畏まりました!お嬢様
十月二十一の深夜一時に予約投稿したつもりだったのだったのですが、投稿されていませんでした。
……しばらく更新できず申し訳ありませんでした。
詳しくは活動報告にてお知らせいたします。……研究発表とかそんなのが理由です。
決闘騒ぎから明けて、翌日。リーヴァの予想通り、ケティルは教室内、学内に限らず多くの注目を集めていた。だが、ケティルに驚きや動揺はほとんどない。予想していたのも理由の一つだが、もう一つの理由が彼女にはあった。
「元々、九大竜族なのに角無しなんだって、じろじろ見られてたからね」
それはマイナスの理由だったが、言われ慣れたケティルはそこまで気にした様子は無い。むしろ、それを本人以上に気にしている人物がリーヴァとナスターシャだった。
「……お嬢に不躾な視線を」
不躾に自らの主に視線をぶつける輩に憤るリーヴァ。敵意を込めた視線を好奇心で瞳を輝かせる連中に容赦無く飛ばす。ちなみにそれなりに修羅場を潜り抜けたリーヴァのそれはかなりの眼力である。
「まぁまぁリーヴァ、私は気にしてないから落ち着いて」
「……俺は落ち着いている」
「いやいや、どう見てもすごく睨んでいるじゃない。それとも自分が注目されてないのが気になる?」
「ぐ……い、いや、そんなことは無い」
ケティルの容赦の無いツッコミを受け、急にどもるリーヴァ。無論、ケティルの事を第一に考えていたのだろうが、自分がちょっと注目されるかも、と少しは考えていたのだろう。ケティルはそんなリーヴァの隠していた願いをしっかりと見抜いていた。
無論リーヴァの視線はあっさりとスルーされていたのは言うまでも無い。王宮の探査結界すら無効化する隠密性は伊達ではないのだ。
小さな期待があっさりと粉砕されたリーヴァは、授業が終わるなり逃げるように温室……というか温室跡地へと足を運んでいた。残骸が無残に転がるその風景は今のリーヴァの精神を表しているかのようであり、余計にリーヴァの心を虚しくさせるだけだった。
「……虚しい」
人に気付いてもらえない位なら、悲しい事になれている為、立ち直ることが出来たであろうが、廃墟と化した温室と組み合わせることで、予想以上のダメージを受けたようで、大きなため息を一つすると、足取り重くその場を去るのだった。
リーヴァの手慣れた手付きによって、淹れられた紅茶から芳しい香りが室内に立ち上る。紅茶の香りによって彩られた食事の後のティータイムは柔らかく主たるケティルと、その従者リーヴァを包み込むようであった。
「はぁ、やっぱり落ち着くねぇ」
紅茶を口にして、深く息を吐くと、ケティルはその体をテーブルにだらりと預け腑抜けていた。体に宿る力のほとんどを弛緩させてリラックスの極みにケティルは浸っていた。
「だらしないぞお嬢。もう少し淑女としてだな」
「もうっナスタ姉ぇみたいなこと言わないでよ」
リーヴァの小言にケティルは頬を膨らませて反論する。無論、このポーズを取ればリーヴァが言う事を聞き易くなるというのを知っての事だ。ちなみにこれもミトラの影響だったりする。
「……そのナスタ姉ぇに頼まれているんだよ。あんまり甘やかすなって」
だが多少、心を動かされかけるものの小言は撤回しない。長年ケティルを見てきたリーヴァも流石に少々慣れがあるし、なによりナスターシャに十分すぎる程に言い含められている為、屋敷に居た頃とは違い厳しくなっていた。
(……怒られるのは俺だからな)
リーヴァと同等かそれ以上にケティルに忠誠を誓っているナスターシャ。だらけるのが慣れて、屋敷でもこんな姿を晒そうものなら、間違い無く折檻されるのはケティルでは無く、それを注意しなかったリーヴァだろう。身を持ってそれを知っているリーヴァは出来る事ならそれを避けたかった。
だが、運命は甘くは無い。そもそも、公爵家がまでが絡んだ今回の騒ぎが広がらない方がおかしい。
「ふふふ……リーヴァ。入学して一か月も経っていないのに、よっぽど……」
何処かの貴族からケティルの母が仕入れてきた話はほどなくナスターシャの耳に入る事になった。魔力とは微妙に違う黒い空気をナスターシャは纏っていた。それは他の使用人達が思わず距離を取ってしまう程禍々しい気配。
「さて……入学してから一か月。確か、明日から連休よね」
そう言ってナスターシャは綺麗すぎる微笑みを浮かべていた。ちなみに彼女にリーヴァを呼び戻すつもりはさらさらない。
なぜなら最初の連休には戻ると既に決まっていたからだ。
「ああ……でも本当に……」
そこで一端、深呼吸をするとナスターシャはエプロンドレスを翻し、リーヴァのお仕置きに向いていた意識を別のものへと傾ける。
屋敷内に幾つもある噴水の一つから水をバケツへと汲み。危なげ無く温室へと運び入れる。バケツに汲まれた水はそこでじょうろへと移しされ、温室内で育てられている植物達に満遍なく撒かれる事になる。
なんだかんだ言って、ナスターシャもリーヴァの事を弟の様に大事に思っている。物騒な事を呟いているくせに、温室の管理を忘れないのがその証拠だ。ただその優しさが本人の前では微塵くらいしか表面化しないだけなのだ。
「帰ってくるのが楽しみね。ふふふ」
優しさと厳しさ、そしてケティルの傍に侍っているリーヴァに八つ当たり気味な怒りを込めてナスターシャはそう呟いた。
