2日目〜クローズドサークル
弥羅和の部屋で、先生と生徒八名、それに執事の東海林とメイド長の守村を含めた、合計十一人が話し合っている。
「先程は、水埜が失礼をしました」
守村がこの場にいない水埜に代わって謝る。
「いえ、特に問題は無いですよ。何事も無かった訳ですし」
先生の返事に更に頭を深く下げ、数秒の後椅子に座った。
「さてはてどう致しましょうか。電話は、携帯電話も含めて一切通じませんし、町とを繋いでいる橋も壊れてしまっていて」
東海林のこの発言に対し、夏見はこう言う。
「まさに、クローズドサークル、とでも言いましょうか。ですが、今僕たちにできる事は」
「情報整理」
秋見が続きを言った。
それに対して、先生はこう言う。
「そういうのは警察に任せた方が良いと思う。無闇に現状を引っ掻き回さない方が」
だが、夏見は反論。
「人が、一人、亡くなっているんです。しかも、かなり身近な。放っておける訳が無いですよ。それに、僕たちはまだ彼女が殺されたかどうかの推理すらできていない。コンクールが近いけど、このままだと練習に集中できないかもしれない」
東海林が口を挟む。
「まあ、今の私共にできる事は限られております。その中で探偵というものも、含むべきかと」
「あなたたちの勝手にしなさい。私は合宿の方に戻りますから、後の事はお願いしても宜しいでしょうか」
先生は東海林と守村に後のことを勝手に頼むと、△△荘に戻っていった。
冬見は弥羅和がここにいない方がいいと判断し、その後に続くように智恵子と共に部屋を出て行った。
残った七人。
夏見は早速質問をする。
「それでは、東海林さん、赤沙さんを見つけた時の状況を教えていただけますか」
「分かりました。最初に発見したのは、メイドの栖々香でして、昼食の準備ができたからと御部屋を訪ねたときに返事が無いのを変に思ったそうで。部屋の鍵が開いておりましたので中に入りました所、ベッドの上で赤沙御嬢様が胸を刺されて倒れていたようでございます。私が悲鳴を聞いて駆けつけました所、仰向けに倒れてたいた赤沙御嬢様は、左胸を一突きさせられておりました。医務長の西乃園の診断によりますと、死亡したのは今朝の二時、前後一時間程だそうで、寝ている所を刺されたのでは、と申しておりました」
夏見が続けて聞く。
「朝食はどうしたのですか」
「朝食は、赤沙様御嬢様は食べない事がよくありまして、そのため返事の無いことを栖々香は変に思わなかったのです」
「誰かが屋敷に侵入した、っていうことは無いの?」
加奈の質問に、首を横に振る東海林。
「セキュリティーは万全でございます。たとえ入られたとしましても、必ずデータが残る仕組みになっております」
「それが破られた、とかは?」
「そのような形跡は今の所見つかっておりません。技術担当者が現在この別荘にいない状況でして」
いきなり秋見が立ち上がると、東海林を見詰めてこう言った。
「私、やる。面白そう。案内して」
しばらくの逡巡の後、東海林はこう答えた。
「分かりました。それでは石田様は私に付いてきて下さい。他の方は守村と共に赤沙御嬢様の御部屋へいらっしゃると良いかと。それでは、こちらへ」
東海林の後に付いていく秋見を見て、加奈は付いていく事にした。
「私も、秋見ちゃんに付いていくわ。彼女だけだとなんだか心配だから」
そう言って廊下に出ていった。
「それでは、赤沙様のお部屋へ参りましょう」
しばらくの沈黙を破った守村の言葉に、残りの三人もそれぞれ立ち上がり、移動を始めた。




