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真実汚染 — 陰謀論が現実になった世界で —  作者: 逆位相
最終章 「観測者」

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第六話 「透」

真壁透の存在が、世界から消え始めていた。


 ーーー


 大学データベース。


《該当学生は存在しません》


 住民票。


 銀行口座。


 病院記録。


 全部。


 少しずつ。


“最初から存在しなかった”


ことへ書き換わっていく。


 ーーー


 Rain。


 窓際席。


 透はぼんやりと外を見ていた。


 最近はもう、


通行人と目が合わない。


 誰も自分を認識しない。


 店員ですら。


「ご注文お決まりですか?」


 そう聞いてきた若い店員は、


数秒後に透の存在を忘れた。


「あれ……?」


 店員は首を傾げる。


「私、誰に話しかけて……」


 透は小さく笑う。


「……いや、なんでもないです」


 店員は困惑した顔のまま去っていく。


 その背中を見ながら、


透は初めて本気で怖くなった。


 自分が透明になる。


 世界から切り離される。


 それは死ぬことより、

ずっと静かで、

ずっと残酷だった。


 ーーー


「真壁くん」


 小野寺だけはまだ透を認識できていた。


 NRO側の処置。


 記憶固定薬。


 認識保持装置。


 色々使っているらしい。


 それでも。


 最近は会話中に何度も違和感が走る。


 小野寺自身、

時折ほんの一瞬、


「今、自分は誰と話していたんだっけ」


という空白へ落ちかける。


 そのたびに、

端末の警告音が鳴る。


《認識低下検出》


《対象:真壁透》


 装置が無ければ、

小野寺も透を忘れていた。


「……なんですか」


「今日、名前言える?」


 透は少し黙った。


 そして。


「……真壁、透」


 言葉に違和感があった。


“自分の名前”なのに、

他人のものみたいだった。


 小野寺は俯く。


 透は苦笑した。


「そんな顔しなくても」


「……」


「まぁ、仕方ないでしょう」


 そう言った。


 でも。


本当は全然仕方なくなかった。


 ーーー


 店内は静かだった。


 SNSはない。


 ライブもない。


 誰もスマホを見ない。


 あれほど騒がしかった世界は、


異様なほど静かになっていた。


 透はぽつりと呟く。


「……変ですね」


「何が」


「前は」


 一拍。


「世界中が俺を見てたのに」


 小野寺は何も言えない。


 透は笑った。


「うるさくて最悪だったんですけどね」


「……」


「今は静かすぎて、逆に落ち着かない」


 雨音だけが聞こえる。


 その静けさは、


“誰にも必要とされていない”


みたいだった。


 ーーー


 透は突然言った。


「俺、昔から空っぽだったんですよ」


 小野寺は顔を上げる。


「……」


「別に世界変えたかったわけじゃないんです」


「……」


「救世主とかも興味ないし」


「正義とかも、どうでもよかった」


 透は窓の外を見る。


「でも」


 一瞬。


「無意味なのは嫌だった」


 その声は静かだった。


 今までで一番。


 ーーー


「大学も」


「ゲームも」


「SNSも」


「全部」


 透は笑う。


 自嘲みたいに。


「“誰かに見つけてほしかった”だけなんですよね」


 小野寺の胸が痛む。


 透は昔から、


世界を憎んでいたわけじゃない。


 ただ。


“自分が世界から透明だった”


ことに耐えられなかった。


 ーーー


「承認欲求なんてゴミだって言ってましたけど」


 透は小さく笑う。


「結局、一番欲しがってたの俺でした」


 その言葉に、


初めて“演技じゃない透”


がいた。


 能力者。


 観測者。


 救世主。


 そんなものじゃない。


 ただの。


不器用で、

孤独だった大学生。


 ーーー


 小野寺は静かに聞く。


「……真壁くん」


「なんですか」


「救世主になりたかったの?」


 透は少し考える。


 雨を見る。


 そして。


 ゆっくり首を横へ振った。


「違います」


「……」


「そんな大層なもんじゃない」


 数秒沈黙。


 その後。


 透は小さく呟く。


「ただ」


「誰かに、“お前は間違ってない”って言ってほしかった」


 小野寺は息を止める。


 透は続ける。


「世の中って、意味分かんないじゃないですか」


「……」


「騙す奴が得して」


「努力とか綺麗事で」


「結局、声大きい奴が正しいことになる」


 透は笑った。


 でも。


その目は泣きそうだった。


「だから」


「真実くらい、ちゃんとあってほしかった」


 その願い。


 それだけだった。


 それが。


世界を壊した。


 ーーー


 小野寺は静かに言う。


「真壁くんは」


 一拍。


「ずっと、誰かに観測してほしかったんだね」


 透は答えなかった。


 ただ。


 少しだけ視線を逸らした。


 それが答えだった。


 ーーー


 その時。


 Rain店内の客の一人が透を見る。


「……あれ?」


 一瞬。


 視線が交差する。


 透の心臓が小さく跳ねる。


 見られた。


 認識された。


 ほんの一瞬だけ。


 だが。


 客はすぐ眉をひそめた。


「誰だっけ……」


 そして、


思い出せない。


 透はその様子を静かに見ていた。


 期待してしまった自分に、

少しだけ吐き気がした。


 まだどこかで、


「誰かに見つけてほしい」


と思っている。


 世界から消えかけている今ですら。


 ーーー


 世界から、


真壁透という存在が剥がれ落ちていく。


 なのに。


 透は妙に穏やかだった。


「……でも」


 透は小さく言う。


「ちょっとだけ」


 雨を見る。


 窓際席。


 コーヒー。


 静かなRain。


 そして。


自分を見てくれている、

たった一人。


 小野寺。


 透は少しだけ笑った。


「今は、前よりマシかもしれないです」

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