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真実汚染 — 陰謀論が現実になった世界で —  作者: 逆位相
第七章 「真実汚染」

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第八話 「真実汚染」

 世界は、もう限界だった。


 ーーー


 最初に異常が確認されたのは北海道だった。


『地域住民間で歴史認識の不一致発生』


『地図情報との齟齬確認』


『一部地域で“存在しない町”の住民票記録――』


 ニュースキャスターの声が震えている。


 だが。


 その原稿内容すら、数秒ごとに変わっていた。


 透はRainの窓際席で、その光景を無言で見ていた。


 外は雨。


 相変わらず止まない。


 最近はもう、


「晴れの日の記憶」


の方が曖昧だった。


 ーーー


 SNS。


 テレビ。


 ニュース。


 全部が壊れている。


《俺の卒アルから友達消えてる》


《家族写真人数違う》


《戦争結果変わってない?》


《東京湾の形違う》


《存在しない事件の記憶ある》


 透はスマホを伏せる。


 見れば見るほど、


“真実”が増殖する。


 そして。


 その中心にいるのは自分だ。


 もう否定できない。


 ーーー


「真壁くん」


 小野寺だった。


 疲弊した顔。


 隈。


 震える指。


 彼女も限界だった。


 だが。


 それでもここへ来た。


 本当は怖い。


 真壁透へ近づくたび、

世界そのものが軋む気がする。


 でも。


 小野寺には、目を逸らせなかった。


 矛盾を観測できる自分だけが、

この崩壊を見続けなければならない気がした。


「……なんですか」


「もう隠さなくていい」


「……」


「分かってるから」


 透は笑った。


 乾いた笑い。


「……何がですか」


「あなたの能力」


 小野寺は透を見る。


 真っ直ぐ。


 逃げ道を潰すみたいに。


「真壁くんは、“真実を見てる”んじゃない」


 透は黙る。


「“現実を決めてる”の」


 沈黙。


 Rain店内の時間だけが止まったみたいだった。


「……証拠は」


「ある」


 小野寺はスマホを差し出す。


 画面。


 大量の比較画像。


【認識変動ログ】


 同一ニュース。


 時間ごとに内容変化。


 だが。


“透が観測した直後”だけ変化率が跳ね上がっている。


 さらに。


 美咲。


 死者再演。


 地下施設。


 人格汚染。


 全部。


「透の認識」に沿う形で現実化していた。


「……偶然でしょう」


「違う」


「……」


「真壁くん」


 小野寺の声が少し震える。


「世界が、あなたの思考へ迎合してる」


 透は息を止めた。


 その瞬間。


 頭痛。


 ノイズ。


 大量の映像。


 戦争。


 炎。


 崩壊。


 能力者。


 死者。


 群衆。


 そして。


“自分を神みたいに崇める人々”。


「っ……!!」


 透は机へ手をつく。


 Rain店内照明が明滅する。


 客たちがざわつく。


 スマホ通知音。


 大量。


 一斉。


 同時。


【#観測者】

【#現実改変】

【#真壁透】


 透は震える。


 嫌悪。


 恐怖。


 だが。


 その奥底に、


“快感”


があった。


 世界が自分へ反応している。


 誰にも見向きされなかった自分が、


世界中心になっている。


 その感覚。


 透はそれを否定できない。


 ーーー


「……なら」


 透は小さく笑った。


 自嘲みたいに。


 でも。


 どこか壊れた声で。


「俺が間違った現実を修正して何が悪いんですか」


 小野寺の顔色が変わる。


「……真壁くん」


「だってそうでしょう」


 透は静かに言う。


「騙される奴がいる」


「搾取する奴がいる」


「情報で人を操る奴がいる」


「戦争で踏みにじる国がある」


 頭痛。


 ノイズ。


 世界が揺れる。


「だったら」


「最初から“正しい現実”へ変えればいい」


 Rain店内の窓ガラスへヒビが走った。


 小野寺が息を呑む。


「透くん、それは――」


「何が違うんですか」


 透は笑う。


 だが。


 目は笑っていない。


「皆、自分の都合いい真実信じてるだけでしょう」


「……」


「だったら」


「俺が一番マシな真実を作る」


 透の声は静かだった。


 だからこそ怖かった。


 怒っていない。


 暴走していない。


 本気で“正しい”と思い始めている。


「戦争が起きるなら、起きない世界へ変えればいい」


「差別があるなら、無くせばいい」


「苦しむ奴がいるなら、最初から苦しまない人格へ寄せればいい」


 小野寺の顔が青ざめる。


「それは人間を書き換えてるだけで――」


「でも皆、楽になるでしょう」


 透は即答した。


 その返答に、


 迷いが無かった。


 ーーー


 店内テレビ。


 ニュース速報。


『現在、全国規模で“歴史不整合”発生』


『複数地域において記録改変確認』


『政府は不要な認識共有を――』


 画面ノイズ。


 さらに速報。


『東京湾地形データ変動』


『存在記録のない死者確認』


『一部住民の家族構成変化』


 さらに。


『NRO関西固定班、認識崩壊区域へ派遣』


『情報検閲AIによる異常拡散遮断を開始』


『観測遮断プロトコル発令――』


 だが。


 速報が増えるほど、

状況悪化の速度だけが浮き彫りになる。


 客たちが悲鳴を上げる。


 スマホ。


 SNS。


 観測。


 拡散。


 そして。


さらに現実が固定される。


 透はその光景を見ていた。


 恐怖より先に、


理解が来てしまう。


 人は真実なんて求めていない。


 安心したいだけだ。


 納得したいだけだ。


 救われたいだけだ。


 なら。


 それを与えられる自分は、本当に間違っているのか。


 ーーー


 小野寺は透を見る。


 恐怖と。


 哀しみの混じった目。


「真壁くん」


「……」


「このままだと」


「世界が“あなたの願望”になる」


 透は答えない。


 だが。


 否定もしなかった。


 なぜなら。


 その言葉に、


ほんの少し魅力を感じてしまったから。


 ーーー


 その時。


 美咲が静かに口を開いた。


「……透くん」


 透は振り向く。


 赤い傘。


 優しい声。


 でも。


 その表情は酷く不安そうだった。


 美咲は落ち着いて見えた。


 それが逆に怖かった。


 感情の揺れすら、

“透に都合よく均されている”

ように見えたからだ。


「私さ」


 一拍。


「本当に、雨宮美咲なのかな」


 透の呼吸が止まる。


 店内沈黙。


 雨音だけ。


 美咲は震える声で続けた。


「最近ね」


「昔の記憶、どんどん曖昧なの」


「好きだった音楽も」


「嫌いだった食べ物も」


「透くんと話したことも」


「全部」


「“透くんが望みそうな私”へ変わってく」


 透は言葉を失う。


 その瞬間。


 世界中で警報が鳴り始めた。


 スマホ。


 テレビ。


 防災無線。


『重大認識災害発生』


 そして。


 窓の外。


 空。


 巨大なノイズの裂け目。


 人々の悲鳴。


 SNSライブ。


 観測。


 拡散。


 現実固定。


 その全ての中心で。


 真壁透は初めて理解する。


 自分はもう、


「被害者」


だけではいられない。


 世界を書き換えているのは自分だ。


 そして。


 その力を、


心のどこかで肯定し始めている。


「真実なんて、最初から誰も求めていなかった」


 人はただ。


「信じたい現実」を欲していただけだ。


 そして。


自分は、それを叶えてしまう。


 雨は止まない。


 世界はもう、


真実に汚染されていた。

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