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捨て値の呪物を買い漁る俺、外した呪いで無双する〜誰も使えない神話級遺物、俺だけ全部使えます〜  作者: 渋谷 爽月
第2章 三百十二点、全部訳あり

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第25話 お帰り、売れ残りの宝物たち【第2章完】

第2章の最終話です。保守庫から持ち帰った宝と、その後の店をお届けします。

 店の前で、エダの荷車が止まった。


 新しい車軸の音は、普通のものより静かだった。

 軽くなることより、その静かさで仕事が変わったと分かる。

 荷台から箱を下ろしながら、彼女が言った。


「これなら、朝の通りでも苦情が減る」

「金貨五枚の一番の利点、それか?」

「毎日使う人には、大事なことだよ」


 ごもっともだった。


 箱の中には、組合から預かった点検用の品が入っている。

 持ち主も行き先も、もう決まっている。

 全部がうちの売上になるわけではない。

 代わりに、一つずつ手入れの仕事がついてくる。


 リシェは店の机へ、綴りを置いた。

 廃棄庫ではなく、第十三保守庫と書かれた表紙。

 その横へ、十八点の使い方をまとめた紙を並べる。


「まず、預かり品と売り物の棚を分ける。修理待ちは右。返却できる物は左」

「俺の魔剣は?」

「いつもの壁。お客さんが抜けない高さに」


 ノルが肩から飛び、看板の裏へ止まった。


『施設内の区分表示を推奨』

「はいはい。お前の止まり木も作る」


 鳥は一度だけ嘴を鳴らした。

 それが注文なのか礼なのか、俺にはまだ分からなかった。


     ◇


 最初に来た客は、石縫いの指輪を買った石工だった。

 腰に下げた指輪は、泥で少し汚れている。


「井戸の縁を直す仕事が終わってね。魔力を入れるところを、点検してほしい」


 俺は受け取り、義眼で線を見た。

 問題はない。

 だが留め具が緩んでいた。

 指輪を使う間、紐で首へ下げていたらしい。


「落とすと割れる。こっちを先に直す」

「呪いじゃなくても、見てくれるのか」

「修理店だからな」


 リシェが、小さな点検票を出した。

 必要な作業と、料金。

 石工は紙を見て、すぐうなずいた。


「じゃあ、頼む。また使うから」


 また使う。

 その言葉が、少し嬉しかった。


 昼には、パン屋の親子が来た。

 娘が籠を机へ置き、ノルを見つけて目を丸くする。


「鳥、飼い始めたんですか?」

『保守端末』

「しゃべった!」


 彼女が笑う。

 ノルは、どう答えるか迷うように首を傾けた。

 俺たちも笑った。

 金属の鳥は、誰もいない庫では聞かなかった音を、店の中で少しずつ覚えていくのだろう。


     ◇


 午後、店の戸を閉めて、帳簿を広げた。

 遠征の報酬。車軸の代金。消耗品。食費。

 残った金は、驚くほど多いわけではない。

 それでも、仕事の予約が増えた。

 自分たちの荷車に、自分たちが確かめた道具がついた。


「一番の儲けは、何だったと思う?」


 俺が尋ねると、リシェは少し考えた。


「次に同じ仕事を頼まれたとき、最初からやり直さなくていいこと」


 彼女の指が、分厚くなった試験記録を叩く。

 俺は、その答えが気に入った。


「俺は、帰ってこられたことだと思った」

「それは、儲ける前の条件」


 リシェはそう言って、机の下から細い板を取り出した。

 看板の脇へ掛ける、小さな札だ。


 鑑定・売買相談 リシェ。

 解呪・修理 レイ。


 俺は板を受け取った。


「本当は、店名ごと変えてもよかったんだけど」

「十年はこれで、って言ったでしょう。だから、脇に足す」


 二人で外へ出る。

 今度は俺が釘を打ち、彼女が板を支えた。

 ノルが看板の上から覗き込む。

 エダは荷車の縁へ腰かけ、出来上がるまで待っていた。


 名前が、一つから二つになった。

 俺は少し下がり、店を見上げた。


 自分の名前がある場所へ帰ることと、隣に誰かの名前があること。

 両方を、こんなに早く持てるとは思わなかった。


     ◇


 夕方、組合から封筒が届いた。

 追加の修理依頼かと思ったが、紙が少し厚い。

 差出人は、隣街の遺物市の事務局だった。


 検分記録を拝見しました。

 売却だけでなく、修理と鑑定を行う出店者として、参加をご検討ください。


 俺は招待状を、リシェへ渡した。

 彼女は最後まで読み、参加費の欄へ指を置く。


「今回は、予算から決めましょう」

「その次は、仕入れだな」

「その前に、出店の目的」


 俺は、店の棚を見た。

 誰かには危なくて、誰かには役に立つ物。

 ただし、その誰かへ渡すまでには、調べて、直して、伝える仕事がある。


「使える宝を、使う人へ渡す」


 リシェがうなずいた。

 新しい頁へ、次の街の名前を書く。


 俺たちの宝探しは、ちゃんと商売になり始めていた。


第2章「三百十二点、全部訳あり」はここで完結です。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

第3章は、隣街の遺物市へ。今度は宝を見つけるだけでなく、正しく値段をつけ、使う人へ届ける勝負が始まります。

好きだった遺物や場面があれば、感想で教えてください。ブックマークや評価も励みになります。

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