第11話 夜空を赤く染めて(第1部・全15話)
『前進基地』という名のキャンプはものすごい事になっていた。
これまで見た事もない新兵器が複数実戦投入されていた。
そのうちのひとつが、とんでもなかった。
それはとんでもない兵器であった。
それはとてつもない破壊能力であった。
空の雲や空気が黒い穴に吸い込まれるほどの破壊力。
敵のドーム基地の天井部分が破壊され穴が空き、中が見えている。
だが内部がどうなっているのかは良くわからない。
何よりも驚いたのは、富士山が空中爆発に巻き込まれ崩落して、
シルエットが変わっている事であった。
いつも見慣れていた富士山。
当たり前のようにそこに存在していた象徴が、強烈に崩落しているのだ。
気軽に使える破壊兵器ではない。
驚きはまだまだ続いていた。
作戦は一旦終了したが次なる反抗作戦のために、前進基地では準備が着々と進む。
そして、また、新たに前進基地に配備される、見たことのない最新兵器の数々。
大きいモノから小さいモノまで。
いったいどこから配備されたものだろう?
いったいどこで作っていたのだろう。
ここがまるで実験場のようであった。
大きな重戦車群。
コンパクトで重厚なプロテクター装備の数々。
自身が配給された新型装備一式。
見た事のない、かっこいい武器。
キリは気がついた。
あれだ。
そうだ。
きっとそうだ。
ハヤセの横にいた、あの外人将校の手配だろう。
彼女がオブザーバーか何かで本作戦に参加していたのだろう。
キリは新しく配備された装備や武器を見て、それを確信した。
武器にはあまり馴染み深くない言語が表示されていた。
最初はそれがギリシャ文字に見えたが、それは違った。
キリル文字であった。
すなわちこう言う事だ。
ここは戦場。
確かに戦場だ。
だが実際は『実験場』でもあるのだ。
新しく開発した武器兵器一式、ここで実験するのだ。
実戦という名の実験。
ここは生き残りをかけた戦場であると同時に実験場なのだ。
とにかく敵ドーム基地に損害を与えたのは効果が高かった。
1/4ほどドームに穴が空き、そこから中が見えると言う見た目の結果は、
兵士たちの士気をあげる事となった。
全員に以降の作戦展開のブリーフィングが行われた。
全員が作戦室や会議室に入れるわけもなく、各自が持つ通信装備で確認する。
キリたちの捨て駒突撃隊に新しく支給された装備には幸いそれがついていた。
以前はそのような『高価』なモノは支給されていなかった。
だがキリや捨て駒突撃隊の仲間たちはその差別を何とも思わなかった。
一寸先は闇。
これからどうなるかわからない。
自分たちの未来がわからない。
いちいちそんな事で不服を言うより、日々生き残っていく事が重要である。
みな、淡々と作戦本部のブリーフィングを黙って見ていた。
キリが渡したドロップアイテムが作戦進行に効果はあったのだろうか?
そもそもあのドロップアイテムはキリ自身が一人でゲットしたモノではない。
だけどその分析がどうなったのか気になっていた。
ブリーフィングの画面に登場したハヤセとマーシャの姿を見て、
キリはふとその事を思い出していた。
マーシャが脇に立ち、ハヤセが画面中央に立って、
以後の作戦進行を説明している。
人類反抗軍は新しく支給された武器と兵器で一挙に敵ドーム基地へと
進行しそこを制圧する。
作戦は地上部隊と航空兵器群と地下洞穴ワームホール部隊の三面作戦となった。
誰しも口を開かなかった。
まあ普通そうなるだろうな、と言う誰しも思う結果であるからだ。
撤退はあり得ない。
それはこのエリアを、自分たちが生きていく世界を放棄する事になるからだ。
* * * * * * *
オレンジ色に染まった夕方の空に、複数の飛行機雲が空を駆け抜けていく。
まずは空からの攻撃の始まりだ。
残存米軍と残存日本軍、そして残存ロシア軍の空爆機が仲良く高高度を飛行する。
作戦通りに複数の基地から発進した爆撃機群は見事なタイミングで合流し、
攻撃目標地点へと並走していく。
まずは通常兵器の爆弾による敵ドーム基地周辺を一掃する。
確かに異常事態であるし、それは致し方ない。
富士山嶺を中心とする広大なエリアを爆撃する事に、人々はいい感じはしない。
だがそんな事は言っていられない。
人類反抗軍による爆雷攻撃は一斉に始まり、敵ドーム基地周辺の富士山嶺は
薄暗くなったエリアを点々と輝かして照らしていく。
そして浮かび上がる富士山のその姿。
以前とは異なる崩落した富士山の姿が、人々の目に複雑な気持ちを染み込ませる。
『卵が割れた太陽虫』状態の敵ドーム基地は反撃を試みる。
例の『長い触手』だ。
『卵が割れた太陽虫』から複数本の長い触手が抵抗すべく天高く伸びていく。
だがはるか高高度に飛行機雲の筋を形成して飛行する爆撃機群には、
長い触手群の悪あがきは無駄な抵抗となっていた。
敵ドーム基地付近をきれいに一掃する空からの爆撃は、付近の障害物を排除することとなる。
だが同時に人類反抗軍の一団も敵側からきれいに見えてしまうと言う諸刃の剣状態となっている。
しかしそんな事は言ってられない。
明らかに効果的に敵基地へのダメージを与える事ができた流れで、それを止める事はできない。
* * * * * * *
地下シェルター最深部に移動している作戦指令室内。
