↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女たちは祝宴し続ける  作者: ロックプロジェクト
PR
11/80

魔女たちの仮想通貨

 交流と消費活動を円滑化するスマホアプリ‘‘WITCH(ウィッチ)’’は、もはや生活全般になくてはならないツールになっている。主だった機能が三つ。


 一つ目は、村人限定のSNSで、一対一かグループでメッセージを送り合う。スタンプ、ボイスメモや画像、動画、紹介URLなどの送信の他にも、通話料無料の音声通話が可能だ。大元(おおもと)の有名な緑色のアプリは世界を席巻しているらしいが、プライバシー保護の観点からここでは使用禁止とされている。ダウンロードすることもできない。

 匿名や記名およびクローズドの掲示板、動画投稿チャンネルも用意されているし、‘‘WITCH’’の方が数段上をいく便利さだというのが、設計者たる天文魔女の謳い文句である。真偽のほどはどうだろう。

 

 続く二つ目は、外の世界の大手通販サイトを仲介するショッピングメニューだ。ログインした‘‘WITCH’’のホーム画面を経由して外の通販サイトへ飛ぶ。AやYの頭文字などのメジャーなショッピングサイトにはアクセスできるし、過不足ない程度につながるサイトは増えつつある。

  ‘‘WITCH’’を経た注文データは、‘‘天文魔女館’’の専門チームが高度に暗号化しており、最終的な届け先の住所氏名はショップ側には開示されないらしい。ここから発注し匿名配送される荷物は、お届け情報を潜めたQRコードが貼り付けられて王国のバスターミナルに集約され、‘‘ペガサス便’’に積み込まれる。まとめて村の駅まで届けば、あとは一つきりの読み取りアプリを託されたケン・トゥ・ウルスの管轄だ。

 ちなみに、外の森から通して埋設したネット回線などはないため、輸送機関であるペガサス便が、移動する電波塔の役目も兼ねている。

 

 最後に、残る三つ目の機能は、仮想通貨によるお金の管理システムとなる。実体の伴わないデータ上の貨幣なので、このアプリ内で収入を受け取り、いろいろな支払いを済ませることができるのだ。

 パン屋や‘‘まじょっち’’などの店舗では、購入代金を払うため端末にかざす。ピッと鳴れば、ウォレットから正確に引かれている。個人間の取引も簡便で、相手方のSNSのアカウントを表示し、金額を入力して「支払う」ボタンを押すだけで即時に送金される仕組みである。

例えば、モリーダスさんの農場で育てられたハーブを買うとする。お値段、締めて3000WTC。すると、わたしのスマホにモリーダスさんからすぐに請求書が届き、決済期限までにモリーダスさんの個人アカウントへ3000を打ち込む。パスワードを入れて、ポチッと送信。これで取引完了だ。わたしが小売りしたマイブランド製品も、顧客から同じく。

 ネットでも街中でも、売買の全てには、自己運用の仮想通貨である‘‘ウィッチコイン’’を使用する。単位は略して‘‘WTC’’だ。ハッキングされない限りは盗難の心配もなく、天文魔女が監督している限りは、ハッキングの心配もないだろう。ダリヤ店長が言っていたように、バックオフィスに数字データとして貯まった分から、任意の額をウォレットにチャージするとお金として使えるようになる。

 

 わたしたちの住む集落は、王国による秘中の秘の「特別保護区」扱いで、所得には税金がかからない代わりに戸籍や選挙権もない。村内の銀行や専門店で課される税は、村が徴収する財源となる。

  ‘‘WITCH’’を通した買い物で上乗せされた消費税も村の収入源であり、生活必需品を一括購入するための資金になる。内輪の生産量では安定してまかないにくいパン屋さんやカフェなどの大量消費食材、海産物、作出できない生鮮食品、衣料品などは、村役場が取りまとめて王国から輸入しているのだ。大型消費者である専門店はそれらを買い取る形になる。

 かつてこの村は、全てのものを共有財産とする社会主義をとっていた。わたしが物心つく前には資本主義が導入され、現在では一人一台の所有が奨励されるスマホを用いた、仮想通貨ウィッチコインによる売買が通例である。

 村仕様にカスタマイズされたスマホは支給され、毎月かかる費用も安い。詳しくは知らないが、協議団による経済戦略として、デジタル化を軸に大きく構造転換しようとしているからだという。

 公式通貨は、元々金メッキの実物貨幣‘‘ウィッチー’’(単位はW)だった。今でも、デジタルを敬遠するお年寄りたちはしぶとくウィッチーを使っている。

「実際触れもしない金なんか信用できん。わしらを見くびるな」(村の古老代表コニーGじいさん談)というわけだ。

 しかし、雨が降れば消失してしまったり、いたずらで魔法がかけられてしょっちゅうどこかへ転がっていったりする難点がウィッチーにはあった。その点、ネット上で勘定するウィッチコインは確実に決済遂行される。

 来年度初めには仮想通貨ウィッチコインへの完全移行が決まっているので、主張強いシニア世代との一悶着がありそうだ。




 この村。

 わたしたちの集落。

 ‘‘WITCH’’を独占使用する村人たちの秘密の森の住処。


 そう、それは大陸の森の奥深く、秘された歴史の傍流に乗り、古来知られざる社会としてここに在る。自給自足に仮想通貨、半人半馬が宅配の荷を牽(ひ)き、薬草、天文、治癒、天候の名を冠した奇妙な力を担う女たちの暮らす場所。自ら営む閉ざされた故郷(ホーム)を、わたしたちはこう呼びならわす。

 自敬と連帯の精神をもって、ただひとえに「魔女村」と---。

 

わかりやすく改稿したいと思い、内容を少し変更しました。いつもありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。