<追想> その2
年老いたローザは、洞窟の先住者のことを折に触れて思い出す。追憶、というような優しいものではない。疚しい気持ちを取り出して弄ぶほど感傷的でもない。
黒衣の袖から差し出された枯れ果てた手。落雷を導いた時のあの威圧感。一度も振り返らず森の向こうへ消えて行く背中。
それから、出会った頃の屈託無い語り口と懐こい笑顔が目の前に蘇る度、波乱に富んだ彼女の短すぎた境涯に想いを馳せた。
女性に宿る力をそれぞれに授かってはいたが、森深く落ち延びることを余儀なくされた要因は、自分と同じく不当な冤罪だった。
---問題は、その後だ。
例の悪魔と契り、かつ自ら悪しき魔女となったトゥーラ。
凶猛な雷は、もう森に堕ちてしまった。
取り返しのつかない呪縛の言葉を吐かせてしまった。
燃え上がる炎に命を焼かれたという最期の姿は、想像したくなかった。
彼女が仕出かしたことを、庇い立てる猶予などありはしない。もはや名誉を回復することは何人にも能わない。
しかし、たとえ悪逆の魔女として炙り殺されようと、如何に口汚く罵られようとも、共に暮らした日々は、何ものにも代え難い時間だった。短いながらも姉妹のように、親友のように、過ごしたのは確かだ。彼女が私たちの家族であったことには間違いがない。
せめて時の流れが悪評を雪ぎ、あんな出来事がいつか忘れられる日が来ればいい。魔女と呼ばれたわたしたちが死んだ後、人々が安全に共存する泰平の世界が実現する未来に。
トゥーラの魂は神の御元へ還っただろうか、と考える。わたしたちの身代わりとして王国へ連行され、火中で死んだトゥーラが、まだ森のどこかにいるような気がするのは何故なのか---。
どういうわけだろう。長い年月が経つにも関わらず、一緒にいた頃のようにふとすぐ近くにいる感覚を覚えてしまうのは。これは、何の罪滅ぼしもできないことへの後ろめたさなのだろうか---。




