2話
学院に入学してから一週間経ち、ルティアナが入学して早々に悩みの種が出来るのであった。
私の学年は一学年。この学院は三年制と言われ、三年間通い、卒業する。一クラスは30人ほどいて二クラス存在し、Aクラス、Bクラスと分けられる。私はAクラスに配属しており、同じクラスには王太子殿下であるアルザード・ルドルフ、第三王子殿下。隙がなく、何をさせても完璧と言えよう。王太子殿下として恥じぬよう教育されてきたと伺える。またメルヴィ・アルトニア。アルトニア公爵家の愛娘である彼女はアルザード殿下の婚約者である。それに私、ルティアナ・ベルテルク、ベルテルク公爵家の長女を合わせるとかなり有力貴族がAクラスに集まっている。Bクラスも有力貴族はいるが、客観的に見てAクラスの方が集まっているように見える。しかし、悩みの原因は別にある。
「殿下ぁ♡今日もゆあ会いたくてきちゃいました!」
彼女は異世界人、ユアと言う。黒髪黒目のこの中にいると一際目立って見える存在。高い位置で2つ結びをしている髪型は珍しい姿と言える。
彼女はこうして殿下に会いに毎日このクラスに来ている。現在16と聞いたらしく、この学院で二学年になるよう手配をし、貴族学院に転校生としてやってきた。私は一学年でそこまで接点が無いかと思ったが、まさかの毎日このクラスに来ている。きっとこうなることが分かっていたから殿下と私を同じクラスに入れたのだろう。しかし、殿下と婚約者を別のクラスにすることも出来ず、隣のBクラスと比べて地位の格差が起きているように見える。例年だと、格差がなるべく起きないようにバランスを取ろうとしているらしいが今年はどうやら難しかったようだ。
異世界人が毎日訪ねてくる関係でこちらとしてもわざわざあちらのクラスに訪ねなくて済むのは利点ではある。しかし、第三者目線からすると明らかに殿下狙いの彼女は婚約者であるメルヴィからすると気分は良くないだろう。
「あなた、異世界人だからと言って殿下に失礼なことをし過ぎですわ。授業、しっかりと聞いた方がよろしくてよ」
「メルヴィ分かってないなぁ、ゆあの相手をするのは殿下のお仕事のうちなんだから、こうやって訪ねてくれる方が殿下は大助かりに決まってるじゃない。二学年に足を運ばせるつもりなの?メ・ル・ヴィ~?」
「ユア様、私が言ってるのはその態度に関することで訪ねることに関しては何もお咎めしてはいなくてよ!」
「もう、嫉妬深いんだからぁ」
会話を聞いてるだけでもハラハラする。事前情報を聞く限り、ユアは異世界人という立場を利用し王太子殿下達に絡んでいたようだ。きっと王太子殿下の中でも第三王子殿下が一番お眼鏡にかなったのだろう。寮の制度を聞いてわざわざ学院に入学してきたのだと言われている。
私はというと、魔術本を常に読みたいが、ここは貴族学院。なんの本を読んでいらっしゃるの?と尋ねられて魔術本というと勉強熱心で終わることもあれば流石に毎日そうだとよからぬ事を言い出す者もいるだろう。女のくせに魔術なんて、と言い出す人がいないとは言い切れない。その為にもカモフラージュとして物語本を読んでみたがこれは意外にも悪くない。特に昔の異世界人が書いたと言われる、童話は興味深い。既に入学して早々に5冊も読んでしまった。この学院の図書館には色んなも本が充実しているので定期的に通っては持ち帰って教室で読んでいる。本を読むこと自体、苦ではないのだが本に夢中になることで他の貴族達から話しかけられることが少なくなるのも利点としてあるので出来るだけ読書をするようにしている。
朝はメルヴィとユアの口喧嘩から始まり、昼は授業。貴族学院、つまり貴族のための学校というのもあって基本的に礼儀作法に関する授業が大半だ。
私は公爵家というのもあり、礼儀作法だけはしっかり叩き込まれていた。
「ルティアナ様は何をさせてもお綺麗で素晴らしですわ」
「ええ」
「普段どのような指導を受けていらっしゃるの?」
ルティアナは微笑み、本を開く。
「優雅ですわ」
ルティアナの欠点はコミュニケーション能力がずば抜けて低い。つまりコミュ障と呼ばれるものである。
家で魔術の研究をし、魔術本を漁り、社交界に出ず一人で過ごすことが多かった彼女は人と関わることが不得意になっていた。しかし、公爵家の者として人と関わる能力が低いとバレると傷がつく。その事を知った公爵夫人。つまり彼女の母親はとりあえず冷静ぶりなさいと。返す言葉が見つからなければ軽く相槌をし、笑えばいいと。その結果公爵家の娘の仮面を被ることは成功したが、いつまで経ってもコミュニケーション能力向上はしないでいた。
昼の礼儀作法の授業が終わると、魔術の授業が少し。剣術は選択制で申し込めるようになっているらしい。
