表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真実汚染 — 陰謀論が現実になった世界で —  作者: 逆位相
最終章 「観測者」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/49

第一話 「"観測者"」

 真壁透は、世界で最も有名な人間になっていた。


 ーーー


 最初は匿名掲示板だった。


《観測者って実在すると思う?》


 数分後。


 SNSまとめ。


 動画サイト。


 ライブ配信。


 海外フォーラム。


 陰謀論コミュニティ。


 全部が同じ話題へ収束していく。


【観測者】


 現実を変質させる存在。


 認識災害中心点。


 世界改変能力者。


 都市伝説。


 救世主。


 悪魔。


 神。


 人によって定義は違う。


 だが。


“真壁透”


という名前だけは一致していた。


 ーーー


 Rain。


 窓際席。


 透はスマホを伏せた。


 もう見るだけで頭痛がする。


 通知。


 通知。


 通知。


 止まらない。


【#観測者】

【#真壁透】

【#世界改変】


 透は深く息を吐く。


「……最悪だ」


 小さく呟く。


 だが。


 その声とは裏腹に。


胸の奥が熱かった。


 自分が世界中心になっている。


 誰にも見向きされなかった自分が。


 留年して。


 英語もできなくて。


 現実から逃げるみたいにゲームしていた自分が。


今は世界中から“観測”されている。


 誰かに必要とされた記憶なんて、

ほとんど無かった。


 でも今は違う。


 世界中が、

自分を見ている。


 その感覚。


 吐き気がするほど気持ち悪い。


 でも。


嫌いじゃなかった。


 ーーー


 店内テレビ。


 ニュース特番。


『認識災害問題について政府会見が――』


 画面切り替え。


 専門家。


 能力者研究者。


 評論家。


 皆が“観測者”について語っている。


『現在、“観測者仮説”が最有力です』


『世界各地の現実改変現象には共通点が――』


『特定人物への観測集中後、改変率が上昇――』


 透は目を逸らした。


 その瞬間。


 店内の時計がズレる。


 十二時十分。


 十二時十三分。


 十一時五十八分。


 秒針が不自然に震える。


 客がざわつく。


『またかよ』


『最近時計狂いすぎだろ』


『認識災害じゃね?』


 透は頭を押さえる。


「自分が見られるほど、世界が歪む」


 もう隠せない。


 ーーー


「透くん」


 美咲だった。


 赤い傘。


 変わらない笑顔。


 ……いや。


“変わりすぎている笑顔”。


 透はそれに気づいてしまう。


「……なんですか」


「また寝てないでしょ」


「まぁ」


「顔ひどいよ」


「元からです」


 美咲は少し笑った。


 優しい笑い。


 昔の透なら安心できた。


 でも。


 今は違う。


 美咲は優しかった。


 優しすぎた。


 昔なら少しくらい怒る場面でも、

今の彼女は微笑むだけだ。


 透が嫌がりそうなことを、

無意識に避けるみたいに。


 それが。


 透には耐え難かった。


「これは本当に美咲の感情なのか?」


という疑念が消えない。


 ーーー


 その時。


 Rain店内の客が突然ざわめく。


 視線。


 スマホ。


 そして。


 一人の女子高生が小さく声を漏らした。


「……真壁透?」


 空気が止まる。


 透の背筋へ冷たいものが走る。


 女子高生は震える手でスマホ画面を見比べる。


「え、待って」


「本人?」


 数秒。


 その言葉が周囲へ伝播する。


『マジ?』


『観測者?』


『うそだろ』


 視線。


 大量。


 一斉。


 その瞬間。


世界が軋んだ。


 ーーー


 店内照明が明滅する。


 窓の外。


 雨が逆流する。


 道路標識文字が変化。


 テレビ映像乱れ。


 客たちのスマホ画面内容が数秒ごとに変わる。


『え!?』


『何これ!?』


『やばっ――』


 透は立ち上がる。


「……っ」


 頭痛。


 ノイズ。


 大量の声。


《救世主》


《神》


《化け物》


《世界改変者》


《本物》


《観測者》


 全部。


“他人の認識”。


 そして。


それが現実を固定していく。


 透は理解してしまう。


 能力の条件。


 真実。


 全部。


「観測」


だ。


 人に見られる。


 信じられる。


 認識される。


 それだけで、


世界が自分へ迎合する。


 ーーー


 その時。


 Rain入口扉が開いた。


 黒スーツ。


 白峰零。


 NRO隊員たち。


「真壁透さん」


 店内空気がさらに凍る。


「……何ですか」


「保護対象として同行願います」


「断ったら」


「強制執行になります」


 周囲客たちが後退る。


 スマホ撮影。


 配信。


 観測。


 透の頭痛がさらに悪化する。


 白峰は静かに言った。


「もう、あなたを一般人として扱えません」


 その言葉。


 透は少し笑ってしまった。


 一般人。


 そんなもの。


とっくに終わっていた。


 ーーー


 その瞬間。


 SNSトレンド更新。


【観測者拘束】

【政府隠蔽開始】

【真壁透】


 世界中が同時に透を見ていた。


 そして。


観測されるほど、力は増幅する。


 窓ガラスが軋む。


 空間が歪む。


 店内温度が不安定化。


 客の記憶が混線する。


『俺、この店初めてだよな……?』


『え、昨日も来てなかった?』


『違う、知らない』


 現実境界が崩れ始める。


 白峰の顔色が初めて変わった。


「観測遮断開始!!」


 鋭い声。


 NRO隊員たちが即座に端末を展開する。


「配信源特定!」


「周辺通信制限!」


「映像拡散を止めろ!!」


 だが。


 もう遅かった。


 巨大ビジョン。


 個人配信。


 SNSライブ。


 世界中の無数の画面。


 そこへ、


“真壁透”


が映っている。


 白峰は透を見る。


 初めて。


 明確な恐怖を滲ませながら。


「……まずい」


「……何が」


「世界が、“あなた中心”へ収束している」


 透は何も言えない。


 その時。


 窓の外。


 巨大ビジョン。


 そこへ突然映像が映る。


 真壁透。


 今、この瞬間の姿。


 群衆が空を見上げる。


 スマホを向ける。


 撮影。


 拡散。


 観測。


 そして。


現実がさらに固定される。


 透は立ち尽くす。


 雨が降る。


 世界が軋む。


 皆が自分を見ている。


 その感覚は。


どうしようもなく、気持ち悪くて。


どうしようもなく、心地良かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