婚約未遂の仲1
「これはまた……珍しいお客さんだな」
トモナリはディーニに来客があると言われて応接室に向かった。
「‘久しぶりだな、メイリン’」
応接室で待っていたのは一人の女性であった。
周りの目を引くような美貌を持ち合わせていながらも、抑えきれぬような魔力の力を感じさせるその人は、中国の覚醒者メイリン。
かつて学生覚醒者世界交流戦にてトモナリとも戦ったことがある。
国をあげて育成してきたためにとても能力が高く、回帰前のメイリンはトップクラスの実力を持っていた。
トモナリを引き込もうと出会って間もないのにプロポーズしてきた過去もある。
実際に交流した期間は短いものの、かなり印象深い人であった。
「‘相変わらずイケメンね’」
そんなメイリンが突如としてトモナリのことを訪ねてきたのだ。
交流戦で戦った時よりも強くなっている。
トモナリはそう感じた。
イヌサワやイガラシなど高レベルで、高ステータスになると、相応の強さを持つ者に独特の強さを感じさせる。
トモナリもその領域に踏み込んでいるので分かる。
もうすでに世界でも上位に入るぐらいの力をメイリンは持っている。
「‘一体なんの用でここに?’」
「‘久々の再会なのにつれないわね? 婚約した仲じゃない’」
「‘お断りしたはずですよ’」
メイリンは冗談を言って笑う。
見た目上はそんなに火急の用件であるというような感じもない。
しかし何かあると思わざるを得ない。
なぜならわざわざここまで会いに来たからだ。
今トモナリがいるのは世界樹の近くのギルドハウスである。
もらったばかりの建物であって、まだほとんどの人が知らない場所なのだ。
もちろん最初に使っていたギルドハウスもまだあるし、連絡先を記載した張り紙もしてある。
にも関わらずメイリンは直接トモナリを訪ねてきた。
どうやって調べたのかはまた別問題として、連絡を取るのではなくわざわざ調べて会いにくる用事があったということになる。
大国一つのバックアップを持つメイリンが直接訪ねてくる用事とはなんだろうか、とトモナリは警戒する。
「‘あなたは変わらないけれど……小さなお友達が増えたのね’」
メイリンは興味深そうにユシルのことを見つめる。
対してユシルはトモナリに隠れるようにしてメイリンのことを見ていた。
メイリンから感じられる魔力に警戒を強めているようだ。
「‘あなたの噂はよく耳にするわ’」
「‘俺の噂ですか?’」
「‘ええ、どうしてあの時婿にしなかったんだと私が怒られるほどにね’」
メイリンは冗談めかして笑っているが、目の奥は笑っていない。
トモナリとしては極秘に動いているつもりだったけれども、国ほどの諜報力を持つ相手には流石に隠しきれない。
どこまで知っているのかは謎だが、さまざまなことに関わっていることはバレているようだ。
「‘……こっちも暇じゃないんですよ?’」
藪を突いて蛇を刺激することはない。
何を知っているのか気になるところだが、今はあえて話題を逸らしておく。
「‘そうね。じゃあダーリンに会いにきた目的を話しましょうか’」
「誰がダーリンなのだ」
ヒカリは相変わらずメイリンが気に入らないようでずっと険しい顔をしている。
「‘助けてほしいの。あなたの力を借りたい’」
「‘…………細かい内容によるよ’」
何が目的なのか。
それはとても分かりやすく伝わった。
ただ助けてほしい、力を借りたいとだけ言われても何をすればいいのか分からない。
メイリンの頼みなのだから、簡単なことではないのは予想ができる。
流石のトモナリも軽く引き受けるつもりはない。
「‘もちろんそう簡単に引き受けてもらえるとは思っていない。だが……これは人の命がかかったものなの’」
メイリンはスッと笑顔を消して真剣な眼差しでトモナリを見つめる。
「‘子供たちを……助けて’」
「‘子供? 一体なんの……まさか’」
「‘それ以上憶測で物を口にすると、いかにダーリンでも八つ裂きにするわよ?’」
子供を助けてくれ。
それだけではまだ何も分からない。
ただそんな言葉から推測するには、メイリンに子供がいるのではと思った。
違ったようで、メイリンから少し殺気が漏れ出した。
「‘ならちゃんと話してくれ’」
正直な話では、メイリンが他人の子供を気にかけるような人であるとは思えなかった。
それに子供を守りたいならメイリン一人の力で足りないことの方が少なそう。
「‘古代遺跡のゲート……つい先日同化現象を起こしたもの、知っているかしら?’」
「‘ああ、さっきその話をしていたばかりだよ’」
「‘一夜にして現れた古代遺跡……まだ出現したばかりだとどこも報じているけれど、実はそうじゃないのよ’」
「‘……どういうことだ?’」
ニュースでは昨日出現したなんて言われて大騒ぎになっている。
それなのに、そうではないというのはどういうことなのか。
「‘二週間……古代遺跡が現れてからもう二週間が経過しているわ’」
「‘……それは、本当なのか?’」
「‘そうよ。この二週間、古代遺跡は存在を隠されてきたの’」
メイリンの口から語られた真実にトモナリは驚くしかなかった。