魔術の授業で困ることがあるとすれば、教材が私が昔書いた本を元に授業が進められていることだ。しかもなにが悲しいか、私が書いた本の解読本も一緒に使って授業が勧められている。
私の説明が、言い回しがどこがダメだったのか最初は気になり、解読本を渡された時は一日中読んでいた。しかし、私の本をもっと初心者向けにした話を細かく書いてあるだけで、悲しかった。魔術を使う頻度が少ない人には私の本はどうやら難しく感じたようだ。
授業が終わると私は図書館に通うというルーティンを行っている。図書館は原則お喋り禁止とされているので私が本を読んでいても話しかけるような人はいない。それがとても心地よくて通いつめる理由になっている。
童話は異世界人が書いた本で色んな世界が広がっており、私からすれば全ての内容が新鮮に見える。基本的に学院では童話が多くあるので読むことが多いが、たまに味変としてマルゲインと呼ばれる作者の本を読むことがある。少々内容は難しいが、深く考えさせられる時がある。本を2回読むとまた違う解釈が生まれ、この本1冊で得した気分になるのは作者の才能だと思う。学院にはマルゲイン本は数少ないが、全体で見ると少なく見えるだけで20冊はある。暫くは読む本には困らなさそうだ。しかも要望を出せば取り寄せてくれるという親切な機能もあるしい。今度マルゲイン本の要望を出してみようかしら。
今日はマルゲインの本を1冊借り、図書館を去った
寮に帰宅途中、聞いたことのある声が廊下に響いていた。
「ユア様、私は殿下に近付くなと言っているわけではないのです。ただ適切な態度、距離をお願いしているだけですわ。このままではユア様だけでなく、殿下にも傷がつくことがあります。どうかご理解して頂けますでしょうか」
「えー、ゆあがいた国ではこの距離感普通だったしぃ~?メルヴィちゃん、気にしすぎだってばー。この国の人達みーんなお堅いよー」
メルヴィ様とユア様、だけでなく、それぞれの取り巻き数人がらその場におり、外野も含めてかなりの人数になっていた。廊下は狭くないがこの人数が一度にこの場所にいると狭く感じる。
私が近くにいたのを発見した取り巻き達は私に目配せを送ってきた。
きっとこの状態になってからそこそこ時間は経過しているであろう。みんな疲れてそうな顔をしている。
私は基本的に傍観していたいが、この状況と立場で何もしないとなると後日どうなるか分からない。公爵家の令嬢は不自由はないが、定期的に自由が無いなと感じる時がある。立場というのは難しい。
仕方なく、私は2人の言い合いを止めに入ることにした。第三王子は一体どこにいってしまったのか。
「ユア様、初めまして。ルティアナ・ベルテルクと申します。ご挨拶がこの様な場所になってしまい、大変申し訳ございません」
「今メルヴィと話してるから挨拶はあとにしてよ!この間を割り込むのは非常識じゃない?」
「ご不快にさせてしまい申し訳ございません。私としても話しかけるのは無粋だと思いましたが、どうしても話しかけないといけない事態だと思いまして。ユア様のご尊厳を第一に考え、この場はどうか私に免じて一時的に収めて頂けないでしょうか」
「どうしてあなたの言う通りにしないといけないのよ!」
「ここまで大事だと…申しにくいのですが殿下の耳に良いように届かないと思われます」
ユアは、はっと周りを見回し、体を震わせながら。でもすぐには収まり。「ヒロインになるなら怒っちゃダメよね。うん」と周りに聞こえないように小声で話していた。
「ルティアナ?と言ったかしら、仕方ないから一旦やめておくわ。リリィ、行きましょ」
リリィと呼ばれる小柄な女の子が「はひぃ」と言いながらユアの後ろに小走りで着いて行った。
周りの者はやっと終わったかとホッとしていた。
「ルティアナ様のお手を煩わせてしまい申し訳ございません」
メルヴィが胸に手をあて、お辞儀をする、貴族流の完璧な謝罪をルティアナに行う。ここだけ見ると王太子殿下の婚約者として完璧な振る舞いに感じた。
「いえ、気にしないで下さいませ。それでは」
私は基本的に会話を続けることは不可能である。人と話すことが不得意なのがバレる可能性があるからだ。しかし、短時間であれば先程のように何とかすることはできる。完全に人と話すことをやめることは立場上不可能だからだ。私の尊敬する人。公爵夫人の人を諌める行動、言葉は見よう見まね出することはできる。何年も見てきた。お母様ならどうやって言うか。行動するか。そのことを思い浮かべることが出来るが、私の中にあるのはコミュニケーションを取るお母様は少ない。理由は単純だ。社交界に出ないから社交界のお母様を見ておらず、真似することができない。下の者を諌めるところは見ているが社交界での行動、会話は見ていない。私自身もしっかり社交界に出るべきだったかもしれないと少し思ってしまった。




