腰が痛い
『ぬぅ……』
「どうした?」
部屋でパソコンを使い、情報収集をしていたら頭の中でルビウスの声が聞こえてきた。
なんだか珍しく声のトーンが低い。
トモナリは悩ましげにも聞こえるルビウスの声に手を止める。
「どしたのだ?」
お腹にユシルを乗せて寝ていたヒカリにもルビウスの声は聞こえている。
ユシルには声は聞こえていないので、今もスヤスヤ継続中だ。
『なんだかここしばらく……腰がピリピリと痛んでな』
「歳なのだ?」
『ぶっ飛ばすぞ、チビ助が!』
「なにおぅ!」
「こらこら……喧嘩しない」
トモナリは苦い顔をする。
「にしても……腰痛いって……痛くなるのか?」
ルビウスはこうして会話もできるが、かなりイレギュラーな存在である。
普通の生物ではない。
元々はドラゴンであったのだけど、今は自分の体の一部を使って作られた剣に宿るドラゴンの意思でしかない。
つまり実体を持たない意思だけの存在なのである。
痛いも何もないだろう。
召喚して体がある時なら痛みを感じる。
ただいまは召喚もしていない。
なのに腰が痛いというのだからトモナリは不思議に思っていた。
『妾もよく分からんのだ』
ルビウスの方も困惑していた。
ここまで体に不調を感じることなどなかった。
意思、思念だけの存在になってしまったことはもはや受け入れている。
今の状態を受け入れてしまうと思いの外悪くはない。
自由こそないものの、トモナリはちょいちょい召喚して実体化してくれるし、トモナリが出してくれる食べ物は美味い。
トモナリを見ていれば色々な刺激的な出来事もあるし、ドラゴン的な気の長さで過ごしていれば何もない時間など無いに等しい。
一方で体の調子は意思だけの存在であるので、不調なところなど一つもない。
感覚としては常に絶好調に近いぐらいだった。
それなのにしばらく腰が痛むのだ。
理由も分からないし、腰が痛むというと年寄りくさいので黙っていた。
けれどもいい加減謎の腰の痛み耐えられなくなってきた。
「うーん、なんだろな?」
トモナリはルビウスを召喚してみる。
ミニ竜姿のルビウスはいつもより腰が曲がっているような感じがある。
「だいじょーぶ?」
いつの間にかユシルも起きてしまった。
「揉むのだ?」
「……ちょっとやってみてくれ」
ルビウスがベッドに寝転がり、ヒカリとユシルでルビウスの腰を揉む。
ヒカリがルビウスの腰を揉むのはなかなか面白い光景だなとトモナリは思った。
「うぅぅぅうむ……楽にならんのぅ」
こういった時に揉んでもらうと気持ちよくなるのが普通だろうに、今は揉んでもらって気持ちよくはなっているのに痛みは和らがない。
「何が悪いのだ……」
腰が痛いなど年寄りみたいではないか、とルビウスはショックを受けている。
まだまだ年寄りと呼ばれるようなつもりはない。
ヒカリが年上扱いをするだけ、ルビウスとしてはまだ若いお姉さんぐらいのつもりであった。
「なぜだぁぁぁぁっ!」
そもそも思念体なのに腰が痛くなることがおかしい。
ルビウスはベッドの上で悶える。
「うーん……ルビウスに何かがあった」
原因はどこかにあるはずだ。
腰が痛くなったということは何かの問題が起きているとトモナリは頭を悩ませる。
「あっ!」
「ぬう? なんだ? 何か思いついたのか?」
「もしかして……」
トモナリはインベントリを開く。
そしてルビウスを取り出した。
赤い剣のルビウスである。
「ああ、これが原因かな……?」
「なんなんだ?」
「……刃が小さく欠けてる」
「なにぃ!?」
剣のルビウスもルビウスである。
むしろ剣のルビウスが本体とも言えるかもしれない。
思念体のルビウスの不調は剣のルビウスから来ているのかもしれないと考えたトモナリは、剣をチェックした。
すると赤い刃に小さな欠けがあるのを見つけたのだった。
「わ、妾が……か、欠け……」
ルビウスはショックを受けたようにふらつく。
「最近メンテナンス怠ってたから……いや、あの鉄球のせいか?」
ルビウスは頑丈な武器だ。
最初の頃はしっかり戦うごとに状態を確かめていたのだけど、傷ひとつつかないルビウスにチェックを怠りがちになっていた。
普通の武器ならある程度戦ったらメンテナンスは必要になる。
ルビウスは普通の武器ではないので、過信していたところはあるかもしれない。
あるいは戦った敵の一撃が強かったか。
最近で戦った敵は強かった。
オーガの一撃なんかは相当な破壊力があった。
ただオーガの一撃をルビウスでまともに受けたりはしなかったので、次に考えられるのは傭兵のリーダーの戦いである。
傭兵のリーダーもそこそこ強かったのだけど、やはり印象に残っているのは特殊な武器だ。
ルビウスでも切ることができなかった鉄球は相当硬いものだった。
何回か傭兵のリーダーの剣を受けたりした記憶もある。
もしかしたらその時に、と思った。
これまでの戦いでもだいぶ無理はしてきた。
そうしたものが一気に出てしまった可能性は否めない。
「ぬおおおお……」
剣が欠けたことがルビウスは相当ショックらしい。
「……これは、修理だな」
欠けた剣を放っておけばいつ折れてしまうか分からない。
ルビウスの腰のためにも剣を直す必要があるとトモナリは小さくため息をついてしまう。




