子供救出作戦1
多くの国では早くても中学生ぐらいから高校生ぐらいまでが覚醒者としてのスタートを切る年齢である。
それぐらいの年齢になると体がしっかりとして、モンスターと戦う上でも精神的に安定している。
子供だとモンスターを前にして動揺したり、覚醒者として持つ力で他人を害する可能性が高い。
自主性を重んじて、不意な出来事による覚醒を除く子供の覚醒を禁じている国もあるぐらいだった。
早くから子供を覚醒させ、職業と初期ステータス、そしてファーストスキルで将来性を測る国もある。
優秀だと認められれば、子供であっても覚醒者としての教育が始まる。
レベルも上げるし、トモナリたちがやっていたようにトレーニングも行う。
英才教育を行い、世界でも有数の覚醒者を育て上げて国のために働かせるのだ。
「‘くふっ……なぜ、裏切った……’」
右腕を斬り飛ばされた覚醒者が顔をしかめてメイリンを睨みつける。
流れ落ちる血が地面の雪に染みて広がっていく。
「‘なぜ……? むしろ私はあなたたちが盲目的になれることの方が不思議でならないわ’」
血に濡れた剣を手に持つメイリンが周りを見渡す。
何人もの覚醒者が倒れていて、白い雪が真っ赤に染まっていた。
勝てないと分かっていただろうに、それでも立ち向かってきたので倒すしかなかった。
逃げればいいのに。
そうメイリンは思っていた。
逃げたなら後を追いかけてまで殺すことはなかった。
「‘いえ……まあ、気持ちも分かるわ。私もそうだったから’」
「‘何がお前を裏切りに駆り立てた……? 上にも気に入られ、力も持っているお前が、なぜ!’」
「‘周りを見ても分からない?’」
メイリンはため息混じりに答える。
「‘大義のためならと命を投げ出すことを強制させられる。だけど強制させられているとも思わない……洗脳のような状態’」
「‘洗脳? 我が祖国のために力を尽くすのは当然だろう!’」
「‘それだけ尽くしても何が得られるの? 上に気に入られても、圧倒的な力を持っても自由にはなれない……私が自由でいられるのは所詮鳥籠の中の話なのよ’」
「‘我が祖国が偉大になる、これ以外に何を得ようというのだ!’」
「‘どこまでも平行線ね’」
メイリンは悲しげな目をして腕を斬り飛ばされた覚醒者のことを見る。
どうしても相容れない考えというものは存在する。
全てのことに言葉を尽くして理解し合うことなど難しいのだと、メイリンは分かっていた。
「‘私はね。欲しいものがあるの’」
「‘欲しいものだと? 金か? そんなもので祖国を裏切るのか!’」
浅はか。
そう思って、メイリンはバカにするように腕を斬り飛ばされた覚醒者のことを鼻で笑った。
「‘私はね、幸せになりたいの’」
「‘……はっ?’」
予想外の答えに腕を斬り飛ばされた覚醒者は思わず呆然としてしまう。
「‘結婚もしたいし、子供も欲しいし、自由に生きたい。子供には祖国のためなんて叫んで死んでほしくないし、オシャレしたいし、美味しいもの食べたいし、恋が……したい’」
血まみれの剣を手に何を言ってるんだ。
そんな思いがどこかにはある。
でも望みを口にするのは誰にも止められない。
「‘そんなことのために……’」
「‘そんなこと? いいえ、とても大事よ’」
メイリンの脳裏に浮かぶのは、とある女の子の姿だった。
後ろを振り向くとそこには怯えたように固まる子供たちがいた。
記憶の中の女の子よりもまだ少し幼いぐらいの子たちは、まだまだ分別などついておらず、そしてくだらない思想にも染まりきっていない。
「‘昔約束をしたの。幸せになるって。その子の分まで生きるって……約束をしたのよ’」
「‘なに?’」
急に何を言い出すのかと腕を斬り飛ばされた覚醒者は顔をしかめる。
そろそろ血が足りなくなってきて、頭がぼんやりとし始めていた。
「‘あなたたちにほんの少しでも情があったなら、こんなことにならなかったのかもしれないわね’」
子供を使い捨てにしようとするからこんなことになった。
もっと他の方法があったかもしれないし、子供を大切にするような心があったのならこんなことをする必要はなかった。
「‘さようなら。次があるなら……そうね、日本がいいと思うわ。私もあそこ好きだもの。そこに生まれ変わってみると、マシな確率は高いわよ’」
メイリンは剣を横に振った。
「‘カッ……あ……’」
腕を斬り飛ばされた覚醒者は残った手で首を押さえる。
しかし首に赤い筋が走り、そして筋から血が流れ出す。
目に絶望の光が宿った瞬間、腕を斬り飛ばされた覚醒者の頭は首からズレてそのまま雪の上に落ちた。
「‘ふぅ……’」
遅れて体が倒れ、メイリンは小さくため息をつくと剣を振って血を払う。
「‘…………’」
メイリンが子供たちのことを見る。
視線を向けられてビクッとする子供たちは互いに身を寄せ合って一つにまとまっている。
前に立つ少年が震える手で剣を構えているけれど、メイリンは素手だろうと少年に負けることはない。
「‘あなたたちはこれからここで死ぬの’」
メイリンはできるだけ怖がらせないようにと優しい声色をして、声をかけたのであった。
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