救うべき存在1
「エルベルド! 早く逃げるぞ!」
「……いや、お前さんは逃げろ」
「何言ってるんだ!」
モンスターが迫る。
前線が崩壊して、モンスターが一気に後ろに攻め込んできた。
「奴らの狙いはワシだ。最後の一人……お前さんらに味方する、このドワーフを滅ぼすことが奴らの目的だ」
「だから守ろうとしてるんだろ!」
トモナリは叫ぶ。
一般的な人の半分ほどの身長しかない髭面の男は、覚悟をしたような目で立ち止まる。
「ワシが犠牲になれば、この戦いは終わる」
「いいや……終わらない! あんたを倒した後もあいつらは暴れる!」
「そうかもしらんが、少なくとも今は引くだろう」
護衛という名でテイのいい世話係を押し付けられた。
この時のトモナリは何の力もなく、ワガママ放題のドワーフにただ従って奔走するしかなかった。
それでもドワーフが作り出す武器は非常に品質が高く、戦いに必要なものだったのしょうがない。
思いついたことはすぐに口にするような人だったので、エルベルドのことを最初は苦手だった。
しかし世話をしているうちに、ただ正直者なのだと理解してきた。
そして同朋を失い、寂しさを紛らわすようにただ武器を作り続けているのだということも知った。
ただただ偏屈な男だと思っていた。
だけど寂しさを抱え、それでも人のため、失われた同朋のためにと武器を作り続けるドワーフのことを嫌いにはなれなかったのである。
「ワシに付き合ってお前さんが死ぬことはない……」
「俺はあんたの護衛だぞ? 置いて逃げられるわけないだろ!」
「分かってるだろ。自分でも文句を言ってたくせに。ワシのワガママに付き合う誰かが必要だった……それだけのためだ」
いつもは燃える炉の炎を移したような意思を宿したエルベルドの瞳が、今はとても優しかった。
「他のもんはすぐに逃げ出したのにお前さんは根気強くワシに付き合ってくれたな」
「それはただ……どこもいく当てがなかっただけで……」
「それでもだ。この剣を」
エルベルドは背負っていた剣をトモナリに渡す。
「ワシの最後の作品……お前さんが使ってもいいし、ふさわしい人に渡してくれてもいい。ただ奴らには渡すな」
「エルベルド……」
「そんな顔をするな。この世界に来て……よかったと思うぞ。どうせあのままならワシを全てを失っていた。お前さんのような友人ができて、いい土産話ができた」
友と思ってくれている。
こんな時に言わなくてもいいのに、とトモナリはクシャッと顔を歪ませた。
「ワシのために泣いてくれる者がこの世界にもいる。それがどれだけ幸せなことか」
いつもは怒鳴りつけるような言い方ばかりするのに、どうして今は戦いの音にも負けそうなほどに優しい声色なのか。
「……来たか」
いつの間にかエルベルドの後ろにモンスターたちが来ていた。
「逃げろ。ここにエルベルドというドワーフがいたことを忘れるな。できるなら……語り継いでくれ。仲間たちを追いかけることもできなかったバカなドワーフがいたとな」
エルベルドは腰のハンマーを手に取った。
そしてトモナリに背を向ける。
トモナリよりも背が低いのに、エルベルドの背はとても大きく見えた。
「行け! その剣を……頼んだぞ!」
そして、エルベルドはモンスターに向かっていった。
ーーーーー
「はっ! …………はぁ……」
「トモナリ? 大丈夫なのだ?」
「パパ?」
トモナリはベッドから飛び起きた。
横で丸くなっていたヒカリとユシルが驚くほどで、ひどく汗をかいていたトモナリは手の甲でひたいを拭った。
「悪い夢でも見たのだ?」
ヒカリは心配そうにトモナリの顔を見上げる。
「悪い夢……そうかもな。でも、懐かしい奴に会えたよ」
トモナリはベッドから立ち上がると、冷蔵庫に向かう。
ペットボトルを取り出して、冷たい水を口に含む。
見ていた夢のことをはっきりと覚えている。
回帰前の記憶だった。
「懐かしい奴?」
「ああ、古い……友達だよ」
結局エルベルドの行方はその後分からなくなってしまった。
せめて死体ぐらいでもと思ったのだけど、死体すら見つけることはできなかったのである。
エルベルドから預かった剣は別の人に渡した。
トモナリが持っていても宝の持ち腐れになってしまうので、強い人に使ってもらったのだ。
「味方につけるべき……だよな」
やりたいと思うことは多い。
何をすべきか、前の日の夜に色々と考えていた。
そんな中で思い出したこともたくさんあった。
だから夢に見たのではないかと思う。
異世界にも知的な生物は存在している。
物語で出てくるようなファンタジー的なもの、いわゆるドワーフやエルフといったものも実はこれから現れる。
ただ扱いとしてはゲートの中のモンスターとそんなに変わらない。
しかし五姉妹の例にあるように、攻略する側の行動次第では味方につけることも可能な存在がいるのだ。
そのうちの一つがドワーフなのである。
卓越した鍛冶技術を持っている種族で、背が低いことを除けばほとんどに人と変わりがない。
とあるゲートから出てきて、紆余曲折あったものの最終的には鍛冶技術を買われて人に受け入れられた。
だが、色々と問題もあったのだ。




