1話
高校生になって変わったこと。
世界の広さを少しだけ知った。
「みっちー…よう受かったな」
「髪の毛の色違うて誰やらわからなんだわ」
同じ中学出身の藤原道明の姿を見つけた和祢はジュースの紙パックを持っていた手を振る。
和祢は憎めない奴なのだ。
「なあレン」
和祢と同じように道明に手を振ってみると、道明は笑顔でさらに大きく手を振った。道明のまわりにいた奴らは振り返って和祢と漣のいる校舎を見上げた。
道明に関しては昔からだが、その道明でさえも最近は霞んで見える。
高校とはすごい場所なのだ。
"すごい"という自分の語彙の少なさに漣は唇を尖らせた。
「なんぞ?」
大人しい人間はキレると怖いとは言うが、和祢は穏やかではあるが大人しいわけではない。しかしキレると怖い。
静かに怒る人間が一番怖いのだと、和祢を見ている漣は知っていた。
「俺、好きな子できた」
はいはい。と、漣は心の中で呟いて道明たちの姿を目で追う。
身長の高い道明よりもほんの少しくらいしか変わらない背丈の二人。
本田慎一、五十嵐冬馬。
どちらも入学した時から話題の奴らだ。女子の間では王子と呼ばれていることは有名な話。
そいつらよりも頭一つ分くらい小さい活発そうな奴、藤枝圭介。見た目の派手さだけなら一番目立つ。
圭介の肩に手を置いて何やらふざけているのは、朝生空。
本田慎一の彼女の双子の弟である。
上品な顔立ちをしているのにひょうきんで話しやすくてはっきりしている。朝生空といるときの本田慎一はおもしろくて話しやすい人になる。元々そうなのかもしれないが、単体の本田慎一は正直に言って話しかけにくい。
そして黙って腕を組んでいるのが、望月大地。おかしな意味ではなく男から人気がある。
一人でいたって個性が強いのに、6人が揃えば黙っていても目立つ。
そんな6人のまわりにいる女子もそれだけで目立つものだが、こちらもまた個性が強い面々ばかりだ。
平穏な高校生活を夢見る自分たちには見ているだけでお腹いっぱいと言ったところ。
「聞いとる?」
「誰ね」
あの中で道明を抜いて誰が一番話しやすいかと聞かれれば、五十嵐冬馬だと即答できる。
人懐っこくて気さくで、王子と呼ばれているのに全く気取ったところがない。そこも含めて王子と呼ばれているのは心の底から尊敬できる。
「衣川麗奈、さん」
「…あとは?」
まあ、信頼できるかと聞かれると話は別だが。尊敬と信頼は別のものだから。
「あとはって、別にいてないけどさ」
五十嵐冬馬に優しい笑顔を向けられたなら、誰もが惚れてしまうだろう。
その気になれば本音と建前の使い分けがうまそうだ。友人たちに囲まれていたって、明らかに一人だけ次元が違う。そう、自分たちとは違う人間なのだ。
「カズには無理やろ」
そんな五十嵐冬馬がライバルだなんて。可哀想だけれどあんな奴、和祢じゃ太刀打ちできない。
「…やっぱり?」
高校1年生の春の終わり。
そろそろ制服も半袖に切り替わる季節のこと。
漣だけではなく、和祢も知った。あるいは漣よりも先に気付いていたのかもしれないが。
小さな小さな世界が少しずつ広がり始めていたこと。




