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真実汚染 — 陰謀論が現実になった世界で —  作者: 逆位相
第七章 「真実汚染」

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第七話 「理想人格」

美咲が変わり始めたことに、透はずっと気づかないふりをしていた。


 ーーー


 最初は小さな違和感だった。


 ブラックしか飲まなかったのに、最近は甘いカフェラテを頼む。


 辛いものが苦手だったのに、平然と食べる。


 昔は映画のネタバレを嫌っていたのに、今は気にしない。


 そういう細かい部分。


 だが。


 最近はそれが隠せないほど大きくなっていた。


 ーーー


 Rain。


 窓際席。


 雨音。


 透はコーヒーを飲みながら、美咲を見ていた。


 赤い傘は今日も椅子へ立てかけられている。


「……どうしました」


「別に」


「なんか見てますよね」


「気のせいです」


 美咲は少し笑う。


 その笑い方。


 昔と違う。


 透はそれを理解してしまう。


 でも。


「昔の美咲」を、本当はもう知らない。


 思い出はある。


 記録もある。


 けれど。


 それが本当に正しい記憶なのか、もう分からない。


 ーーー


「透くん」


「なんですか」


「最近、私のこと避けてる?」


 透は目を逸らした。


「……別に」


「嘘」


 美咲は静かに言う。


「真壁透は、人から嫌われる時だけ分かりやすい」


「……」


「逆に怖い時は距離を取る」


 透は小さく舌打ちした。


「分析やめてもらっていいですか」


「当たってるんだ」


「……」


 沈黙。


 雨音だけが聞こえる。


 その時。


 美咲がぽつりと呟いた。


「私さ」


「……」


「本当に、雨宮美咲なのかな」


 透の呼吸が止まる。


 ーーー


 店内BGM。


 コーヒーの匂い。


 周囲の会話。


 全部が急に遠くなる。


「……何言ってるんですか」


「分かんない」


 美咲は困ったように笑った。


「最近、自分の記憶が変なの」


「……」


「昔好きだったもの思い出せないし」


「知らない景色が浮かぶし」


「あと」


 美咲は透を見る。


「透くんが安心する私に、近づいてる気がする」


 透の心臓が重く沈む。


「そんなこと――」


「あるよ」


 美咲は即答した。


 その声が少し震えていた。


「私、最近あんまり怒らないでしょ」


「……」


「昔はもっと嫌なこと普通に言ってた気がする」


「……」


「でも最近、透くんが嫌がりそうなこと考えると」


 一瞬。


 美咲の表情が歪む。


「頭が痛くなるの」


 透は凍りつく。


 ーーー


 その時。


 透の脳裏へノイズが走った。


 映像。


 美咲。


 笑顔。


 優しい声。


 都合のいい理解。


 自分を否定しない存在。


 そして。


「そうあってほしい」


という願望。


「……っ」


 透は頭を押さえる。


 違う。


 そんなつもりじゃなかった。


 自分はただ。


「失いたくなかった」だけだ。


 なのに。


 能力は。


“理想の人格”へ現実を寄せ始めている。


 ーーー


「透くん」


 美咲は静かに言った。


「私、最近怖い」


「……」


「自分が、自分じゃなくなってく感じがする」


 透は何も言えない。


 言葉が出ない。


 なぜなら。


原因が自分だから。


 その時。


 店内テレビ。


 ニュース速報。


『各地で“人格変質”報告が急増』


『家族や友人の性格が変わったという相談相次ぐ』


『専門家は認識災害との関連を――』


 透は目を見開く。


 周囲の客もざわつく。


『え、俺の友達も』


『最近急に性格変わったやついる』


『怖……』


 SNS通知。


【#人格汚染】


 投稿が高速で流れていく。


《最近、彼女が急に“理解ある人”になった》


《親が別人みたいに優しくなった》


《逆に嫌われ役だけどんどん攻撃的になってる》


《周囲の期待通りの性格になってる感じ》


《これマジで怖い》


 透の喉が冷える。


 もう。


美咲だけじゃない。


 人間そのものが、


「周囲の期待」に引っ張られ始めている。


 ーーー


 美咲は窓の外を見る。


 雨。


 灰色の街。


「ねぇ透くん」


「……」


「もしさ」


 一拍。


「誰かにとって都合のいい人格へ変わっていったとして」


「……」


「それでも、その人は“本人”なのかな」


 透は答えられない。


 答えたくない。


 なぜなら。


それを認めた瞬間。

“今の美咲”が壊れる。


 ーーー


 その時。


 透のスマホが震えた。


【白峰零】


 メッセージ。


《認識汚染レベル急上昇》


《至急避難を推奨》


《現在、“理想人格汚染”が全国規模で発生しています》


 その直後。


 別通知。


【速報】


『歴史教科書内容不一致問題発生』


 透は凍る。


 記事を開く。


 地域ごとに、


第二次世界大戦の記述が違う。


 勝敗。


 被害。


 終戦理由。


 全部。


 人々の認識によって変化している。


 透の頭痛が強くなる。


 戦争。


 支配。


 力。


 憎悪。


 そして。


「歴史は、本当に正しかったのか」


という、心の奥底へ沈めていた感情。


「……やめろ」


 透は呟く。


 だが。


 世界は止まらない。


 ーーー


 美咲が静かに透を見る。


「透くん」


「……」


「最近、世界が“願望”に寄り始めてる」


 その言葉は、


ほとんど答えだった。


 透は初めて恐怖した。


 世界が壊れているんじゃない。


 自分が。


 大切な人を壊し始めているのだと。

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