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6話

 私は昼前にメルヴィと話をし、昼食に誘われたが、昼食はきっと彼女の取り巻きが付いてくるだろうと思い、丁重にお断りした。彼女も今のあなたでは彼女たちと話すのは早いかもしれませんわね…と失礼なことを言っていたような気がするが、事実であるので否定はしない。

 人と話すことが苦手なやつが噂好きの令嬢と話すのはあまりにもハードルが高すぎる。昨日スライムを倒したやつが今日急にドラゴンを倒すと言うようなものとそう変わりはないと感じる。

 この後はいつも通り授業を受け、授業終わりに図書館に行った、しかし、今回は1階のわかりやすいところでは無く、3階の入り組んだ隅の方にある机の方に向かった。いつも読んでいる本達は1階の物が多く、1階の本を読み切るまで上の階に上がるつもりはなかったが、致し方ない。昨日のような出来事を回避するには予めこちらも対策しなければ文句など言えない。

 3階の隅の方で本の続きを読み始め、こういう静かなのを私は待っていたんだと思う。一人で過ごす時間は心地いい。ページを開く音、1枚1枚が心地よく感じる。最初から3階に来るべきだったと後悔した。


「こういう場所があるなら先に聞いておけばよかったな」

「・・・・・・!?・・・・・・?!」


「・・・・・・・・・・・・・・・!?!?」


 いるはずの無い金髪男が目の前にいるではないか。

 私が読書している時にいつの間にか彼は目の前の椅子が自分の居場所だと言わんばかりに当然のように座り、本を読み始める。

 これ以上話しかけるようであれば追い払おうと思ったが、特に話しかけることもなく、ページを1枚1枚捲り、本を読み進めていた。

 本を読むだけなら追い払う理由も思い付かず、私も本を読み進めていき、5時という鐘の音が鳴り響く時間はすぐやってきたのだった。


「今日は護衛、いらっしゃらないのですか」


 私から声をかけられたのが予想外だったのかこちらを凝視した。しかし、すぐにでもいつも通りの表情に戻る。


「うるさかったから逃げ切ってきたよ。それより珍しいね。ルティアナ嬢から話掛けるのは」

「・・・図書館が閉まる時刻に話すのであれば司書は怒ることは無いですから」


 私自身も驚いている。普段は人に話題を振るなどしないからだ。会話の種になるような事を話したことでボロが出てしまいそうでいつもは出来なかったが、昼間のメルヴィ様との茶会が少し響いたのかと頭によぎった。


「僕は秘密の出口から出るとするよ。1階から出ると絡まれそうで怖いからね」


 そういうと3階の奥の方へ歩いて行った。秘密の出口…あるなら知りたいが本を毎回返しては借りることを習慣付けしている私にとっては使えない出口かもしれないなと思った。


 それ以降、毎日のように3階の隅の方にある机で二人で本を読んでいた。特に会話をするわけでもなく。不思議な関係だと思うが、こういう関係も悪くはないと最近思うようになってきた。

 しかし、数日もすれば噂が流れてくる。殿下はいつも放課後に神隠しにあっているとか。ユアも殿下と放課後遊びたいですと話しかけてきては、どこにいるんですかと聞いている。メルヴィも聞いているのかと思えばそうではないようで。ユアに対しては私は知ってますけどと言わんばかりの余裕をもって接していた。多分メルヴィは気が付いているんだろうなと思ったが、私は読書をしているだけだ。他意はない。


 数日もすれば分かってくる。どうやら秘密の出口とやらの向こう側で護衛が待っているらしく、行く時も帰る時もそこを通ることを条件に一人で図書館に入れているのだろう。第三王子という立場も中々大変だ。


 そして1週間ぶりの休日が来た。朝からの図書館。とても浮かれていた。先週と違う点があるとすれば本を読む場所を1階から3階に変更しているという点だろうか。これはかなりの変更点といっても過言はないが、図書館で本を読むという行為自体には変更がないので私からしたら大差ない。