「リーヴァ、支度は大丈夫?」
「大丈夫だ。夕べやっておいた」
朝食を二人で食べながら突然の如く言い出すケティルにまるで用意していた台詞を話すが如くリーヴァは言葉を返した。ちなみに支度と言うのは今日から始まる五連休でケティル達がオーシャン家の屋敷に帰る支度だ。
支度とやや仰々しく言っているが、これでもケティルの家は子爵の位を持つ貴族。下着やら上着やらの服は屋敷にある。何日も泊まる準備をする必要は無い。持って行くものがあるとすれば、連休中にやるように出された宿題や、お気に入りの服位だろう。
「私の……」
「……代えの下着の準備と宿題は自分でやってくれ。というか屋敷にあるだろ?」
「ええ……直接身に着けるのは気に入ったのじゃないと落ち着かないのよ」
「だったらなおの事、自分で選んでくれ……頼むから」
年頃の女子とは思えないケティルの言葉に溜息を吐くようにリーヴァは言葉を返す。特に後半の言葉は切実ささえ感じさせるほどの声色だった。
(洗濯ならまだいい……良くはないが、だが、持って行く下着を俺が選ぶのだけは――――――)
専属のメイドが居ない以上、護衛も身の回りの世話もリーヴァの仕事だ。洗濯は自分のものもあるのでなんとか自制出来るが、下着を選ぶのだけは出来れば勘弁してもらいたいリーヴァだった。なにせ、自分が選んだ物をケティルが履いているなぞ、想像しただけで羞恥で頬に熱を覚えてしまう。それに自分の好みをケティルに知られてしまいそうになるのも、リーヴァをもやもやさせる理由には十分だった。
(でも……決闘騒ぎから日をほとんど開けずに連休っていうのは都合が良かったな)
今日は決闘日の翌日とあってケティルの注目度は相当なものだったが、流石に連休を挟めば騒ぎも大分沈静化するだろうとリーヴァは予想していた。なんだかんだ言って、生徒はほとんどが十代半ばの者達だ。大型連休で大なり小なりの予定があるはずだ。それでもまた注目する者は居るだろうが、それでも今現在よりも少なくなるのは必至、誰も彼も警戒しなければいけない現状に比べればマシだろう。
「……三十分後に出発するからな」
「ちょ……リーヴァ」
ぼそりと呟き縋りつく様なケティルの言葉を背に受け、リーヴァは自室の扉を閉める。
「偶には厳しくしないとな」
宿題と自分の持って行くものの準備。他者から見れば厳しくもなんともない当然以上の何物でもない行為を厳しいと分類するリーヴァ、彼は今日も今日とて過保護極まりない執事だった。
「ゆ、揺らさ……おぅ!」
十五メートルの体躯を誇る巨大な竜の背から情けない声が青空に響き渡る。
「全速前進よ!!」
「畏まりました!お嬢様!!はいよ――――!」
「――――――!!」
情けない声の持ち主はリーヴァ。そして十五メートルの蒼き竜を駆るのはオーシャン家のメイドの一人というかケティルの専属メイド、ナスターシャだった。その竜を駆る腕は竜騎士と見紛うほどだった。
そして、そのナスターシャを焚きつけているのが、二人の主たる少女ケティルだった。竜に取り付けられた鞍の上できゃいきゃいとはしゃぎながら、色々と指示と言う名の迷惑な命令を次々とナスターシャに飛ばしている。いや、正確にはリーヴァに迷惑な命令を飛ばしていた。
「うごっ……ぎぃあああああああああああ!!!」
「リーヴァ、うるさいわよ」
「品の無い悲鳴。お嬢様の専属という自覚を持ちなさい」
高高度で飛びまわる竜の背から普段の感情に乏しい声からは想像もつかない恐怖に彩られた悲鳴。現在の高度は優に数百メートル近い。それぞれ水と純粋魔力を操れる二人なら空から落ちようが生還できるのだが、リーヴァはそうはいかない。しょぼい腰ひもでなんとか保持されているこの状況で平静でいろと言うのが無理だった。
「品の有る悲鳴ってなん……ですかああああああ!?」
竜の軌道が安定した瞬間、抗議とも質問ともつかない声をあげようとした瞬間、それを見計らったようにナスターシャは更に激しく竜を駆り、再びリーヴァは悲鳴を出すだけのモノへと逆戻りさせる。
「なにか言いましたかリーヴァ?」
「くぅ……はぁはぁ、らああああああ!?」
けらけらと上品に笑うナスターシャと、そんな彼女と言う通り品の欠片も無い悲鳴をあげるリーヴァ。
なんだかもう、ナスターシャさんは絶好調も絶好調だった。
「到着です。お手をお嬢様」
「うん。ありがとうナスタ姉っ」
「……ナ、ナスターシャとお呼びください」
呼称を変える様にナスターシャは言いつつも、照れる様子からは喜びしか感じ取れない。
「……ぐ、や……っと着いた」
明るい空気をこれでもかと発散する美少女主従コンビを尻目に、真逆の暗い空気をリーヴァは発散していた。だが、声色には苦手とする空から解放されたことに対する安堵が溢れていた。
「お嬢様の荷物、ちゃんと運んでおきなさいよ」
「……了解。ナスタ姉」
疲れ果てた弟分に言う台詞しては辛口にも程がある言葉。そんな聞いた者によっては凹む事必至の言葉を聞いて、リーヴァは自分の帰るべきに帰って来たと実感したのだった。
仕事の合間にちょいちょい弄っていると、何を書いているのか分からなくなってくるという。
なんとか、週一のペースに戻せるようにいたします。




