↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捨て値の呪物を買い漁る俺、外した呪いで無双する〜誰も使えない神話級遺物、俺だけ全部使えます〜  作者: 渋谷 爽月
第1章 銅貨三枚の魔剣と、俺についた値札

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/25

第1話 金貨千枚の魔剣、銅貨三枚でお買い上げ

公開初日は12:10・12:20・12:30に第1〜3話、19:10に第4話を更新します。

遺物を買い、呪いを外し、その呪いで逆転する。宝探しと成り上がりを、テンポよく進めていきます。

 金貨千枚の魔剣が、銅貨三枚で売れ残っていた。


 隣の屋台では、肉串が一本、銅貨五枚。

 伝説の武器が昼飯より安い。理由も、値札に大きく書いてある。


【最初の一振りで、使用者の首を落とします】


「店主。これ買う」

「弔い料は別だぞ」

「そこまで面倒を見てもらう気はない」


 銅貨を三枚置くと、店主は売買証を滑らせてきた。死んでも責任を問わない、という文言に赤線が引いてある。

 俺はそこへ、レイと署名した。


 背後で誰かが吹き出す。


「おい、レイ。仕事を辞めて、今度は人生も辞めるのか?」


 赤い団章をつけた二人組だった。

 元の職場の同僚。名前は知っているが、呼ぶほどの用はない。


 俺は鞘の口を押さえ、魔剣を持ち上げた。


「給料が三か月出ない仕事より、割はいいと思うが」

「帰って頭を下げりゃ、また雇ってもらえるぞ。呪物を触れる奴がいなくて、団長も困ってる」

「なら、本人が触ればいい」


 二人が黙った。

 俺は店主へ向き直る。


「そっちの指輪はいくら?」

「銅貨一枚。はめると足が地面から離れなくなる」

「それも」

「……お前、もう呪われてるのか?」


 さらに一枚払って、店を離れる。

 財布には、あと三枚。

 帰りの肉串まで手が届かなくなった。


 その代わり、腰には神話級の魔剣がある。


     ◇


 呪物市の裏路地で、俺は剣の柄に触れた。

 黒い文字が、視界の隅へ浮かぶ。


〈断頭の魔剣〉

〈呪い:初撃の対象を、使用者自身へ変更する〉


 柄から伸びる黒糸を、左手でつまむ。

 右手には、空の鉄筒。呪物処理の仕事で使っていた試料容器だ。


 糸を引き、筒へ押し込む。


 ずきりと手の甲が痛んだ。

 掌の汗を拭き、もう一度。

 黒糸の端が抜けた。


〈呪い:分離〉


 俺は筒の蓋を閉じた。

 試料容器には刃がない。初撃を起こす仕組みもない。呪いが消えたわけではないが、今は働きようがない。


 これが俺の〈解呪〉だ。


 昨日までは、呪いを弱めるだけの役立たずだと思っていた。

 気づいたきっかけは、処理に使った手袋だった。遺物から離したはずの呪いが、手袋に残っていたのだ。


 外せる。

 別の物へ、移せる。


 職場へ報告する前に、三か月分の給料を請求した。

 殴られたので辞めた。

 能力を報告する用事も、そのときなくなった。


 魔剣を抜く。


 俺の首は落ちなかった。


 代わりに、横の壁から突き出ていた鉄棒が、するりと二つに分かれた。

 切るつもりさえなかった。ただ、刃が少し触れただけだ。


 落ちた先端を見て、喉が鳴る。


「銅貨三枚……」


 俺は剣を納め、指輪も調べた。


〈石縫いの指輪〉

〈呪い:装着者の両足を、足元の地面へ固定する〉


 こちらの糸は、抜きやすかった。

 ただ、魔剣から呪いを外した後なので、腕が重い。

 二つ続けるだけでも、今の俺にはそれなりの負担だ。


 固定の呪いを右手に留める。

 十数える前に、熱が皮膚へ滲んできた。

 長く持っているのも、まずいらしい。


 用意していた古い手甲へ移そうとしたとき、路地の出口に人影が立った。


「いい買い物をしたようだな」


 黒い胸当て。片耳の欠けた大男。

 左肩に、銀色の猟犬の飾り。


 見覚えがあった。

 遺跡の出入口で小さな発掘隊を待ち伏せし、帰りの戦利品を奪う連中の頭目だ。

 確か、〈猟犬〉のベルト。


「剣を置け。ついでに荷物も」

「銅貨四枚しか使ってないんだぞ。もう少し儲かりそうな相手を選べよ」

「抜けたところを見た」


 後ろで足音がした。

 振り向くと、もう二人。

 呪物を買う馬鹿がいると、誰かが知らせに走ったらしい。


 右手の呪いが、じりじりと熱くなる。

 保存先へ移すには触れなければならない。剣を抜いて戦いながら、袋を開ける余裕はなかった。


「魔剣があっても、使い手がお前じゃな」


 ベルトが剣を抜く。

 その構えだけで分かった。俺よりずっと、戦い慣れている。

 こっちは二十二年間、剣術道場へ通ったこともない。


 だから、剣術で勝つのはやめた。


