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真実汚染 — 陰謀論が現実になった世界で —  作者: 逆位相
第二章 「真実視」

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第六話 「ズレ」

 最近、世界が少しだけ気持ち悪い。


 透は講義室の扉を開けた瞬間、そう思った。


 机の配置が違う。


 ほんの少しだけ。


 以前は窓際へ寄っていた列が、今日は中央へズレている気がした。


「……?」


 透は立ち止まる。


 だが次の瞬間には、自分の記憶違いのようにも思えてくる。


 元からこうだったかもしれない。


 毎日ちゃんと教室を見ていたわけじゃない。


 そんなこと、普通は覚えていない。


「真壁、邪魔」


「あ、すみません」


 後ろの学生に言われ、透は慌てて席へ移動した。


 座りながら、もう一度教室を見回す。


 違和感は消えていた。


 いや。


 消えたというより、“気にならなくなった”。


 その感覚の方が不快だった。


 ―――


 講義中。


 教授の声はほとんど耳に入ってこなかった。


 代わりに、周囲の雑音ばかりが頭へ引っかかる。


「え、あの店閉まったの去年じゃね?」


「いや、普通に先週も営業してたぞ」


「マジで?」


「お前別の店と勘違いしてるだろ」


 透の指が止まる。


 店。


 駅前の古いラーメン屋。


 透の記憶では、数ヶ月前に閉店していた。


 シャッターが閉まり、貼り紙まで見た覚えがある。


 なのに。


 昨日、大学帰りに前を通った時。


 普通に営業していた。


 暖簾も出ていた。


 客もいた。


「……」


 透はゆっくり視線を落とす。


 記憶違い。


 それで済む話だ。


 そう思いたい。


 でも最近、そういう“小さいズレ”が増えていた。


 SNSの投稿日時。


 ニュース記事。


 聞いた会話。


 前に見たはずの動画。


 全部が少しずつ噛み合わない。


 まるで。


 世界そのものが、後から辻褄を合わせ直しているみたいだった。


 ―――


 昼休み。


 透は一人で学食の端に座っていた。


 カレーの匂いが妙に重い。


 最近、食欲も不安定だった。


 人混みにいると、頭の奥がざわつく。


 視界へ入る人間の表情。


 声。


 感情。


 雑音。


 それらが勝手に脳へ流れ込んでくる。


「……っ」


 近くの席で笑っている女子学生を見た瞬間。


 断片的な映像が脳裏を掠めた。


 SNS。


 裏アカ。


 愚痴。


 泣いている夜。


 透は反射的に目を逸らす。


「……最悪」


 最近、人の顔を見るのが少し怖い。


 視線を向けるだけで、余計な情報が混ざる時がある。


 以前は“知ろうとした時”だけだった。


 今は違う。


 勝手に入ってくる。


 まるで能力の境界が壊れ始めているみたいだった。


「真壁」


 突然声をかけられ、透は肩を揺らした。


「あ……」


 高田だった。


「顔死んでるぞ」


「元からです」


「いや今日ひどい」


 高田は苦笑しながら向かいへ座る。


「寝てないのか?」


「まぁ」


「最近ずっとそんな感じじゃね?」


「……」


 透は返事をしない。


 高田は少しだけ真面目な顔になった。


「なんかあった?」


「別に」


「その“別に”便利だな」


「便利なんで」


 軽口。


 いつもの会話。


 だが高田はまだ透を見ていた。


「……無理してんなら、休めよ」


 その瞬間。


 透の脳裏に、一瞬だけ別の光景が流れた。


 夕方の教室。


 高田が誰かへ言っている。


『真壁、最近ちょっと危ない感じする』


「っ」


 透は目を逸らした。


「……どうした?」


「いや」


 まただ。


 最近、“まだ起きてない会話”みたいなものが混ざる時がある。


 未来なのか。


 想像なのか。


 区別がつかない。


 ―――


 帰宅後。


 透は部屋へ入るなりカーテンを閉めた。


 暗い。


 静か。


 それなのに落ち着かない。


 PCを起動する。


 画面の光だけが部屋を照らした。


 検索欄。


 カーソルが点滅している。


 透は数秒迷った後、文字を打ち込んだ。


『雨宮美咲』


 検索結果が並ぶ。


 古いSNS。


 卒業アルバム。


 事故記事。


 透は無意識にスクロールしていた。


 すると。


「……は?」


 ある写真で指が止まる。


 中学時代の集合写真。


 その端。


 美咲が笑っている。


 それ自体は普通だった。


 問題は。


 透の記憶では、その写真で美咲はピースをしていた。


 でも今は違う。


 イヤホンを片手に持っている。


「……なんだよ、これ」


 喉が乾く。


 前からこうだった?


 記憶違い?


 でも。


 妙に引っかかる。


 透は写真を拡大する。


 その瞬間。


 視界が揺れた。


「っ――」


 放課後。


 夕焼け。


 美咲の声。


『これ片方聞く?』


 イヤホン。


 笑い声。


 透は息を止める。


 次の瞬間、映像は消えた。


「……なんで」


 透はモニターを見つめる。


 思い出した。


 のか?


 それとも。


 “写真の方が変わった”のか?


 区別がつかない。


 そして、そのことが何より恐ろしかった。


 その時だった。


 Discordの通知が鳴る。


【ユウ:お前起きてる?】


 透は数秒遅れて返信する。


【透:起きてる】


【ユウ:なぁ】


【ユウ:前に話したラーメン屋あるじゃん】


 透の心臓が一瞬止まる。


【ユウ:あれ閉店してなかったっけ?】


「……っ」


 透は画面を見つめる。


【透:お前もそう思う?】


【ユウ:いや今日普通に営業しててビビった】


【ユウ:俺の勘違いかな】


 透は返信できなかった。


 やっぱり。


 自分だけじゃない。


 世界のどこかで、少しずつ“ズレ”が起きている。


 その時。


 PC画面の端で、ニュース通知が表示される。


【一部SNSで“記憶違い現象”が話題に】


「……は?」


 透はゆっくりその記事を開く。


 そこには、


『以前存在したはずの店』

『記憶と異なる写真』

『変化した記事内容』


について語る投稿がまとめられていた。


 そして記事の最後。


 そこには、短くこう書かれていた。


『観測者出現以降、“認識のズレ”を訴えるユーザーが増加している』


 透は無意識にモニターから目を逸らした。


 心臓が嫌な音を立てる。


 もし本当に。


 世界が変わっているなら。


 変えているのは誰だ。


 その答えを、透はもう薄々理解し始めていた。

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