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真実汚染 — 陰謀論が現実になった世界で —  作者: 逆位相
第七章 「真実汚染」

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第一話 「真実化」

 最初に異変へ気づいたのは、SNSだった。


 ーーー


 朝。


 透はベッドの中でスマホを眺めていた。


 眠っていた気がしない。


 最近はずっとそうだ。


 夢と現実の境界が曖昧になっている。


 通知欄。


 ニュース。


 トレンド。


 全部がノイズみたいに流れていく。


【#死者再演】

【#認識災害】

【#真実化】


「……真実化?」


 透は眉をひそめる。


 初めて見るタグだった。


 タップ。


 大量の投稿。


《昨日冗談で言った陰謀論が本当にニュースになった》


《昨日までネタ扱いだったのに、急に“前から有名だった”って空気になってる》


《都市伝説の場所が実在してた》


《存在しないはずの地下通路見つけた》


《SNSのデマが現実になってる》


《皆が信じ始めた瞬間からおかしくなった》


「……なんだこれ」


 最初はいつものネット騒ぎだと思った。


 だが。


 透は知っている。


 最近の“異常”は、笑い話では終わらない。


 ーーー


 大学は今日も休講だった。


 能力者騒動。


 死者再演。


 認識災害。


 政府は“安全確認”を理由に講義停止を続けている。


 だが実際は、


誰も状況を把握できていない。


 透はコンビニで缶コーヒーを買い、店外ベンチへ座る。


 雨。


 最近ずっと雨だった。


 スマホをスクロールする。


 その時。


 ある投稿が目に留まった。


《某政治家、能力者売買してるらしい》


 よくある陰謀論アカウント。


 フォロワー数数万人。


 透は鼻で笑う。


「……やってそうではあるけど」


 何気なく呟いた。


 すると。


 頭の奥で“ノイズ”が鳴る。


「っ……」


 一瞬だけ視界が揺れた。


 最近よくある症状。


 透は舌打ちする。


「……寝不足か」


 そのままスマホを閉じた。


 ーーー


 夕方。


 透はカフェ・Rainへ来ていた。


 窓際席。


 赤い傘。


 美咲が座っている。


「遅い」


「……別に約束してないです」


「したよ」


「してないです」


 美咲は少し笑った。


 透はその笑顔を見るたび、胸が苦しくなる。


 今でも時々思う。


 この存在は本当に美咲なのか。


 だが。


 隣にいる時間だけは確かだった。


「透くん」


「なんですか」


「最近また顔色悪い」


「元からです」


「それ便利な言葉だよね」


 透はコーヒーへ口をつける。


 苦い。


 だが妙に落ち着く。


 その時。


 店内テレビからニュース速報が流れた。


『本日未明、国会議員・鷹森議員の秘書宅より、大量の違法取引資料が押収されました』


 透の動きが止まる。


「……は?」


 画面には段ボール箱。


 USB。


 機密文書。


 テロップ。


【能力者売買疑惑】


 透の背中へ冷たい汗が流れる。


 数時間前。


 自分が見た投稿。


 そして。


 自分が、


「やってそう」


と思った。


「……まさか」


 美咲は静かにテレビを見る。


 その横顔は妙に無表情だった。


「透くん」


「……」


「最近、“考えたこと”が現実になってない?」


 透の呼吸が止まる。


「……そんなわけ」


「でも思ったよね」


 美咲は透を見る。


「“やってそう”って」


「――っ」


 透は言葉を失う。


 その瞬間。


 スマホ通知。


 SNS。


 トレンド急上昇。


【#能力者売買】


 投稿が爆発的に増えていく。


《やっぱりな》


《前から怪しかった》


《証拠出てきたぞ》


《陰謀論じゃなかった》


《昔から有名な話だよ》


《知らなかったの?》


 透は息を呑む。


 数時間前まで、“ただの噂”だった。


 なのに今は、


“元から存在した事実”


として扱われ始めている。


 だが。


 透は気づいてしまう。


 流出資料の画像。


 見るたび内容が少し変わっている。


 文章。


 日付。


 署名。


 全部が微妙に違う。


 まるで。


“真実になろうとしている途中”。


 透はスマホを握る手へ力を込める。


「……なんなんだよ」


 その時。


 カフェ奥の客たちがざわつき始めた。


『え?』


『地下施設?』


『マジ?』


 誰かのスマホ画面。


 まとめサイト。


《能力者実験施設、日本地下に存在か》


 透は目を見開く。


 その記事。


 数分前には存在していなかった。


 なのに。


 コメント欄には、


《これ昔から都市伝説あったよな》


《有名じゃん》


《まだ知らない人いたんだ》


という投稿が並んでいる。


 認識が、


 現実へ追いつき始めている。


 その瞬間。


 透の脳裏へ映像が流れ込んだ。


 湿ったコンクリート。


 消毒液の匂い。


 白衣。


 拘束椅子。


 能力者の悲鳴。


「――っ!!」


 透は頭を押さえる。


 知らない。


 見たことない。


 なのに。


 そこを、


「知っている」


感覚だけが脳へ流れ込んでくる。


 記憶じゃない。


 だが。


 “そうだったこと”として固定され始めている。


「……ぁ」


 呼吸が乱れる。


 美咲は窓の外を見たまま、小さく呟いた。


「……広がってる」


「……何が」


「皆、信じ始めたんだ」


 店内照明が微かに明滅する。


 窓の外。


 雨。


 人々は皆スマホを見ていた。


 誰もが情報を観測している。


 噂。


 願望。


 陰謀論。


 恐怖。


 それら全部を。


 そして。


 その認識が、


現実を書き換えている。


 透は初めて理解し始める。


 この世界ではもう、


「事実」と「真実」が別物になり始めていると。

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