1話
高級そうな素材に金色の刺繍が編み込まれた黒のローブ。フードを深く被っているせいか素顔は全く見えない。正面から見ていないからなのだろう。それに今が夜中なのも影響していそうだ。
しかし、夜中であれど黒のローブを着た人は輝いて見えたのだ。魔術を使用する際に出てくる魔法陣はどれも輝いているからだ。一目見て心奪われた。
なぜか。なぜだろう。
それはきっと今まで見た魔法陣よりも違って見えるからだ。輝いて見えるのはそのせいかもしれない。とても綺麗で、丁寧な作りの魔法陣から編み出される魔術は月と比較しても遅れを取らない輝きを放っていた。
今どのような状況になっているのか、この瞬間、この時間、忘れてしまうほど、目に焼きついて離れなかった。
一匹、一匹、貫いていく光の矢。数百といた魔物は次々と消滅していく。
もっと近くでみたい、話しかけてみたい、仲良くなりたい、そう思うが、願うが、この一歩を踏み出すと目の前にいる魔術師はきっとこの場からいなくなるだろうという直感がする。それに魔法陣に目を奪われ、この場を動くというのも難しい問題。どうしてかずっと見ていたいとそう思うのだ。
魔物が目視で確認できなくなると魔術を止め、場を離れようと動き出す。その瞬間に思ったのだ。この場を逃すと一生会えなくなると、そう思ったのだ。
その場を動いた時、運悪く木の枝を踏んでしまい、この静寂の中でパキッという音が鳴り響いてしまった。
ローブの者はこちらを向いて酷く驚いたのか体を震わせ、僕がいる反対方向に走り出した。
「待って!!!」
走り出した方向の先には魔法陣が浮かび出し、魔法陣に足が触れるとその場から何も無かったように姿が消えたのだ。ありえない。その様な魔術聞いたことも見た事もないからだ。
「もっと魔術を身近で見たかったというのに」
僕は酷く落胆した。頭を抱え、この場を去ろうと頭をあげると目の前には赤いイヤリングが落ちていたのだ。これは物語で言う、シンデレラというやつなのだろうか。
そんな事はどうでもいいが、この赤いイヤリングの持ち主はきっとローブを被っていた者の物で間違いないだろう。手がかりがない中でまた見つけるのは難しかっただろうが、今この場ではあの者に繋がる手がかりが少しでも増えて嬉しく思う。
イヤリングの装着部分的に身につけていて落としたと思うのが自然だろう。身につけていたのなら女性なのだろうか。いや、今の時代は男性でも付けていてもおかしくはない。
これからどうやってこの持ち主を探していこうか。
一一一ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「お父さまぁ、どうしても行かないとだめですか?」
「そんなに可愛く聞いても無駄だ。公爵家の娘である以上は貴族学院に行く必要がある。そのことは前に散々説明したであろう?」
「でも、でもお、私は御大賢者でぇ、学ぶことは何一つないっていうかぁ。それに仕事の依頼で忙しくて中々学業に打ち込める気がしないって言うかぁ」
「はぁ、そこまで渋るなら言うしかあるまい。その依頼もお前に学院に行けと言っておるのだ。そろそろ渋るのはやめたらどうだ?」
「え、本当ですか、お父様。私聞いてないんですけど」
「先日話されたばかりだからな。依頼というかお願いだろうが。学院に転校生が来るらしい」
依頼ではなく、お願い。彼女にお願いとして父に相談できるのはこの世界でたった1人。国王のみ。お願いと言えど依頼よりも上。実質、国王からの命令。
断ることなど不可能だ。
「転校生として入れるのなんて絶対に決まってるでは無いですか、貴族が学院に入ることを国の方として義務化されている現状、転校生なんて言葉を言えば想像付きます…。異世界人が来たのですよね」
異世界人、この国に限らず定期的に現れる謎の多い人物達。国を豊かにすることが多く、法によって守られている存在。魔力量も我々の数百倍あると言われており、立ち向かうのは不可能とされているので法によって守られているのは実は我々の方だとも言われている。
「異世界人であれば貴族学院に行くよりも魔法学校や、剣術学校に行くのが通例ではありませんか?」
「異世界人からの要望らしい。戦うことがどうやら嫌っているらしく社交界について学びたいと」
「もし暴走が起きればこの国でも止められるのは限られている、ですものね…。怪しまれず同時期に学院に送り込める実力があるものなんて1人しかいない、ですか」
彼女の名はルティアナ・ベルテルク。彼女はベルテルク公爵家の長女であり、この国随一の魔術師の使い手であり、この世界の魔術理論の本を書き上げ、魔術の技術発展に1番貢献したと言われている。それまで謎に包まれることが多かった魔術や魔法陣。彼女は12歳にして魔術というものを完璧に解析し、それを文にした。当時は相手にするものは少なかったが、時間が経てば事実と分かる者は増えていった。最終的にはたった一つの本により、彼女はこの国の最高到達点と言われる御大賢者のうち1人になったのだ。
公爵家の娘が御大賢者。しかも当時任命された歳は社交界でデビューする前の13歳。この国の均衡を考え、国王とベルテルク公爵は名前を伏せることを決めたのだ。彼女が御大賢者と知るものは少ない。
他にも御大賢者はいるが、素性を公開しない択も珍しくなく、この国には5人いるが公開しているのは2人だけという。
「事情は全て察しました。だけどやっぱり私はこの家で、部屋で、魔術の研究を引きこもりながらやるのが1番、性に合っているんです!」
「すまんがお前に拒否権は無い。そもそもこの国の法として15歳になる貴族は全て貴族学院に行く決まりがある。そのついでと思えばいい。異世界人に関しては見張りはもっと身近につけている。学年も違うからお前は保険みたいなものだろう」
「うぅ、どう考えても断る口実が出てこない…。貴族学院に行くと長期休み以外帰ることを許されないのだけは本当に嫌な部分…」
彼女は渋々ながらも承諾するしか無かった。




