古代遺跡4
「‘あなたたちがどれだけ強くなったのか、見ものね’」
「‘今ならメイリンにも負けないさ’」
「‘あら、言うわね?’」
勝てると断言することはできない。
まだメイリンも成長しきっていないが、トモナリが目標とする最強クラスの覚醒者である。
トモナリの目的はこれから訪れる試練を乗り越えて世界を救うこと。
そのためには周りのみんなの人のレベルアップや強者の生存も大事だけど、自分自身が強くなることも大事である。
ここまでレベルを上げ、スキルを獲得し、戦いを通じて経験を積んできた。
交流戦の時のように勝ちを譲ってもらわねばならないよう圧倒的な差はかなり縮まっているはずだ。
「‘確かにあなたの話は噂にも聞いていたものね’」
今本気で戦えばどちらかが命を落とすような死闘になってしまうだろう。
ただ勝てるとも確実に言えない。
負ける可能性の方が今のところはまだ高いかもしれないとは思う。
「トモナリ君、モンスターが来るよ!」
少し前に出ていたミズキが接近するモンスターを見つけた。
「あれは……レッドゴブリンだ!」
コウが前方に目を凝らす。
迫ってくるのは赤い肌をしたゴブリンの集団だった。
ゴブリンといえば緑色の肌をして、基本的には弱いモンスターであるというのが多くの人の共通認識である。
トモナリたちもアカデミーに入ってすぐ、経験を積むためにゴブリンと戦った。
しかし実はゴブリンが油断ならないモンスターであるということを強い覚醒者ほど知っている。
「サーシャ、前に!」
「うん」
鋭いナイフを持ち、胸当てのような防具まで身につけた赤い肌のゴブリンの前にサーシャが出る。
「えっ……」
盾を構えたサーシャは当然にレッドゴブリンに攻撃されると考え、衝撃に備える。
けれどもサーシャに想像していたような衝撃はなかった。
「ディーニ、コウを守れ! 魔法使いを狙ってくるぞ!」
レッドゴブリンはサーシャを攻撃しなかった。
盾を構えたサーシャの横をすり抜け、そのままトモナリたちに迫る。
タンクがモンスターの攻撃を受け止めて、状況をフラットにしてから戦う。
これは多くの戦いで用いられる戦法である。
混戦になるのを防ぎ、戦線を前に維持することで魔法などで攻撃もしやすくする効果がある。
しかしレッドゴブリンはサーシャを無視した。
これが上級のゴブリンの厄介さ。
「狡猾だな」
数が多い、すばしっこい。
そんな特徴もあるが、ゴブリンの一番の特徴はその狡猾さだ。
他のモンスターがあまり見せないような賢さがゴブリンにはある。
不意をつき、隙を狙い、相手の嫌がることをする。
弱いゴブリンだとできることにも限界はあるし、狡猾さでは埋められないほどに弱い。
しかしゴブリンの能力が高くなると、その狡猾さが力を発揮し始める。
「サーシャ、前を向け!」
「え、あっ!」
レッドゴブリンの数体がサーシャを無視した。
サーシャは後ろを振り向いてしまったが、レッドゴブリンはまだ前にもいる。
後ろを向いたサーシャにレッドゴブリンの刃が迫る。
盾で防いだが少し危ないところだった。
これがレッドゴブリンの狡猾さ。
タンクを無視し、気が逸れたところで再びタンクを攻撃する。
騙されてはいけないのだ。
「サーシャ、少し下がって固まって対応するぞ!」
レッドゴブリンがサーシャを無視したせいで、サーシャが孤立する形となった。
「こいつらすばしっこい!」
「抜かさせませんよ」
ミズキはレッドゴブリンを斬りつけようとするが、サッと飛び退いてかわされてしまった。
一方で他のレッドゴブリンはコウを狙う。
タンクを無視して、遠距離攻撃を得意とする魔法使いを攻撃する。
人同士の戦略ならやることもあるが、レッドゴブリンはそんな策も弄してくる。
けれどディーニは横を抜けようとするレッドゴブリンの頭を掴むと、地面に叩きつけて潰す。
「動きが速いだけで、能力はそこまで高くない! 冷静に対処するんだ!」
それなり強いといっても所詮はゴブリン。
単体でトモナリたちを圧倒するような強さはなかった。
一瞬で混戦状態なったから少し混乱しただけで、しっかり戦えば十分に対処できる。
「‘か弱いと思った?’」
レッドゴブリンの一体が武器すら手にしていないメイリンを狙った。
一見すると弱そう。
そう見えることを否定はできないのだけども、実はこの中で最も強い。
「‘汚いわね’」
ナイフをひょいとかわし、足でレッドゴブリンの顔面を踏みつけてそのまま押し潰す。
トモナリと会話している時のような笑顔はなく、冷たい目をして頭が潰れたレッドゴブリンを見下ろす。
「どりゃー! ズバッ!」
「‘あら、ヒカリちゃんもやるものね’」
ヒカリはレッドゴブリンにも負けない速度で追いかけて、魔力を込めた爪で相手を切り裂いている。
お飾りペットでないことはメイリンも知っているけれど、ヒカリも交流戦の時とは比べ物にならないぐらい強くなっていると微笑ましい気持ちになっていた。
「守る!」
「‘新しい子……ユシルっていうのも油断できないわね’」
相変わらず防御のみだがユシルの能力も侮れない。
自動でトモナリのために防御してくれるなど、そんなのスキルを一個多く持っているようなものだと言える。




