第25話 お帰り、売れ残りの宝物たち【第2章完】
第2章の最終話です。保守庫から持ち帰った宝と、その後の店をお届けします。
店の前で、エダの荷車が止まった。
新しい車軸の音は、普通のものより静かだった。
軽くなることより、その静かさで仕事が変わったと分かる。
荷台から箱を下ろしながら、彼女が言った。
「これなら、朝の通りでも苦情が減る」
「金貨五枚の一番の利点、それか?」
「毎日使う人には、大事なことだよ」
ごもっともだった。
箱の中には、組合から預かった点検用の品が入っている。
持ち主も行き先も、もう決まっている。
全部がうちの売上になるわけではない。
代わりに、一つずつ手入れの仕事がついてくる。
リシェは店の机へ、綴りを置いた。
廃棄庫ではなく、第十三保守庫と書かれた表紙。
その横へ、十八点の使い方をまとめた紙を並べる。
「まず、預かり品と売り物の棚を分ける。修理待ちは右。返却できる物は左」
「俺の魔剣は?」
「いつもの壁。お客さんが抜けない高さに」
ノルが肩から飛び、看板の裏へ止まった。
『施設内の区分表示を推奨』
「はいはい。お前の止まり木も作る」
鳥は一度だけ嘴を鳴らした。
それが注文なのか礼なのか、俺にはまだ分からなかった。
◇
最初に来た客は、石縫いの指輪を買った石工だった。
腰に下げた指輪は、泥で少し汚れている。
「井戸の縁を直す仕事が終わってね。魔力を入れるところを、点検してほしい」
俺は受け取り、義眼で線を見た。
問題はない。
だが留め具が緩んでいた。
指輪を使う間、紐で首へ下げていたらしい。
「落とすと割れる。こっちを先に直す」
「呪いじゃなくても、見てくれるのか」
「修理店だからな」
リシェが、小さな点検票を出した。
必要な作業と、料金。
石工は紙を見て、すぐうなずいた。
「じゃあ、頼む。また使うから」
また使う。
その言葉が、少し嬉しかった。
昼には、パン屋の親子が来た。
娘が籠を机へ置き、ノルを見つけて目を丸くする。
「鳥、飼い始めたんですか?」
『保守端末』
「しゃべった!」
彼女が笑う。
ノルは、どう答えるか迷うように首を傾けた。
俺たちも笑った。
金属の鳥は、誰もいない庫では聞かなかった音を、店の中で少しずつ覚えていくのだろう。
◇
午後、店の戸を閉めて、帳簿を広げた。
遠征の報酬。車軸の代金。消耗品。食費。
残った金は、驚くほど多いわけではない。
それでも、仕事の予約が増えた。
自分たちの荷車に、自分たちが確かめた道具がついた。
「一番の儲けは、何だったと思う?」
俺が尋ねると、リシェは少し考えた。
「次に同じ仕事を頼まれたとき、最初からやり直さなくていいこと」
彼女の指が、分厚くなった試験記録を叩く。
俺は、その答えが気に入った。
「俺は、帰ってこられたことだと思った」
「それは、儲ける前の条件」
リシェはそう言って、机の下から細い板を取り出した。
看板の脇へ掛ける、小さな札だ。
鑑定・売買相談 リシェ。
解呪・修理 レイ。
俺は板を受け取った。
「本当は、店名ごと変えてもよかったんだけど」
「十年はこれで、って言ったでしょう。だから、脇に足す」
二人で外へ出る。
今度は俺が釘を打ち、彼女が板を支えた。
ノルが看板の上から覗き込む。
エダは荷車の縁へ腰かけ、出来上がるまで待っていた。
名前が、一つから二つになった。
俺は少し下がり、店を見上げた。
自分の名前がある場所へ帰ることと、隣に誰かの名前があること。
両方を、こんなに早く持てるとは思わなかった。
◇
夕方、組合から封筒が届いた。
追加の修理依頼かと思ったが、紙が少し厚い。
差出人は、隣街の遺物市の事務局だった。
検分記録を拝見しました。
売却だけでなく、修理と鑑定を行う出店者として、参加をご検討ください。
俺は招待状を、リシェへ渡した。
彼女は最後まで読み、参加費の欄へ指を置く。
「今回は、予算から決めましょう」
「その次は、仕入れだな」
「その前に、出店の目的」
俺は、店の棚を見た。
誰かには危なくて、誰かには役に立つ物。
ただし、その誰かへ渡すまでには、調べて、直して、伝える仕事がある。
「使える宝を、使う人へ渡す」
リシェがうなずいた。
新しい頁へ、次の街の名前を書く。
俺たちの宝探しは、ちゃんと商売になり始めていた。
第2章「三百十二点、全部訳あり」はここで完結です。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
第3章は、隣街の遺物市へ。今度は宝を見つけるだけでなく、正しく値段をつけ、使う人へ届ける勝負が始まります。
好きだった遺物や場面があれば、感想で教えてください。ブックマークや評価も励みになります。




