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真実汚染 — 陰謀論が現実になった世界で —  作者: 逆位相
第六章 「死者再演」

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第四話 「死者性」

 死んだ人間が戻ってくる。


 もしそんな話を聞いたなら。


 昔の透なら鼻で笑っていただろう。


 だが今は違う。


 透はもう、


「現実の方が壊れる」


瞬間を知ってしまっていた。


 ーーー


 大学図書館。


 夕方。


 透は人気の少ない端末席へ座っていた。


 画面には古い新聞データベース。


 検索欄。


【雨宮美咲 事故】


 エンターキー。


 検索結果が並ぶ。


 だが。


「……またか」


 記事が安定しない。


 一瞬表示され、


 次の瞬間には消える。


『女子小学生、交通事故で死亡』



『記事は削除されました』



『該当データは存在しません』



『雨宮美咲さん、軽傷』


 内容そのものが書き換わっている。


 透は乾いた笑いを漏らした。


「なんだよそれ……」


 世界が。


 整合性を保てなくなっている。


 その時。


 背後から声がした。


「……やっぱり調べてたんだ」


「っ」


 小野寺だった。


 透は反射的にブラウザを閉じる。


「……何ですか」


「隠さなくていいよ」


 小野寺は向かいへ座る。


 顔色が悪い。


 ここ数日、彼女もまともに眠れていないようだった。


「私も見たから」


「……何を」


「死亡記事」


 透の指が止まる。


「消えたり戻ったりしてる」


「……」


「普通じゃないよ、これ」


 透は何も言わない。


 小野寺は続ける。


「ねぇ真壁くん」


「……」


「雨宮さん、本当は亡くなってるんじゃないの?」


「やめてください」


 即答だった。


 自分でも驚くくらい強い声。


 周囲の学生が一瞬こちらを見る。


 透は俯いた。


「……すみません」


「いや……」


 小野寺も少し辛そうだった。


「責めたいわけじゃないの」


「ただ、最近」


「“死んだ人を見た”って話、増えてる」


 透の胸がざわつく。


 スマホ。


 SNS。


 最近確かに増えていた。


《昨日、亡くなった祖父を見た》


《事故死した彼女が駅にいた》


《ありえないのに母親と会った》


《帰ってきてくれて嬉しい》


《昔からいた気がする》


《違和感あるって言ってる人の方が怖い》


 最初はネタ投稿だと思われていた。


 だが。


 数が異常だった。


 しかも。


 全員が似た症状を訴える。


『懐かしい』


『でも顔が曖昧』


『思い出そうとすると頭痛がする』


 透は視線を落とす。


「……俺じゃない」


 思わず呟いていた。


「え?」


「俺のせいじゃない……」


 小野寺は何も言わない。


 その沈黙が逆に苦しかった。


 ーーー


 夜。


 クロウから通話が来た。


 最近は声を聞くだけで嫌な予感がする。


『お前さ』


 ノイズ混じりの声。


『最近ニュース見た?』


「……何ですか」


『死者目撃』


 透は無言。


『やばいぞ今』


『SNS全部その話だ』


 カチカチとキーボード音。


 クロウは何かを調べながら話している。


『しかもさ』


『全員、“なんとなく知ってる”って言うんだよ』


「……」


『細部は思い出せない』


『でも存在だけ認識してる』


 透の背中へ冷たい汗が流れる。


 美咲と同じだ。


『あと』


 クロウの声が少し低くなる。


『俺、雨宮美咲って女、マジで知らねぇ』


「――っ」


『お前の周りの奴ら、皆“知ってる気”になってるけど』


『俺にはそれが無い』


 透は息を止める。


『だから逆に分かる』


『あれ、後から混ざってる』


「……」


『透』


『お前、何した?』


 透は答えられなかった。


 ーーー


 通話後。


 透は一人、街を歩いていた。


 雨。


 最近ずっと雨だった。


 コンビニ前。


 信号待ち。


 人々はスマホを見ている。


 ニュース。


 SNS。


 動画。


 全部。


「帰ってきた人」


の話題だった。


 その時。


 向かい側の歩道。


 老夫婦が立ち止まる。


「……あ」


 老婆が涙を流していた。


 視線の先。


 制服姿の少年。


 十年以上前に事故死したとニュースになった子役だった。


 少年は笑っている。


 普通に。


 そこにいる。


 だが。


 透は気づいてしまう。


 輪郭が少し揺れている。


 存在が不安定だ。


 老婆は震えながら手を伸ばす。


「健太……?」


 少年は少し困ったように笑う。


「……うん」


 その返答。


 一瞬遅れた。


 まるで。


 “答えを探した”みたいに。


 透の背筋が凍る。


 ーーー


 帰宅後。


 透は玄関前で立ち尽くした。


 部屋の明かりが点いている。


「……?」


 母は仕事のはずだった。


 恐る恐る扉を開ける。


「ただいま……」


 返事はない。


 静かな部屋。


 だが。


 リビングには誰かが座っていた。


 赤い傘。


 黒髪。


 雨宮美咲。


「おかえり」


 透の呼吸が止まる。


「……なんで」


「鍵、昔もらってたから」


 自然すぎる返答。


 だが。


 透は凍りつく。


 そんな記憶はない。


 なのに。


 一瞬だけ、


「確かに渡した気がした」。


 頭痛。


 ノイズ。


 記憶が補完される。


 美咲は静かに微笑む。


 その近くの空気だけ、少し冷たかった。


「透くん」


「……」


「最近、私のこと怖い?」


 透は答えられない。


 怖い。


 でも。


 失いたくない。


 その矛盾で頭がおかしくなりそうだった。


 美咲は少し寂しそうに笑う。


「大丈夫だよ」


「……何が」


「透くんが、私を忘れなければ」


 その瞬間。


 部屋の照明が激しく点滅した。


 ノイズ。


 視界が崩れる。


 そして透は見てしまう。


 一瞬だけ。


 美咲の背後に、


 無数の“死者”が立っていた。


 祖父。


 恋人。


 友人。


 家族。


 誰かに忘れられ、


 誰かに思い出され、


 存在を繋ぎ止められたものたち。


 その全員が。


 透を見ていた。

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