婚約未遂の仲2
「‘あんなものを二週間も隠し通せるのか……?’」
「‘何もしなければ無理でしょうね。でも国同士の合意と何人かの魔法使いがいれば可能よ’」
映像で見た古代遺跡は完全に巨大な島であった。
古代遺跡も遠くから撮った映像ではっきりと分かるほどに異質で、バレなかったとしても数日が関の山の話である。
それなのに二週間も隠し通した。
普通ならできることではない。
だが国が関わっているなら話は変わってくる。
周りの目を誤魔化せるような魔法を使える魔法使いを用意し、情報統制などを行えば多少隠せる期間を伸ばすことができる。
「……まあおかしいと思ったよ」
見つかったばかりなのに、もうすでにいくつかの国で権利を争っている。
流石に動きが早すぎると思ったらいくつかの国が協力して隠蔽していたのである。
つまり見つけてすぐに権利を争い始めたのではなく、もう二週間も争い続けているのだった。
「‘その古代遺跡がどうかしたのか?’」
古代遺跡と子供。
トモナリの中で二つが繋がらない。
「‘二週間もあれば多少調査も進むものよ’」
「‘そりゃそうだろうな’」
ただ隠していただけ、ということはない。
隠している間に古代遺跡の調査や攻略を進めていた。
だが攻略を終えられないままに、隠す限界がきて新たに発見したということで公表したのだろうとトモナリは思った。
「‘あの古代遺跡の難易度はBクラス。それなのに入場条件はレベル3以上よ’」
「‘まあ、なくはないな’」
実質的にゲートに入るのに条件がないというものも多く存在している。
上限がなく、低い下限があるからとおかしいわけではない。
Bクラスなのに低いレベルの人でも入れてしまうことに危険はあるが、それでもやるなら自己責任である。
「‘レベルの下限が低いのはそれだけが原因じゃないの’」
「‘……何かあるのか?’」
少しだけ嫌な予感がした。
「‘そうよ。あの古代遺跡には生贄を捧げる場所があるの。しかも、子供のね’」
ほんの少し瞳に怒りのようなものをにじませて、メイリンは窓の外をに目を向けた。
生贄というのは珍しいシステムだが、稀にゲートの中に現れることがある。
魔石やモンスター、特定の物を捧げることで攻略が楽になったり、アイテムを入れたりすることができる。
しかし稀な生贄の中で、さらに稀な例として人間を捧げるものもあったりするのだ。
トモナリも以前生贄にされかけたことがある。
「‘子供を生贄に……?’」
「‘ええ、その先に何があるのかは分からないけれど、十人の子供の命を捧げる必要があるのよ’」
「‘……ひどいもんだな’」
人を捧げる中でも子供を捧げるなんてかなり歪んだ生贄である。
トモナリも思わず顔をしかめてしまう。
「‘それに、そんな話をするってことは……’」
「‘ウチの国は子供を生贄にするつもりよ’」
メイリンはため息混じりに答える。
「‘……まさか、国を裏切るつもりなのか?’」
話を聞くに子供を捧げるということは、すでに決まった国の方針なのだろう。
にも関わらず、部外者であるトモナリに子供を助けてほしいとお願いしてきた。
これは国に対する裏切り行為とも取れるものだった。
「‘私は子供になんて興味ないわ’」
「‘ならどうして……?’」
「‘あの子たちは、私たちなの’」
メイリンの瞳が揺れる。
「‘覚醒者としての才能を見出されて、普通の子供とは違う幼少期を歩まされる。国のために力を振るう……人形にさせられる’」
トモナリも人生二度目であって、それなりに経験は積んでいる。
メイリンが何を言いたいのか理解している。
国をあげて覚醒者を育成することには、やはり国のための言う思惑がある。
中にはひたすら国のために戦う兵士として育成しているところもあった。
「‘今の人生に不満はないわ。でも……そんな人生を歩まされた挙句、生贄にされるなんて…………かわいそうでしょう?’」
少し悲しそうな目をするメイリンからはいつものような余裕を感じない。
本心で語っているのだとトモナリは思った。
「‘たとえそれが裏切りだとしても、見過ごせないの’」
回帰前のメイリンは傭兵として活動していた。
今は国の下で動いているが、どこかで国と決別してフリーの覚醒者として独り立ちする時が来る。
もしかしたら今がその時なのかもしれない。
「‘こんなことを頼める友人はいないわ。子供を捧げることに疑問も持たない奴ばかり。信頼ができて、能力があって、この話に理解を示してくれそうなのは……あなただけなの’」
「‘そういうことだったのか’」
メイリンの身の回りにいる人は、国のためにが第一であると教育されてきている。
子供を生贄に捧げても、それが国のためならと受け入れてしまう。
「‘もしかしたら……中国を敵に回すことになるかもしれない。それでも……お願い、助けて’」
未来の傭兵女王がトモナリに頭を下げる。
「‘……うちのギルドへの依頼ってことでいいな?’」
「‘ダーリン……’」
「‘一応みんなに相談させてもらうよ。でも……俺としては受けようと思ってる’」
子供を生贄にするなんて許せない。
それにメイリンに恩を売っておくのも悪くはない。
「‘ダーリン!’」
「守る!」
「‘ぶぎゃっ!?’」
感極まったメイリンがトモナリに抱きつこうとした。
流石の速さだったのだけど、なんとユシルが素早く反応してシールドでトモナリを守った。
メイリンはシールドに顔面をぶつけて珍しい声をあげてしまう。
「‘痛いわ……でも、あなたがいてくれるなら百人力ね’」
メイリンは少し赤くなった鼻を押さえ、安心したように笑顔を浮かべるのだった。




