ。オブザーバーのマーシャに任せてはいられない。」
ハヤセはそう言って、モニター先の画面を見つめる。
「自分たちの故郷は、自分たちの手で取り戻すのよ!」
ハヤセのその目に、回転する敵ドーム基地の右上に見える、崩落した富士山が写り込む。




