7話
御大賢者の博識の魔術師。その正体が15になったばかりの小娘だということを知るものは国王、ルティアナ・ベルテルクの父、そして宰相のみとされている。
彼女の博識と呼ばれている理由は彼女が記した魔導書によりそう呼ばれるようになった。それまでの魔術はそれぞれの魔術によって異なる詠唱をすることにより、魔法陣が浮かび、魔力が注入され、魔術が使えるようになると言われてきたが彼女が記した魔導書によると詠唱は端折ることが出来るのだと主張されていた。どうして詠唱することにより魔法陣が浮かぶのか。今まで解明されなかったことだったが、博識の魔術師曰く、大気中に存在する微精霊が詠唱によって魔法陣の補助や魔力補助を行ってくれているようだった。つまり完璧な魔法陣を作れば基本的な魔術は使用可能ということ。しかし、この完璧な魔法陣を作るということはかなり難しい。魔術によって、火、水、風、土の分配を変えて調整し、魔法陣を即座に作り出さなければいけない。普通の人には到底できない。
しかし、博識の者は長期間の研究の末、かなりの魔術を詠唱なしで魔術を使用することができるようになった。勿論、彼女は一度使用できた魔術の魔力配分は記憶しているので即座に使用可能となる。
簡単な魔術であれば一つの魔法陣を出現させれば大丈夫なのだが、複雑なもの、上位のものになると複数出現させていかなければいけない。なので魔導書に記載されていた無詠唱というのは空想上の話とされていた。
しかし、彼女は数年前に起きた魔の天災で無詠唱で沢山の魔族達を葬った。その事を知った国王は魔導書の件を含め、御大賢者に任命させることにした。
魔の天災では彼女は魔石欲しさに魔族を倒していっただけなのだが、それを知るのは彼女とその父のみだった。
貴族学院に入学して1ヶ月経った。ルティアナは読書は好きだが、それ以上に魔術のことが好きでいた。そろそろ魔術の研究をしなければ体が疼いてしまう。
研究室が欲しいとまでは言わない。少し離れた小屋が欲しい程度だが、それは高望みなのだろうか。
いつものように廊下を歩いているとメルヴィとユアが口論をしている。1ヶ月も経っているからなのか、二人の後ろにいる取り巻き達が増えてきている。ユアの方が数が若干多く見える。異世界人という立場はやはり人が付きやすいのだろうか。
そう思いながらも通り過ぎて行こうとしてるところ、ユアが大声をあげる。
「ルティアナじゃないの!ゆあね、知ってるんだけど、アルザード殿下と毎日親しげに本を読んでるって!」
流石に知られてしまったのか。私自身は他意などなく、読書をしているだけなのだが。それは殿下も一緒だろう。
しかしまあ、人が大勢いる廊下で大声で公言するんだなと。めんどくさい事になりそうで憂鬱だ。
「メルヴィのことが心配なの、婚約者が他の女と毎日会ってるなんて、私だったら悲しくて泣いちゃうぅ」
ユアはシクシクと泣きながら手を目にあてていた。私から見ても演技にしか見えないが、こうまでされると対処が難しい。
「あなた、貧弱ですのね」
その光景を見ていたメルヴィはビシッとそう言い放ったのだ。ユアはその言葉に驚き、情けなくも「ぇ?」という声が出てしまっていた。
「殿下が他の女性と親しくなること自体何も問題ありませんのよ。ルティアナ様に関しては距離感は適切に保っていますし、何より名家のご令嬢。将来アルザート殿下の側室になってもおかしくない立場。親しくしない方が殿下にとってメリットはないのでは?」
メルヴィはいつもユアと先の見えない口論をしていたが、今回はメルヴィの優勢。ユアはどうやら墓穴を掘ってしまったようだ。
「でもでもお、婚約者という立場を奪われて、ルティアナが正妃、メルヴィが側妃になる可能性もあるんじゃないー?」
あまりにも失礼な発言をメルヴィに放つ。周りが凍ってしまう音が聞こえてしまった。
「こんなことで私が婚約破棄されることに繋がるとでも?ユア様、私そんなに貧弱ではありませんのよ。読書を殿下としていただけなのでしょ?」
「えーでもゆあには親しくしていたって聞いたよおー?」
「ユア様、私を心配して発言していらっしゃるのですよね。ですがご心配ご無用。私、殿下から直接1ヶ月ほど前にルティアナ様と毎日読書してもいいかと聞かれております。私は勿論承諾しました。これ以上なにか言うことはありますか?」
誇らしげに語る彼女と反対にユアは顔に血が上っているように見えた。メルヴィと一緒になって私を追い詰めようとしたようだが、詰めが甘かったようだ。
とはいえ、殿下と読書している場所は3階の隅の方。隠していたわけではないので探そうと思えば見つかるが、情報を手に入れて図書館に来る訳ではなく、口論の道具にするとは。正直そっちの方が助かった。暫く図書館通いは減らそうかしら。魔術の研究の開始をしたかった頃ですし。
考えにふけっていると私の魔道具の真ん中に埋め込まれている青の魔石が赤の魔石へ変化し光出した。
これは魔力の接近を知らせてくれるもの。ただそれだけの為、どこを狙っているのかどこから接近しているのかは分からない。
とりあえず防御結界を貼りたいがここで私が行うと魔術師なのがバレる恐れがある。その為に割って投げると自動発動する魔術具を指輪として忍び込ませていたがそれが幸いした。即座に指輪を外し、片手で割り、この一帯を防御結界に覆われるように魔術具を起動させた。
目視で分かるぐらいの細い光の矢は防御結界に弾かれ、消滅していった。
「きゃー!敵襲よ!ユア様の保護を早く!」
ユアの取り巻き達は血相を変えて怯えだした。ユアがいなくなれば彼女達も困るのだろう。
とはいえ、これは
・・・・・・・・・メルヴィ狙い?
ユアとメルヴィの距離は近くだったので、正確なことは分からないが、メルヴィの首筋を狙っている矢に見える。目的は異世界人ではないならどうしてメルヴィ?彼女も公爵令嬢だから敵は多いのだろう。
これは調査しなければいけなさそうだ。
その後、事情を知った教師達により警報が学院中に鳴り響き、暫く休講という処置が取られるのであった。




