天才vs天才5
「‘なら……引退するのはどうだ?’」
「‘なんですって?’」
「‘全部やめて……俺の女になれよ。俺が養ってやる。お前は何もしなくても王妃のような生活を送れる。お前と俺の子なら……最強の覚醒者ができるかもしれない’」
今の会話の流れのどこにこんなものぶっ込んでこられるような隙があったのかメイリンは分からない。
「‘とうとう本性現したわね’」
メイリンは呆れたようにため息を漏らす。
天才の名を奪われたから。
あるいはメイリンの方が注目されたから。
ウーが強くメイリンに対して対抗心を燃やしていたのは、ただそれだけじゃない。
強い劣情。
言ってしまえばメイリンのことを支配したいという欲望がウーの中にはあったのである。
「‘最初から……それが目的なんでしょう?’」
ウーはなんとも歪んだ笑みを浮かべている。
メイリンがトモナリとベタベタして不快しそうにしていたのも、ドロドロとした感情がウーの底にあるからだった。
メイリンが頭角を表す前のウーは天才と呼ばれ、国の方でなんでも用意してもらえるような待遇を受けていた。
相手がたとえ女性であっても、ウーが欲しいといえばその通りになるのだ。
しかしウーが望んでも手に入らなかった女性が一人いる。
それがメイリンである。
メイリンが子供を助けた後、本気を出せば子供を奪還できたかもしれない。
しかし子供ではなく、裏切り者のメイリンが重点的に狙われた。
その背後にはウーがいた。
「‘今ならまだ間に合う。自ら火中に身を投じることなどないだろう!’」
「‘嫌よ。あなたの犬になるぐらいなら首を掻っ切るわ。…………あなたのね’」
「‘くっ!?’」
赤い剣が放たれる。
まるで巨人が握って突いてきたかのような破壊力を持った剣をウーはギリギリかわす。
「‘それに私は運命の人を見つけたのよ。たとえ振り向いてくれなくとも、あなたで妥協するよりも何億倍もマシなの’」
「‘あの男のどこがいいんだ!’」
「‘作られた天才じゃないところかしら’」
ウーは小さい頃から霊薬を与えられ、装備も最上級のものを身につけてきた。
凡才であっても、覚醒者が少ない国に行けばトップになれるほどの待遇を受けてきている。
もちろんウー自身の才能はあったが、計画的な育成計画で作り出された天才であることは否めない。
そしてそれに伴い、ウーの性格も歪んでしまった。
「‘本当に……ズルいスキルだよな!’」
メイリンはその場から一歩も動かず二本の剣を操る。
体の制約によらず、自由な角度から威力を損なわずに剣が飛んでくるメイリンの御剣術は恐ろしい技である。
破壊力を維持するためには魔力も必要だし、剣を扱う高い経験値に加えて二本もの剣を同時に操る処理能力も兼ね備えねばならない。
御剣術そのものはメイリンのスキルによるものでも、それをズルいとまで言わせるのにはやはりメイリンの能力の高さがあった。
「‘だが……俺もお前を超えるべく努力してきたんだよ!’」
ウーが青い剣を上から叩きつける。
青い剣の軌道が変わって地面に突き刺さる。
間髪入れずに飛んでくる赤い剣を回避すると、一気にメイリンに向かって走り出す。
「‘近づけば勝てると思って?’」
「‘近づかねば負けるしかないだろう。お前の隙は多くない。一撃で決める!’」
ウーの剣に魔力が集まっていく。
「‘あら、それは厳しそうね’」
メイリンにも一発はある。
しかしメイリンの強みは常に高い威力を発揮することであり、瞬発的な攻撃力ではウーの方が強いことを知っている。
「‘スキル……’」
「‘ダーリンが被害受けちゃ大変だから、その前に止めなきゃ’」
メイリンがクイっと指を動かした。
次の瞬間、ウーの肘から先が飛んでいった。
「‘ぐああああっ!’」
ウーの腕から血が噴き出す。
「‘さ、三本目……だと!?’」
メイリンの目の前に黒い剣が浮かんでいる。
赤でも青でもない第三の剣に、ウーは目を見開き驚いている。
「‘どうやって……!’」
メイリンの御剣術も万能ではない。
実は色々と制限があった。
「‘あなたが努力しているように、私も努力しているの。同じように努力してるなら……私とあなたの差は永遠に縮まらない’」
メイリンも遊んで生きているわけではない。
ウーがどう動くのかしっかりと見ていた。
確かに強くなっている。
しかしそれは純粋な能力の底上げであって、これまでと戦い方が変化していたわけじゃなかった。
「‘実戦で見せたのはあなたが初めてよ’」
三本の剣がメイリンの周りに集まる。
二本でも大変なのに、メイリンは三本も操っている。
頭にかかる負担も相当なものだろう。
三本目の黒い剣はメイリンの切り札だった。
ここでも見せるつもりはなかったのだけど、ウーの攻撃を止めるためには仕方なかった。
周りにトモナリたちがいないのなら逃げるという選択肢もあったかもしれない。
「‘俺のことを……殺すのか……’」
「‘禍根は残さないのが一番よ。私は善人じゃないの’」
「‘いいのか! 祖国が黙って……’」
メイリンが指を振る。
黒い剣が動いてウーの首を刎ね飛ばす。
「‘ここであなたたちが全滅すれば誰が出来事を知るというの?’」
ためらいはなかった。
一撃で勝負が決まるような天才同士の駆け引きの結果はなんともあっけないように見えてしまうのだった。