「分かった。剣は渡す。殴るなよ」


 左手で鞘ごと差し出す。

 ベルトが笑い、奪い取ろうと腕を伸ばす。

 俺は彼の肩にぶつかるように、一歩踏み込んだ。


 右の掌を、銀の猟犬へ押し当てる。


 熱が消えた。


「――あ?」


 ベルトが俺を押しのけた。

 受け身も取れず、尻から石畳に落ちる。

 痛い。格好も悪い。

 だが、剣は離さなかった。


「ふざけやがって」


 ベルトが歩こうとした。

 上半身だけが前へ傾く。


 両足は、動かなかった。


 肩の銀飾りに、黒い筋が広がっている。

 指輪ではなくなっても、身につける品なら装着者はいる。


「何をした!」

「返品だよ。呪物市で仕入れたばかりのな」


 俺は剣を抜いた。

 ベルトの斬撃が、上から落ちる。

 避ける代わりに、魔剣の刃をその軌道へ置いた。


 甲高い音がした。


 相手の剣が、半ばから落ちる。

 俺の刃は折れた剣を通り抜け、ベルトの胸当ての縁まで切っていた。


 銅貨三枚は、腕の差を埋めて、まだ釣りが来た。


 俺は剣先を喉元へ近づける。


「足が動かない相手なら、俺でも外さない」


 ベルトの喉が上下した。

 右手が、肩の飾りへ伸びる。


「それを外せば動ける。ただ、俺の剣より速く外せるかは考えろ」


 手が止まった。


 背後の二人が動く。

 振り返る暇はなかった。


 乾いた弦音。

 俺の横を一本の矢が抜け、後ろの男の袖を木戸へ縫いつけた。


「二本目は、腕を狙うわよ」


 路地の入口に、少女が立っていた。

 茶色い外套。肩に小さな弩。もう片方の手には、衛兵詰所の笛。


「ベルト。あんたの顔、手配書で何度も見てる。今から衛兵を呼ぶけど、誤解だって言う?」


 男は、何も言わなかった。


     ◇


 衛兵が来るまで、そう長くはかからなかった。

 武器を奪われていた商人が二人、ベルトの顔を見て駆け寄ってきた。

 街では証人が揃わず、捕まえられなかったらしい。


 両手を拘束されたのを見届けてから、俺は銀飾りに触れた。

 呪いを引き抜き、古い手甲へ移す。


 立てるようになったベルトが、俺を睨む。


「お前の顔、覚えたぞ」

「俺のほうは、手配書で思い出せるから便利だ」


 衛兵が男を引いていった。


 少女が、俺の腰を覗き込む。


「その剣、本当に銅貨三枚?」

「救援の礼にやる、と言うと思うか?」

「言われても受け取らない。私は自分の首が好きなの」


 俺もだ、と返すと、少女はようやく笑った。


「リシェ。発掘品の査定と、売買の仲介をしてる」

「レイ。昨日まで呪物処理係。今日から……何になるんだろうな」

「少なくとも、さっきので賞金受取人にはなれる」


 彼女が、詰所から渡された受領票を見せた。

 頭目の拘束に対する賞金は、金貨十枚。

 正式な照合後に支払われるそうだ。


 俺は銅貨の残り三枚を握りしめた。

 たった一枚の紙が、それとは比べものにならない重さに感じられた。


「配分、決めとくか。笛も矢も、助かった」

「じゃあ半分、って言ったら?」

「五枚ずつだな」


 リシェが俺を見た。


「……そこは値切らないの?」

「俺が欲しいのは金で、一人で死ぬ権利じゃない」


 リシェは受領票を畳んだ。


「いいわ。じゃあ、あんたが死なないように、まともな鑑定所も紹介する」


 俺はうなずき、市場へ向き直った。

 彼女が袖をつかむ。


「そっちは出口じゃないわよ」

「知ってる。店に戻るんだ」

「今、襲われたばかりよ?」


 俺は、呪物の値札が並ぶ通りを指した。


 破滅の鎧。

 魔力を食う盾。

 帰ってこない者の長靴。


 どれも売れ残っている。

 誰も、買おうとしていない。


「今なら、まだ安い」


     ◇


 翌朝。

 リシェは宿の食堂へ来るなり、一冊の薄い目録を俺の前に叩きつけた。


「レイ。あんた、何をしたの」

「昨日のことなら、だいたい一緒にいただろ」

「これ、今夜の裏競売の目録」


 表紙の封蝋は、黒い。

 開かれた最初の頁には、見覚えのある顔が描かれていた。


 俺だった。


【出品番号〇〇一】

【解呪師レイ】

【開始価格:金貨一万枚】


 俺はパンを皿へ戻した。


 昨日、誰も使えなかった魔剣を買った。

 今日は、その剣を使えるようにした俺が、売り物になっている。


「……なるほど」


 目録を閉じ、リシェを見る。


「この競売、客として入れるか?」

お読みいただきありがとうございます。

次話、解呪師が売られる裏競売へ。レイは自分についた値段より、会場に集まる遺物のほうが気になるようです。

続きが気になった方は、ブックマークで追いかけてもらえるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。