 休日の朝なので人は少ないだろうとは思うが、今では3階の隅の方が落ち着くのもあり、いつも通り3階の隅で本を読み始める。3階に人が来ない理由は2つある。まず1つが置いてある本がかなり専門的な分野であること。きっと先生方用の本なのだと思う。その肝心の先生方は図書館が閉まった後も利用できる合鍵を持っている関係上、生徒たちがいる時間帯には中々やってこない。2つ目は通常は1階から長い階段を登らなければ3階に行けないからだ。階段設置場所は2箇所あるが、貴族の娘、息子からすれば長い階段を3階まで登るのは敬遠されやすいのだと思う。しかも3階にきても読むような本はないので好奇心で3階に来たとしてもすぐに降りていく。なので入り組んだところにいる私達は発見されにくいという話である。

 なので殿下の話していた秘密の入口というのも少々気になるが、本を読むこととは関係ないのでその気持ちは閉まっておくことにした。


 朝から本を読んでいると少し遅れて殿下は到着し、私の目の前でいつものように本を読み始めた。

 ただし、今日は少し顔色が悪そうに見える。疲れているように見える。誰かに追いかけられでもしたのかと思ったが、その場合ある程度は想像はつく。本人から聞いたわけではないので確証には至らないが。

 殿下は少し遅れて着いたのもあって、殿下が来てからすぐにお昼時になった。


「どこかいくのか?」

「・・・・・・昼食、です」

「ついていってもいいか?」


 私は驚いてしまった。いつも付いてこようとせず、一定の距離感を保っていた殿下が自分から聞いてきたのだ。ついていってもいいか、と。


「えっと、ただの昼食、ですので…」

「ただの昼食ならついていっても構わないのでは?」


 その解答を聞いて、ああ、この人は絶対についてくる気だと感じた。断っても付いてきそうなこの感じ。仕方ない。承諾するしかあるまい…。


「わかり、ました…」


 そう言い、私は殿下と1階に繋がる人気がない方の階段で降り、図書館から外に繋がる扉から出てすぐのベンチで軽食を始めた。


「このような場所があったんだね」


 日差しが当たるベンチなのもあり、貴族達からは不評の場所だ。外で食事を行うこと自体はよく行われているが、日差しがやはり嫌われるポイントらしい。

 私はカバンからサンドイッチを取り出し食べようとしたが、当たり前に殿下は自分用に持ち出してきてはいない。

 私だけ食事を行うのは少々気が引ける。こんなことなら最初から食堂に行けばよかったと思う。休日であれ、食堂は時間になると毎日開いている。

 今日この後も図書館にいるのなら少しでもお腹に食事を貯めて欲しいという思いで私は手に持つサンドイッチを殿下に無言で差し出した。


「人から食べ物を分け与えられるのは王子として良くは無いから大丈夫だよ」


 そうは言ったものの、一人だけ食事を行う光景は気に食わない。殿下に止められたが、私は差し出した手は引かなかった。


「・・・・・・そこまで折れないのであればありがたく頂戴しよう」


 渋々私から受け取るとお行儀よく、少しだけ齧りつき食べていった。


「これはどこかの売り物か?」

「自作、です・・・」

「公爵家の娘が、か・・・!?」


 驚かれた顔をされたが、私だってこのぐらいは作れる。ただ挟むだけでいいのだから。

 とはいえ普通の貴族令嬢は作らないな。こういうの。自分で言っておいてなんだが、おかしいかもしれないこの行動。


「改めて礼を言いたかった。僕は趣味という趣味が無かったのだが、ルティアナ嬢に勧められた本は興味深くハマってしまった。久しぶりに楽しい時間を過ごすことができた」

「・・・良かった、です」


 きっと殿下はお礼を言う為だけについてきたのだろう。あまりにも表情が真剣で、マルゲイン本を進めたのは悪いことでなかったようだ。


「・・・・・・どうして、だろうな。なぜか君の前に座って本を読むのが一番しっくりくるというか、心地いいというか。迷惑だっただろうか」

「・・・いえ」


 3階に移動したのに3階にいた時は驚いたが、そこまで執念深いとなにも言えなくなる。ただしっくりくるや心地いいという言葉には私も違和感を感じた。


 普段は人と話すことを好ましくは思わない私だが、こういうのも悪くはないのかもしれないと少し思う。

 なら私も直感で殿下と同じことを感じてはいないのだろうか。


 もしかしたら前に殿下と会って話したことがあったのだろうか。学院に来る前に。だが記憶にない。こんなに特徴的な金髪はこの国を探しても王族の方のみだ。

 違和感を感じながらも昼食を取り、いつも通り読書をし、私たちは解散した。



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