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真実汚染 — 陰謀論が現実になった世界で —  作者: 逆位相
第四章 「情報災害」

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第五話 「救世主」

 “観測者”は、いつの間にか救世主になっていた。


 透はスマホ画面を見つめながら、小さく息を吐く。


《また詐欺グループ摘発》


《観測者リークのおかげ》


《能力者犯罪暴かれた》


《政府より信用できる》


「……知らねぇよ」


 吐き捨てるように呟く。


 だが、その否定はもう半分くらい意味を失っていた。


 実際、自分が匿名で流した情報が発端になった事件はいくつもある。


 悪徳投資。


 能力者ビジネス。


 闇金。


 違法研究。


 全部、“観測”すれば見えてしまう。


 そして暴露すれば、社会は動く。


 最初は偶然だった。


 少し情報を流しただけ。


 騙される人間が減ればいいと思っただけ。


 なのに今は、“観測者”の一言で世論が動く。


 世界が、自分の見た情報へ引き寄せられていく。


 その感覚が、最近は少しずつ当たり前になり始めていた。


 ―――


 夜。


 透はPCの前へ座っていた。


 薄暗い部屋。


 モニター光だけが顔を照らしている。


 最近の透は、半ば習慣みたいにSNSを巡回していた。


 助けを求める投稿。


 怪しい噂。


 能力犯罪。


 見つけてしまうと、無視できない。


《父親が能力者詐欺にハマった》


《弟が危険な能力者グループに勧誘されてる》


《誰か助けて》


「……」


 透はスクロールを止める。


 胸の奥が少し痛んだ。


 別に正義感じゃない。


 世界を変えたいわけでもない。


 ただ、“騙されて壊れていく人間”を見るのが嫌だった。


 だから少しだけ真実を流す。


 少しだけ暴く。


 それだけ。


 そのはずなのに。


 社会は勝手に盛り上がる。


 観測者。


 救世主。


 真実の代弁者。


「……馬鹿みたいだ」


 透は苦笑する。


 でも、完全に嫌でもなかった。


 そこが、自分で一番気持ち悪い。


 その時。


 Discord通知が鳴る。


【クロウ:またやったろ】


【透:知らないです】


【クロウ:お前絶対ちょっと楽しんでる】


「……」


 透は返信しなかった。


 否定しきれないからだ。


【クロウ:でも今マジでヤバいぞ】


【透:何が】


【クロウ:お前の名前で人が動いてる】


 リンクが送られてくる。


 透は眉をひそめながら開いた。


 そこにはライブ配信。


 街頭。


 大勢の人。


 プラカード。


『真実を隠すな』


『観測者を保護しろ』


『能力者管理法反対』


「……は?」


 透は画面を見つめる。


 能力者規制法案への抗議デモだった。


 だが。


 そこで“観測者”は、もはや都市伝説ではなく象徴として扱われていた。


『観測者だけは信用できる!』


『真実を暴いてくれる!』


『政府は隠蔽するな!』


 透は固まる。


 理解が追いつかなかった。


 数ヶ月前まで、自分はただの留年大学生だった。


 無気力で。


 英語から逃げて。


 ネトゲして。


 世界を斜めから見ていた。


 それが今。


 知らない誰かに希望扱いされている。


「……意味分からん」


 だが。


 胸の奥が少し熱くなる。


 必要とされる感覚。


 世界へ影響を与えている実感。


 自分の言葉で、人が動く。


 その快感。


 透は顔を覆った。


「……クソ」


 認めたくなかった。


 でも。


 気持ちよかった。


 しかも最悪なことに、その感情へ慣れ始めている自分がいた。


 ―――


 数日後。


 透は大学帰りにコンビニへ寄っていた。


 雑誌コーナー。


 週刊誌の表紙。


【観測者とは何者か】


「……」


 透は思わず立ち止まる。


 ページを開く。


 そこには匿名リーク一覧。


 能力者社会の混乱。


 そして。


 “政府上層部と能力者組織の癒着疑惑”。


「……は?」


 透は眉をひそめる。


 知らない情報だった。


 だが。


 記事を読んだ瞬間、脳の奥が熱くなる。


「っ――」


 映像。


 政治家。


 会食。


 裏金。


 能力者斡旋。


 研究施設。


 黒塗り資料。


 隠蔽。


「……ぁ」


 透は息を呑む。


 見えた。


 繋がった。


 点だった情報が、一気に線になる。


「……マジかよ」


 小さく呟く。


 これはかなり大きい。


 下手をすれば政権レベルで吹き飛ぶ。


 透はその場でスマホを開く。


 匿名アカウント。


 投稿画面。


 指が止まる。


「……いや」


 危険だ。


 これは今までと違う。


 社会規模だ。


 暴けば、人が死ぬかもしれない。


 市場が混乱するかもしれない。


 誰かが暴走するかもしれない。


 でも。


 もし本当なら。


 こんな連中が裏で好き放題してるなら。


 黙ってる方が間違ってる。


 それに。


 透は気づいてしまう。


 自分が“暴きたい”と思っている理由は、それだけじゃない。


 ――もっと世界を動かしてみたい。


 胸の奥で、黒い熱が脈打つ。


 もしこれを暴けば。


 世界はもっと、自分を必要とする。


「……」


 沈黙。


 数秒後。


 透の指が、送信ボタンを押した。


 ―――


 その日の夜。


 世界が変わった。


【緊急速報】


『政府関係者と能力者組織の不正疑惑』


『内部資料大量流出』


『複数閣僚が会見拒否』


 SNSが爆発する。


《観測者だ》


《また観測者》


《本物すぎる》


 ニュース。


 動画。


 生配信。


 全部が同じ話題で埋まっていく。


 株価急落。


 抗議デモ。


 陰謀論。


 暴露合戦。


 社会全体が熱狂していた。


 そして。


 透は暗い部屋で、その光景を見つめていた。


 モニターの光が揺れる。


 通知音が止まらない。


 世界が、自分の“観測”へ反応している。


 その感覚は、恐ろしいほど万能感に満ちていた。


 まるで自分が、現実そのものを書き換えているみたいだった。


 その時。


 視界が揺れる。


「っ――!」


 映像。


 暴動。


 炎上。


 警官隊。


 崩れる人波。


 泣き声。


 銃声。


「……は?」


 透の呼吸が止まる。


 数秒後、映像は消える。


 だが。


 嫌な確信だけが残った。


 これは、“この先”だ。


 自分が暴いた情報の先にある未来。


 そして透は、初めて理解する。


 自分が暴いているのは“真実”じゃない。


 社会そのものを壊す、引き金なのだと。

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