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魔女たちは祝宴し続ける  作者: ロックプロジェクト
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花にまで

 後片付けの指揮をあらかた執り終えた団長と副団長に、世間話を装って近づくことにした。盗み聞きには細心の注意を払う。

「スイ団長、ヴェロニカ副団長。先ほど小耳に挟んだのですが、シスター・ソラが村史に轟(とどろ)く天候魔女だという認識に若干の修正が必要だとか必要でないとか」

 アンナは五体満足で帰ってきたが、まだ安静にしている必要があるしお見舞いは遠慮している。死ぬほど心配させられたことで若干の恨めしさを込めたのだが、スイ団長はたっぷりとした顎を数ミリ上げただけだった。

「ああ、バレちゃったかい。ここまで敏腕演出家がパーフェクトに運営してきたんだけど。あんたは目敏いというかなんというか。ソラは確かに天候の属性だけどね、聖トゥーラのような気象を操作する魔力はないよ。せいぜい空から雲を降ろしてきてコーヒーに載せるくらいだ。執務室で出してくれるけど、無味無臭であたしあれ苦手だよ」

 予想通り悪びれるそぶりもない。百戦錬磨のスイ・ハウルに敵うはずもないことは重々承知しているのだ。

「それでは、<トゥーラの聖痕>に架かる雲橋は」

 ペガサスが駆け抜ける雲の消え橋は、天候魔女シスター・ソラの魔法だと聞いていた。

「機械でね、ドライアイスの煙を駅舎の中から流してんのさ。ペガサスたちはそれをなぞって普通に飛んでいるだけ。雲でできた橋の上を走ってるわけじゃない。頼んでもいないけど、ペガサスは決まった道筋にこだわるからね」

 翼持つ白馬の律儀さに尊敬の念を抱く。一方で、超絶魔力と癒し系とのギャップで個性を発露していたあの人は、片方が消失してしまったらただの天然なのでは…。

「公衆の面前で力を証明する機会もワルプルギスしかないからね。ぐずつく時期だからたいがい雨は降る。降水確率が低ければ祭りの日を変えればいいだけの話。魔女なんだからその辺は臨機応変に。しかし、降り始めのタイミングを合わせるのには苦労したよ。今年はちょっと雨が早かったわ」

 魔女なんだから---。愚痴は聞き流すとしても、その言葉には響くものがあった。

「魔女村の自尊と団結を強めるという公益のためですから、ここは穏便に済ませましょう。精神的支柱としてのシスター・ソラの貢献は計り知れません」

 それまで黙って聞いていたヴェロニカ副団長は、やはり冷静で合理的だ。アイコンタクトで団長を促し、しょうがないね、と言いつつ目を回した団長の正直な告白が始まった。

「村の財政は逼迫(ひっぱく)しているんだよ。実は【公表】を前に、王国から急遽(きゅうきょ)所得税が課された。税率は段階的に引き上げられていて、‘‘WITCH’’アプリと専門店からの税収では全然足りないんだ。ワルプルギス一夜で赤字だよ。しかも、‘‘WITCH COIN’’の交換レートは非常に悪い。タダ同然だった実物貨幣(ウィッチー)よりまだましだけどね。あれは王国のお情けで取引してくれていたというのが実情だった。王国の中枢部は、低姿勢で魔女村を厚遇してきたけど、世界的に経済の先行き不透明感が広がるにつれてそういう援助にもだんだん渋くなっていった。そして、王家の血統が途絶え、王国とは名ばかりに議会制民主主義の国家へと転向したことが決定打になった。昔のよしみで優遇するような余裕は、経済的にも構造的にも許されなくなった。そもそも機密レベルで接触する手段もない、存在すらあやふやな『特別保護区』だしね。

 独立鎖国状態では通貨価値を高める手段がなく、財源不足、外貨不足で小麦粉の輸入量まで減らさざるをえなかった。ダグのパンが徐々に縮小してただろ。ワルプルギスのごちそうもそれとなく種類を減らして、花にまで食べられる魔法をかけたんだからね。

 財政危機を乗り越えるためには、魔女村を【公表】して‘‘魔女サプリ’’を柱に基幹産業を立ち上げ外貨を稼ぐ他にも、どうしてもユネスコに認定されて継続的な補助金交付を実現しなければならなかったんだ。

  『特殊地域民俗文化財』に登録されるためには、天候魔女、天文魔女、治癒魔女、薬草魔女の各魔法をまずは王国政府の調査員に実証しなければならなかった。抜かりなく四属性の全種をだ。前例がないもんだから審査も厳しいんだよ。事前に『魔女村史』のテキストを渡していたから、彼らはトゥーラの項を読んで天候魔女の実力をそこに設定していた。桁違いの真の天候魔女はどの時代にも現れるわけじゃないって事実に極秘の検討会は納得しなかった。夜道に落ちる肥大した子猫の影をすわ猛虎かと怯えるようなもんさ。魔力を小出しにして全貌を把握させない魂胆か、ということだ。雨乞いの成功は自作自演だと証拠を示しても、十八番の雲のコーヒーをこれが精いっぱいだと出してやっても、まだソラの程度を買いかぶっていた。しつこかったねぇ、調査が。