マヤが複数のモニターを注視している。
その背後左右に立つハヤセとオブザーバーのマーシャ。
三人とも次々にモニターに表示されるデータから目を外さない。
ハヤセがマヤに問う。
「陸上機動戦艦、行ける?」
マヤが素早く答える。
「陸上機動戦艦、行けます。」
その返答を聞いてハヤセがマーシャの顔を見て問う。
「行く?」
マーシャはじっと正面を見据えて答える。
「やりましょう。」
その答えに一瞬の間があり、ハヤセが前を向いて意を決して口を開く。
「地下シェルター含む移動基地を陸上機動戦艦に変形起動開始。」
ハヤセのその言葉にマヤが次々とオペレーションの指示をインプットする。
地下シェルター最深部に移動している作戦指令室全体が激しく振動する。
まるで地震のようだ。
ハヤセが叫ぶ。
「船体起こせ!」
続けてマヤが復唱する。
「船体、起こします!」
地下深く避難して沈んでいた前進基地エリアのあちこちから岩石が盛り上がり、
地下に埋もれて建設配備されていた『前進基地』が『陸上機動戦艦』に変形し、
土塊と岩石を弾き飛ばしながらその全貌を表す。
その周りには複数の地上部隊の絶対零度の超兵器ツングースカ・ファープ戦車群、
高重力砲戦車群、通常火薬式戦車群、そして起動歩兵部隊が隊列を
なし反抗の準備に備えている。
ハヤセが指示を出す。
「敵ドーム基地に向け攻撃を開始する。全軍出撃!」
マヤが復唱して全軍に伝える。
「全軍出撃! 目標、敵ドーム基地!」
人類の反抗軍の一団が、空爆で障害物が一掃され開かれた荒野を前進する。
オブザーバーのマーシャが問う。
「ここは通常兵器でまずは先制攻撃?」
ハヤセが笑みを浮かべる。
「そう。セオリー通りに。」
頷くマーシャ。
マヤが口を開く。
「通常火薬式戦車群、敵ドーム基地に向けて、全軍発射!」
夜の闇に浮かぶ新月の赤い月。
それはこれから起こる事態を凝視しているかのように。
暗闇の中を通常ミサイル群が光の帯の軌跡を美しくも描いていく。
複数の光の帯が、はるか先の敵ドーム基地に向けて撃ち込まれていく。
地下洞穴ワームホールを進む捨て駒突撃隊員たち。
複数の兵士たちが進んでいく。
地上での一斉攻撃が開始されたのだろう。
激しい振動が地下洞穴ワームホール全体に爆撃に合わせて地震のように伝わってくる。
キリは爆撃の振動でワームホール天井からこぼれ落ちてくる粉々の小さな岩を避けながら進んでいく。
「始まったか。」
前回の地下洞穴ワームホール侵攻時とは違い、今回は最新装備をつける事ができた。
前回とは違い、分厚い装甲やサポート駆動系も装備されている。
前回はなかった通信装備もついている。
よくみるとキリル文字が表示されたりもする。
外国軍から支給された物なのか。
だが今はそんなことを言っている場合ではない。
いきなり実戦テスト配備かもしれない。
だが今はないよりマシだ。
これらの新型装備、外国軍からであろう支給された装備。
これらは地上部隊に配備されたであろうアヤカ先輩やカミヤたちとも
同じ装備なのか、違うのか、気にはなったが、今はいい。
とにかく生き残ろう。
そう思っていると全軍一斉の通信連絡が入る。
「こちら作戦司令室のハヤセです。全軍に伝えます。」
この声は。
あの人だ。
本部エリアでドロップアイテムを渡したハヤセ作戦司令だ。
その声を聞いて、キリはあの時の様子を思い出した。
あの時あった彼女がハヤセ作戦司令だ。
自分はハヤセ作戦司令と直接会った。
自分はハヤセ作戦司令を知っている。
捨て駒突撃隊一員の自分としては
『まるでしがないサラリーマンが社長にあってお褒めの言葉を頂いた』感覚でちょっと嬉しかった。
ハヤセ作戦司令が続けて作戦を説明する。
「先に入手したドロップアイテムの分析により、敵ドーム基地の詳細と
地下洞穴ワームホール攻略最短ルートが判明しています。」
先に入手したドロップアイテム。
そう。
そうだ。
自分が手渡したドロップアイテム。
それが有効活用されたんだ。
キリは嬉しかった。
自分が認められたかのようで嬉しかった。
キリを含む全軍装備のヘルメット付属モニターに詳細な地図が表示される。
ハヤセは続けて指示を出す。
「地上部隊は通常弾攻撃の後、目標敵ドーム基地に対し絶対零度ツングースカ・ファープを展開、
続けて高重力攻撃を与えて攻撃します。」
キリはまだドロップアイテムの事を考えていた。
自分が手渡したドロップアイテム。
自分が。
そう思ってキリはちょっと躊躇した。
自分が、ではなく、自分たち、か。
そう思った時、アヤカ先輩や、そしてあまり好きではないカミヤの顔が浮かんだ。
いい。
今はいい。
とにかく前に数もう。
ハヤセの声が続けて響く。
「地下洞穴ワームホール侵攻部隊は表示された最短ルートを使って進んでください。」
ヘルメット付属モニターに自分たちのいる位置と、敵ドーム基地へと向けた
地下洞穴ワームホール最短ルートが表示される。
この先だ。
この先を進んで、とにかく今は生き残りんだ。
キリがそう思って気を引き締めたタイミングで、続けてハヤセの声が響いてくる。
「取り戻しましょう、私たちの世界。今ここで。
全員協力して、力を合わせて、目の前の敵ドーム基地を落としましょう!」
ハヤセのその力強い『演説』に、キリはいっそう意識を集中させた。




