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真実汚染 — 陰謀論が現実になった世界で —  作者: 逆位相
第二章 「真実視」

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第四話 「真実中毒」

 最近、眠りが浅い。


 透は薄暗い部屋の天井を見上げながら、小さく息を吐いた。


 時刻は午前四時。


 窓の外はまだ暗い。


 スマホ画面だけが、顔を青白く照らしている。


《#観測者》


《#未来視》


《#現実改変》


 指が止まらない。


 SNS。


 掲示板。


 ニュース。


 能力者考察。


 気づけば毎晩、同じことを繰り返していた。


「……終わってんな」


 誰に言うでもなく呟く。


 だが、やめられない。


 知りたい。


 確かめたい。


 “真実”を。


 その欲求は、少しずつ透を侵食し始めていた。


 最初は嫌悪感だった。


 人の裏側を見せつけられることへの不快感。


 だが今は違う。


 知らないままでいる方が、気持ち悪い。


 見えてしまった以上、確かめずにはいられない。


 それはもう、軽い依存に近かった。


 ーーー


 大学。


 講義中。


 透はほとんど内容を聞いていなかった。


 教授の声が遠い。


 代わりに、周囲の雑音ばかりが耳へ入ってくる。


「昨日の能力者事件やばくね?」


「未来視とかマジで存在するのかな」


「“観測者”ってやつ?」


 その単語が聞こえた瞬間、透は無意識に顔を伏せた。


 心臓が少しだけ速くなる。


 最近、どこへ行ってもその話題を耳にする。


 ネットだけじゃない。


 現実へ滲み出してきている。


「なぁ真壁」


 隣の席の男子学生が話しかけてきた。


「あ、はい」


 反射的に敬語が出る。


「お前そういうの詳しそうじゃん」


「……何がですか」


「観測者。あれ能力者だと思う?」


「いや……ただのデマじゃないですか」


 透は適当に答える。


 だが男子学生は楽しそうに続けた。


「でもさ、妙に当たりすぎてね?」


「偶然でしょ」


「いや俺、ちょっと怖いんだよな」


「……」


「もし本当に“真実を知れる能力”とかあったらさ」


 男子学生は笑いながら言った。


「人生全部終わりじゃね?」


 透の指先がわずかに止まる。


 その言葉が妙に引っかかった。


 人生全部終わり。


 確かにそうかもしれない。


 もし。


 全部分かってしまったら。


 人の嘘も。


 隠し事も。


 愛情も。


 罪悪感も。


 全部。


 透の脳裏に、雨の夜が蘇る。


 赤い傘。


 倒れる少女。


 そして、胸を締め付けるような喪失感。


 あの感情は、今でも消えない。


 自分はもう、“知らなかった頃”へ戻れない。


「……別に」


 透は小さく呟く。


「知ったところで、何か変わるわけじゃないですよ」


 男子学生は少し不思議そうな顔をした。


「冷めてんなぁ」


「普通です」


 透はそれ以上会話を切った。


 だが本当は違う。


 “知る”ことで変わるものはある。


 確実に。


 自分自身が、もう変わり始めている。


 ーーー


 帰宅後。


 透は机へ座るなりPCを開いた。


 もはや習慣だった。


 検索欄。


 カーソルが点滅している。


 数秒迷った後、透は文字を打ち込んだ。


『未解決事件 真相』


 検索。


 事件一覧。


 失踪。


 汚職。


 殺人。


 陰謀論。


 透は適当に一つ開く。


 その瞬間。


 視界が揺れた。


「っ……」


 映像。


 倒れる少女。


 鈍い音。


 血。


 悲鳴。


 逃走。


 透は息を呑む。


 以前なら、それだけだった。


 だが今は違う。


 その映像の“続き”まで流れ込んでくる。


 犯人がその後どうしたか。


 何を隠したか。


 どんな嘘を吐いたか。


 どんな顔で日常を送ったか。


 全部。


「……はは」


 透は乾いた笑いを漏らす。


 気持ち悪い。


 でも。


 同時に興奮している自分がいた。


 誰も知らない真実。


 自分だけが知っている。


 その感覚は、あまりにも強烈だった。


 透は次々と記事を開く。


 能力が発動する。


 映像。


 感情。


 真相。


 情報。


 脳へ流れ込む。


 止まらない。


 まるで。


 世界そのものを“覗き見”しているみたいだった。


「……っ」


 頭痛。


 だが指は止まらない。


 もっと知りたい。


 もっと見たい。


 その欲求が、胸の奥で膨れ上がっていく。


 その時だった。


 不意に、ある動画配信が目に入る。


【都市伝説配信者クロウ 生放送】


『――最近、“観測者”について面白い話があってさ』


 透は思わず配信を開く。


 画面には黒マスクの男。


 視聴者数は数万人。


 コメント欄が高速で流れている。


『未来視!?』


『また観測者の話?』


『能力者考察きた』


 クロウは笑いながら続けた。


『最近さ、“現実が後から変わってる”って感じる奴、増えてんだよ』


 透の背筋が凍る。


『記事が増えてるとか、記録が変わってるとか。“前からそうだったこと”にされてる違和感』


 コメント欄が加速する。


《それ俺も思った》


《気のせいじゃないよな》


《世界線バグってる》


 クロウはそこで少し声色を変えた。


『もし、“真実を見る能力”じゃなく、“真実を固定する能力”だったら?』


「……っ」


 透は息を止める。


『観測されたことで、世界が“そういうこと”になる』


 クロウは笑った。


『量子論っぽくて面白くね?』


 透は無意識にモニターを睨んでいた。


 ありえない。


 ただの都市伝説配信者だ。


 適当なことを言っているだけ。


 なのに。


 その言葉だけが、異様に胸へ刺さる。


 その時。


 画面のコメント欄へ、一瞬だけ奇妙な書き込みが流れた。


《観測者はもう見てる》


 透の指が止まる。


 次の瞬間、そのコメントは消えていた。


「……は?」


 見間違いか?


 だが。


 透の背中には、じっとりと嫌な汗が流れていた。


 まるで。


 世界のどこかから、自分自身が“観測され返した”みたいに。

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