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真実汚染 — 陰謀論が現実になった世界で —  作者: 逆位相
第六章 「死者再演」

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第六話 「事故の日」

「私、本物になれてる?」


 その問いに。


 透は答えられなかった。


 ーーー


 深夜。


 透は一人、部屋で座り込んでいた。


 電気も点けていない。


 PCモニターの薄明かりだけが部屋を照らしている。


 美咲はもう帰った。


 ……帰った?


 そもそも。


 どこへ?


「……」


 思考がまとまらない。


 最近ずっとそうだ。


 現実と記憶の境界が曖昧になっている。


 だが。


 今日の言葉だけは頭から離れなかった。


『私、本物になれてる?』


 透は頭を抱える。


「……知るかよ」


 掠れた声。


 そんなこと。


 自分に分かるはずがない。


 なのに。


 心のどこかで、


「本物であってほしい」


と思ってしまっている。


 その瞬間。


 視界が激しく揺れた。


「っ――!」


 ノイズ。


 頭痛。


 吐き気。


 そして。


 記憶が流れ込む。


 ーーー


 雨。


 小学生の頃。


 帰り道。


 透と美咲は並んで歩いていた。


『透くんって、ほんとひねくれてるよね』


『うるさいです』


『また敬語』


『別にいいじゃないですか』


 笑い声。


 赤い傘。


 コンビニの灯り。


 透はその光景を、


“知っている”。


 今まで曖昧だった記憶が、異常な鮮明さで流れ込んでくる。


『宿題やった?』


『やってないです』


『絶対怒られるやつじゃん』


『……めんどいんで』


『だめだなぁ』


 美咲は笑っていた。


 馬鹿にするわけでもなく。


 否定するわけでもなく。


 ただ楽しそうに。


 透は、その時間が嫌いじゃなかった。


 いや。


 好きだった。


 ずっと。


 ーーー


 交差点。


 赤信号。


 雨音。


 車のヘッドライト。


 美咲が何かを言う。


 聞こえない。


 透はスマホを見ていた。


 どうでもいい動画。


 ゲーム配信。


 意味のない通知。


 いつものように、現実から目を逸らしていた。


 その瞬間。


 クラクション。


『透くん!!』


「――っ」


 視界が跳ねる。


 美咲が透を突き飛ばす。


 身体が濡れたアスファルトへ倒れる。


 スローモーション。


 ライト。


 衝撃音。


 赤い傘が宙へ舞う。


「……ぁ」


 透は動けなかった。


 理解が追いつかない。


 道路の中央。


 倒れている美咲。


 血。


 雨。


 人々の悲鳴。


 なのに。


 透は。


 動かなかった。


 怖かった。


 頭が真っ白だった。


 美咲は震える声で言った。


『……よかった』


「……」


『透くん、生きてる』


 その瞬間。


 透の中で何かが壊れた。


 ーーー


「――っ!!」


 透は現実へ引き戻される。


 呼吸が乱れる。


 全身が震えていた。


「……俺が」


 掠れた声が漏れる。


 思い出してしまった。


 全部。


 美咲は。


 透を庇って死んだ。


 そして透は。


 何もできなかった。


 助けようとすら。


 動けなかった。


「……っ」


 吐き気。


 涙。


 罪悪感。


 ずっと。


 ずっと逃げていた。


 だから。


「死ななかったこと」にしたかった。


 その願望が。


 能力を暴走させた。


 ーーー


 スマホが震える。


【クロウ:透】


【クロウ:お前今どこだ】


 透は震える手で返信する。


【透:家です】


 既読。


 すぐ通話が来る。


『聞け』


 クロウの声は切羽詰まっていた。


『今マジでヤバい』


「……何が」


『死者だよ!!』


 ノイズ。


 背後で複数人の声。


 怒鳴り声。


 泣き声。


『世界中で増えてる!!』


『しかも数時間前から急激に!!』


 透の背筋が凍る。


『ニュースもSNSも全部それだ!!』


『存在しない奴が普通に街歩いてる!!』


 クロウの呼吸が乱れる。


『透』


『これ、お前だろ』


「……」


『お前、何した』


 透は答えられなかった。


 その時。


 部屋のテレビが勝手についた。


 ニュース速報。


『現在、全国各地で“死亡確認済人物”の目撃情報が相次いでいます』


『政府はデマ拡散を控えるよう――』


 画面が乱れる。


 ノイズ。


 そして。


 街頭インタビュー映像。


 泣き崩れる女性。


『夫なんです……三年前に死んだはずなのに……』


 その背後。


 笑顔で立つ男。


 だが。


 輪郭が不安定だった。


 映像ノイズみたいに揺れている。


 透は息を呑む。


 世界中で同時多発的に、


“帰還者”報告が急増していたことを、


 この時の透はまだ知らない。


 その時。


 部屋の奥から声がした。


「透くん」


 振り返る。


 美咲。


 暗い廊下。


 赤い傘。


 静かな笑顔。


 でも。


 今の透には分かってしまう。


 彼女は。


“死んだ”。


 確かに。


 あの日。


 自分の代わりに。


 なのに。


 透は震える声で言ってしまう。


「……死なないでくれ」


 その瞬間。


 世界が軋む音がした。


 窓ガラスが震える。


 照明が明滅。


 スマホ画面がノイズに染まる。


 遠くで、誰かの悲鳴が聞こえた気がした。


 そして。


 SNSトレンドが更新される。


【#帰ってきた人】



【#死者再演】


 美咲は静かに笑った。


『うん』


『透くんが望むなら』

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