<追想>
---じゃあ、トゥーラは?
オトが来た頃は、洞窟はまだ睦まじげに和気藹々としていた。ベアトリスが加わってからしばらくしても、それは変わらなかったはずだ。
全てを捨てて逃げてきたから、喪うものは何もなかった。持てるものは、同志の存在と、あとはもう自分の命だけだった。
不足を数え上げれば切りがなかったが、届かないところを補い合って、わたしたち四人は森に隠れ棲んでいた。
---自分の波動はわからなくて。
トゥーラの波動は、天地万物と一体だったのではあるまいか。そうローザは考える。トゥーラは、全体が滞りなく連携するための、地球の働きの歯車だったのだ。
わたしたちと違って、彼女は常人ではなかった。自然の持つ無尽蔵の力を持ち出さなければ、地を割り、鼓膜を破るような迅雷を、細腕で天から落とすことなどできはしない。
今となっては詮方ないが、トゥーラは隠し事をしていたし、それはわたしたちにとって危険すぎる秘密だ、とローザは激怒したものだ。
果たして、聖域を拓いた神の愛し子だったのか、悪魔に身を売った血の迷い子なのか。後の人々はどう思うだろう。
彼女があんなことをしなければ、別の結末を迎える可能性だってあったかもしれないのに。
わたしたちがトゥーラ一人を身代わりに駆り立てて、奴らに連れて行かせた。わたしたちが、火炎の極刑を受ける獲物の標的をトゥーラに押し付けた。
有無を言わせなかった。物申す悶着の余地すら、あの時には生じさせられなかった。わたしたちは、沈黙の受容で、また暗黙の了解において、自責の念すら持たないようにと努めた。
全ては、生きていくために。
そのための犠牲者だった。彼女のおかげでせっかく生き残ることができたのだ。あれこれと文句をつけては罰が当たる。
決して過去の宿運を悔いるまい。ああ、もし彼女があんなことをしなければ、などとは---。




