3話
今日は休日ということで私は朝から図書館に来ていた。休日ということもあり、いつもより人が少ない。
・・・いや、私以外に人はいないかもしれない。図書館は広く、1階だけでなく3階まであり、1階の中央からは吹き抜けている構造の為、2階と3階の様子はなんとなく分かるように出来ている。
いつも通り1階で読書をしていると予想外の訪問者が現れた。
金髪にエメラルドの瞳。そのような人などこの学院に1人しかいない。彼はアルザード・ルドルフ第三王子殿下。
図書館の入口の方に滞在している司書となにか話している。私語厳禁な図書館のルール上、いつも静かではあるのだが、今日は私しかおらず、その者は読書をしているだけの為、いつもよりも本の音が生まれず静寂に包まれている。そのせいか図書館の入口で話している会話すらも筒抜けで聞こえる状況だ。大声で話している訳でもなく、人と話す際の通常の音量であるが聞こうとしている訳でもないのに耳に入ってくる。
「地下室に入りたいのだが入らせてくれないか」
「…申し訳ございません。殿下の頼みとあればお答えはしたいと思うのですが地下室の鍵は我々が管理しているわけではない為、我々でも対処しかねます」
「……そうか。無茶を言ってしまい、こちらこそすまない」
殿下と司書の話が聞こえてきたがどうやら地下室とやらに行きたいらしい。ここに通い始めてまだ短期間ではあるが地下室の話は初めて聞いた。私たちが知らないということはきっと一般公開されている場所ではないので気にしなくても良さそうだ。
「…ルティアナ嬢もこちらに来ていたようだね」
先程まで司書と話していた殿下だが、きっとこちらに気付いてやって来たのだろう。読書をしているといつの間にかやって来たと感じてしまう。
「私語厳禁でお願いします」
「…読書の途中に申し訳ない。邪魔をしたね」
「はい」
実際読書の邪魔をされたのは事実だ。こちらは朝から図書館に来て読書をする一般的な学生。本を探すわけでもなく、本を持ってきているわけでもないのに読書スペースにやってくるのは些か無粋ではないだろうか。
彼は私の返答に驚いたのか少し目を開いていた。
「おすすめの本はあるかい?」
図書館で私語はあまりしたくはないのだが。ただ読書する気はあるみたいなので許してあげよう。
私は本に栞を挟み本を閉じ、本は机に置いたまま無言で立ち上がり本棚へと向かった。
読書初心者におすすめするべきものでは無いと思うが、私の中でのおすすめをあげるならマルゲイン作の本達しかない。普通だったら童話を渡すのが一番の読書の仲間作りへの近道だとは思うが、殿下が図書館に来るとなれば殿下目当ての貴族女子が図書館に通い始めるだろう。図書館で人が増えるのは構わないが、それでこの静寂な図書館が奪われるのは困る。
私はマルゲインの本を一冊。彼に無言で差し出し、私は途中で読むのをやめた本を開き、読むのを続けた。
読み続けて数時間。外を見ると昼過ぎになった頃だと予想はつく。少し軽食でもしようかと本を閉じたが、まだ彼は私の前で本を読んでいた。
特に話すこともないのと軽食を行いたい為、司書には栞を挟んだ本を預け、昼食を取ることにした。
今日は一日中図書館の予定だったので、図書館出てすぐある、日差しが届くベンチで持参していたカバンの中に入れていたサンドイッチを5つほど頬張り、私の昼食は終了した。公爵令嬢が外でカバンにいれたサンドイッチを食べていると知られると面倒なことが起きるかもしれないが、今日は休日というのもあってどこも人がいない。しかも元々ここのベンチは日差しがある為、貴族からは嫌われている立地で1人になりたい時助かる場所だ。私からすると相棒のような安心感がある。相棒。良い響きだ。
昼食を食べた私は図書館に戻り、司書に預けた本の読書を再開しようとした。
殿下は先程と同じ席で本をずっと読んでいたことに私は驚いた。集中力が続いているようだ。本を進めた私としても嬉しい話だ。
出来れば殿下とは近くの席に座りたくはなく、出来れば遠くのところに座りたいところだが、何も言わず別の席に座るのは些か気が引けたので先程と同じ席に座ることにした。
同じ席に座り、私は読書の再開を行う。今読んでいる本は一周目なので新鮮感がとてもありワクワクが止まらない。正直、今まで読んだマルゲインと異なり、既婚者同士の不貞行為を元に作られた話な為、今までよりも面白くないのではと危惧したが、心情の書き方にマルゲインを感じる。この方は幅広く色んなことを書くことが出来るから本当に何者なんだと常に思う。童話も新鮮で好きではあるが、こういうのもまた面白い。
夕方5時の鐘の音がなる。図書館は5時に毎回閉まるようになっている。貴族が遅い時間に歩き回らないように設定されている時間なのだろう。普段授業は3時頃に終わるため、2時間しか滞在することは出来ないが、今日は8時間も滞在出来てとても良い時間だった。毎日休日であればいいのに。
「殿下。鐘の音が鳴りました。図書館は閉まる時刻です」
「…ああ、声掛けありがとう。丁度読み終わったよ」
「なら良かったです」
私は2周目を読みたいのもあり、司書に声をかけ、本を借りてその場を去った。
「ルティアナ嬢」
殿下に呼び止められたが、正直話したくない。これ以上話すとボロが出てしまいそうで怖いからだ。相手が殿下でなければ、笑ってさよならするつもりだったが、そうもいかない。
「なんでしょうか」
「おすすめの本、面白かった。感謝する」
マルゲインの良さがわかるとは…。少々意地悪のつもりで出したが、良さがわかるならそれで満足だ。
「お目にかなって嬉しく思います。それではまた明日」
「…ああ」
早くここから去らなければ。殿下と話してるのを見られたら噂がたちかねない。2周目を読みたい気持ちもあるので私は早歩きでこの場を去っていった。