 あたしたちは、二〇年も前から時代の流れを先読みしてせっせと準備してきた。いずれ【公表】せざるを得ないこともピコリーナが予知していた。さっきヴェロニカが言ったように、村の地盤と結束を固めるために、ソラに上級の天候魔女を演じさせ、キャラクターを維持するために巧みに情報操作も行ったよ。‘‘WITCH’’に編集したソラの魔法動画なんかを投稿したりして」

「おかげで編集スキルが上がりましたわ」

「政府の検討会は、魔女村の魔法を細大漏らさず調査して、用途や影響力を綿密に把握したがった。道案内してやったヴェロニカの矢印リボンにまで難癖をつけてたね。要するに怖いんだよ。自分たちのあずかり知らぬ魔法がかけられてとんでもない状況になることが。申告漏れした魔法が発覚した場合には、ユネスコ登録申請は白紙に戻すと通達してきた。他にもいろいろ細かいことを、ほんとにご苦労なことだ。世界征服しようだなんて、魔法が使えたって目的も資金もなくやれるわきゃないだろ。あほみたいな陣地取り戦争や殺人合戦なんか興味もないよ。予期せぬ接触で要らぬ軋轢(あつれき)を生まないようあたしたちは守りに徹してきた。今の今まで爪を研いでたとでも思ってんのかい。まぁ、魔法の威光が外の世界を脅かすとなると、四聖女が祖国を追われた時代とは力関係(ベクトル)が逆転するからね。ベリィ、あんた外の人間がやって来たって怖かないだろ。普通さ。だけど、彼らにしてみたらその貫禄がおっかないんだよ」

 確かに団長の指摘する通り、生まれて初めて外の人に会う機会であったにもかかわらず、ミスター・ルウや調査員の‘‘チーム・ファイブ’’に出会った時に過剰な混乱や戸惑いはなかった。

「どっちにしろ、あたしたちにとってはこれから数年が正念場だね」

 神が与え給うた魔法と村の公益を維持しながら、外の世界との共存をも探っていかなければならない。懐事情がそんなに厳しいとは露ほども知らなかった。

「なんとか‘‘魔女サプリ’’が産業化するように、わたしもママをサポートします」

「うん、いい心がけだ。アンナが回復したら一緒に雪だるまアイス食べにきな」

「あら、それは‘‘カフェ雪だるま’’の盗作だと何度申し上げたことでしょう。まだ作ってらっしゃるんですか?団長ともあろうお方がはしたないことではございませんか」

「販売してるわけじゃないんだから問題ないだろ」

「いいえ、そもそもオリジナル作品には守られるべき権利が…」

 

 うまくフェードアウトしてとぼとぼ歩いていると、墓石に隠れた拾われ残しのかぼちゃパンが目についた。

「もったいないけど処分するしかないかな…」

「3時間ルール」

 いつの間にか背後でミスター・ルウが巨大化していた。灯火の具合で、地面に映る影が特大もじゃ虚像となっているのだ。

「って、いや3時間!?普通3秒ですよね。表層が土と同化してますよ。もう浸(し)んじゃってますよね」

「でも、表面剥いだら食べられるんじゃない?」

「あ、ええ、それは一理ありますね」

 貴重な小麦粉だし粗末に扱わない方がいい。指で割り、中央部をちぎって口に入れると、濃厚なかぼちゃの甘みと旨みが広がった。

「中身は問題ないです」

「ベリィの敬食精神は素晴らしいですわね。剥き出しのかぼちゃパンを敬う素晴らしい心に感服しました。以後見習います」

 付き添われたシスター・ソラは、咲きほころぶような微笑みを浮かべる頬に健やかな赤みを取り戻していた。

「じゃあ、素晴らしいパンを半分こしましょう」

「まあ、ありがとうございます!素晴らしいですわ。パンは大好物なんです」

「あ、おみくじ」

 今年の吉兆を占うハロウィンみくじが入っている。

『犬の信頼を軽んずれば凶』

「あ!」

 イノのことをすっかり忘れていた。教会の入り口に放ったらかしている。墓地には裏手を通って近道したのだ。

「…それでは!」

 急行するも、わが狼犬の姿は確認不能。コニーGじいさんが彫った木像リスの夫は無残にも根元からしっぽを折り取られ、一目散に引きずられていった形跡がある。強風に慄(おのの)いていたのだろう。幽鬼のように漂うミセス・ゼムフィーラや、激走して飛び込んできたダグさんの荒々しさにも肝を冷やしたかもしれない。

 賢明な判断で、イノは自主的に帰宅していた。リビングには小人のなだらかな丘が形成されている。その内部で寝ているはずだ。ブラッキーもきっと。

「ただいま。ごめんね、イノ。一人で怖かったね。ブラッキー、お留守番えらかったね。ありがとう」

 第一声で俄かに小人の丘が崩壊して、目をキラキラさせた二匹の中型犬とリードの取手が絡んだ木のしっぽとが突撃してくる。

 わたしは、二匹のすべすべのおでこに謝罪と親愛のキスを降らせる。何度も何度も、飽きて微睡(まどろ)んでしまうまでずっと。

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