5話
「それで話とは、なんでしょうか」
朝礼前に話しかけられてはいたが、教室で話したくはないのか別室のお茶会室を予約し、そちらで話すことに。勿論、朝礼前だったのでお昼前の時間がたまたま今日空き時間だったのもあり、空き時間で話し合いをすることになった。ただし、1体1でだ。複数人いないだけマシと思うことにしよう。
「昨日言っていた、昨日もありがとうについてですわ。ルティアナ様。殿下に直接お聞きしたいのですが、あなたからお聞きする方が早いと思いまして」
「…私は大したことはしていません。おすすめの本を渡し、読書しただけです」
「それだけ?」
「ええ」
メルヴィは拍子抜けしたような顔をしていたが、実際それしかしていない。断じてやましい事など行っていないのだ。
「よかった…」
深いため息をつき、安堵の声が出る。しかし、私の話をすぐ信じるなんて同じ公爵家の令嬢だが少々人の事信用しすぎではないだろうか。
「すぐ信じるのねって顔をするのね。大丈夫よ。私嘘つく人はすぐに分かるの。だから安心してちょうだい」
そういう事なら何も言うまいと私はこの場を去ろうとした。
「ちょっと待って。折角、同じ立場同士がここにいるんですもの。話していかない?」
「いえ、同じ爵位の娘と言えど、殿下の婚約者の方と比べるのはおこがましいかと…」
「お願い!」
ボロが出る前にここを去りたかったが、頼み込まれるとどうしても弱い。少し検討したが、席に戻ることにした。
「ユア様のことで最近心が落ち着かないのよ。私の近くにいる子達にこんな話するとすぐ広まってしまうかもじゃない?でも誰かに少しでも愚痴りたくて、お願い、少しでも聞いてくださる?お菓子と紅茶もお出しするから茶会でした戯言だと聞き流してくれてもいいわ」
「・・・なんの話であれ、お聞きするつもりでしたので」
とはいえ、ユアの話ではあるだろうとは概ね察してはいたが。
「私は殿下が誰を選んで交友関係を築くのか、口出しするつもりは一切ございませんの。仮に殿下がルティアナ様と懇意にしたいとお考えでもお止めはしません。殿下の考えに口出しするのは婚約者として、よろしくはないと判断しています。昨日は少々戸惑いましたが、読書をお互いしているだけでそれ以上でもそれ以下でもありませんでしたもの。それにあなたからは下心が一切見えませんでしたから・・・」
それはそうだ。私は読書がしたくて図書館に通っている身。それについてきているのが殿下だ。しかし、私の読書を邪魔をする気ではないみたいだから咎めるつもりはない。もし邪魔をするのであれば立場上関係なく、殿下に口出ししていたかもしれないが。
「でもユア様は違います。殿下に下心で近付いています。ユア様以外にもそのような方達は大勢いらっしゃいました。ただそれだけで済んだらよかったものの、異世界人という立場もあって、私も殿下も対応に困ってしまいます。適切な距離感であればいいのですが、あれはどう見ても不敬です。女性が男性にスキンシップを行うなど、ハレンチすぎます…!」
言いたいことは分かるが、言葉のチョイスが少し、ピュアだ。この子はもしかしたらピュアな子なのかもしれないと少し感じた。
「ええ、そうですわね」
反応に困った時はにこりと笑い、相槌を打つ。これが鉄則。ありがとうお母様。暫くこれでやり過ごせそうです。
「私は何度も作法の授業はしっかりと受けなさいと話しているのですが、効果はあまり感じられませんし、殿下から彼女にやめろとキツく叱ることは国王から怒られてしまいますもの、私から言わなくてはいけなくて…。彼女に諭すことが出来る立場は私とルティアナ様しかいらっしゃいません」
ユアと口論しているのを見かけるのは目の前にいる彼女だけだ。そういう事情であれば、そうなるのも仕方ない。他の学生達は異世界人に口出すことは不可能だろう。前に見た口論の時、近くにいた方々が私に目配せ送ってきたのはそういう理由もあってなのだろう。
「ええ、そうですわね」
とりあえず彼女が可哀想なのもあり、相槌を打つ。彼女が報われることを祈る。
「そもそも他学年の方が毎日のように来られるのは非常識ですし、彼女のすることが非常識だらけですわ!!」
「ええ、そうですわね」
適度に相槌を打ちながら話を聞いていると彼女は話を一度止め、こちらを見た。
「あなた、話聞いてますの?」
「ええ」
「私、さっきから「ええ」と「そうですわね」以外聞いていませんわよ」
まずい、彼女の目は誤魔化せなかったようだ。汗が滝のように流れている気がする。気がする。
「ふ~ん。分かりましたわ。あなた、他の方々から冷静沈着で完璧な茨姫と呼ばれていましたが、もしかして対話能力が低いだけではなくて?」
「・・・・・・・・・」
まずい、バレている。いやしかし、まだ判断するには早い。とはいえ勘の良さがとてもずば抜けている。流石王太子殿下の婚約者に任される人材だ。
「・・・・・・・・・」
なにかいい言い訳を見つけなければ。
「・・・・・・・・・」
なにか、なにか、なにか。
「・・・・・・・・・」
見つからない。どうしよう。
「ふふっ」
私が焦っているとメルヴィはその姿がおかしかったのか笑い始めた。
「私、あなたのこと見誤って言いたかもしれないですわ。私と違い、完璧な淑女で少々羨ましいと思っていましたの。ですが、あまりにもあなたが戸惑うのが面白くて。いえ、面白いというのは少々失礼でしたわね。申し訳ございません」
「えっと、あの、えっと、」
「無理に話さなくても大丈夫ですわよ。茨姫の弱点と私の愚痴、おあいこでどうかしら?私誰かに茨姫がコミュ障なだけーなんて話しませんもの」
見誤っていたのは私の方かもしれない。目の前にいるのは王太子殿下の婚約者で少々気難しいご令嬢かと思っていたが、普通のご令嬢とそう大して変わらないのもかもしれない。少なくとも私の目にはそう写ったのだ。
「ルティアナ様。私、夢がありますの。婚約者を王にするという夢が」
そう話す彼女はお父様のようにカッコよく見えたのだ。お父様と違い、武力はない、ただの貴族の娘。だがなぜか重なって見えるのだ。民を守ることを決意したお父様と。
「私はあなたに手伝えとは言いません。私が自らの手で頑張るべきことですもの。だけど、たまには私のお話し相手になってくれないかしら?」
カッコよく見えた彼女。私は基本的にこのような事態は避けて通りたいと思っていたのだが、いつの間にか私は二つ返事で返していた。
「ええ」
「この時でも、「ええ」しか言わないのですね。ふふっ。では私の話し相手になるついでにコミュ障なところ少しずつ直していきましょっ」
そう話す彼女は今まで教室で見た彼女と違い、とても楽しそうで可愛く見えたのだ。




