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tears  作者: hanon
序章 -漣-
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2/4

2話

和祢は昔から口で言うほど恋愛に興味はなく、あっても自分から動くような男ではない。あの娘が可愛いと正直に口にするだけの奴、それが和祢である。


そんな和祢が漣に気持ちを溢すほどに恋心を抱いた相手。


「おった」


「噂をすればなんとやら」

「余計なこと言うなよ」


衣川麗奈。

好みの問題が大半を占めているが、漣から見ればお世辞にも美人だとは言えない。けれど、確かに可愛くはある。

ついこの間まで中学生だったとは思えないような、落ち着いて大人びた雰囲気は、頭の先から胸の下までを流れる長い黒髪のせいか、それとも似合っていない眼鏡が顔を隠しているせいか。


「文化祭の出し物報告しやなあかんのやけど。あ、お昼食べた?」


取っつきにくい見た目を和らげるかのように、口を開くと優しさが滲み出る。


「これからやけど、衣川さんは食べたん?」

「まだやよ。今井くんがまだやったら石川くんも、まだ?」

「うん。つーか、」

「な、なに」


ふらふらと波に漂うくらげのように、空を流れる雲のように、掴み所のない和祢を落とした女子は意外にも普通の子であった。

面食いの和祢のことだからどんな美女かと思えば。朝生梨久や千草綾には到底追い付かないような、普通の女子だ。


「近くで見ると、うん」

「え、ほんまなに」

「レン、困ってるやろ」


見た目は普通だけれど、五十嵐冬馬の好きな女子でもある。

だから決して"普通"ではない。

クラスが違うのに、入学した当初から青木涼子と並んで男子たちの噂の的でもある。

どこにどんな秘密があるのか。ただそのことだけが気になって仕方なかった。


凝視されて頬を赤く染めた麗奈の反応に気付くと、漣は閃いたように目を見開いた。


「衣川さん、腹黒やろ」

「レン、ええ加減にせんな怒るで?」


和祢に首を締め上げられている漣に向かって、麗奈は楽しそうに笑顔を浮かべた。てっきり怒るもんだと思ったのに、怒りもせず苦笑いを浮かべる訳でもなく楽しそうに笑っていた。


「すぐ終わるけ、今井くんええかな?」

「ご、合格…もうずっと預けるわ」


気に入った、というわけではない。

いい人過ぎてその内バカを見そうだと心配になった。和祢といればバカを見ないで済みそうだ、そう感じただけ。


「ついてくんなよ」

「昼まだやもん」


どうせ和祢は一人だったら何もできないのだ。漣がいれば少しはうまく事が運ぶだろう。

漣の考えていることを察した和祢の嫌そうな顔が面白くて、笑いを堪えるのに苦労した。


「終わったら三人で食べよ」

「へっ?」


麗奈の無邪気な笑顔に戸惑ったのは漣のほうだった。まさか昼飯に誘われるとは予想もしていなかったのだから。

驚いて麗奈を見返す漣を横目で見ると、和祢は呆れたように深くため息をついたし、そんな和祢に気付いた麗奈は目を泳がせてうつむいてしまった。


「みんなお昼終わってるやろし、楽しい方がええかなて思って……」

「や、やよなあ!楽しい方がええに決まってる!」


普段の自分なら絶対にフォローなんてしないのに。咄嗟に作り笑いをすると、麗奈は顔をあげて大きな瞳を輝かせた。


「よかったー!今井くん、はよ行こ!」

「俺は衣川さんと二人がよかったんやけど」

「二人より三人、三人より四人やよね」

「そのわりには五十嵐くん以外の友達いてないよね」

「…い、いてるし」


教室に入っていく二人の背中を見送ると、漣は肩を落としてため息をついた。


「…なんぞあいつ」


変な奴。変に可愛らしくて驚いた。

大抵の男子はああいう女子を"守りたい"と思うのだろう。狙っているのか天然なのか。悪意を持って見れば狙っているとしか思えない。

見た目の雰囲気と人柄のギャップに酔いそうだ。


衣川麗奈。


大人びた見た目と、柔らかで可愛らしい反応をする不思議な女子。

あんな珍しい女子の近くにいれば、素直な和祢が心を奪われてしまったのも納得できる。純粋だからこそ、猛毒で。


和祢が少しだけ心配になった。





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