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この決闘の審判者は俺だ

 大分投稿が遅れてしまいました。申し訳ありません。

 


 方や、水精霊の聖域の一部を召喚し、戦場を意のままに操った穢れ無き水の乙女ケティル・オーシャン。

 そして、もう片方は上級精霊を憑依召喚込みで二体同時に召喚し、縦横無尽に戦場を飛び回った雷の翼の具現アストリア・テスラ。

 どちらが優れ、どちらが劣っている。二人の戦いはあまりにも対照的過ぎて、簡単に評価できるものでは無かった。これが、片方が戦闘不能になっていれば、良かったのだろうが、両方とも降伏したものだから、話はややこしい事態に陥っていた。


「テスラ先輩。私の負けです。先輩があの槍を寸止めしなければ、あそこで私は負けてました」

「いえ、あそこで寸止めしたのはあくまで私の意思。それで勝ち負けを決めようとは思わないわ。あの時の私はあの状態から貴女が何も出来ないと侮った私のミスよ」

「いやいや、そう言う問題では無いです。戦場なら私、死んでましたよ」

「ミス・オーシャン。あれはあくまで決闘よ。なら決闘として勝ち負けを決めましょう」


 二人の言い争いに近い話し合いはお互い一歩も譲る気配は無く、舌戦は静かにだが、確実にヒートアップしていく。


「それに貴女の最後の攻撃。あれは全力では無かったでしょう?私の雷撃魔法が皆に被害が及ばないように、貴方が力を割いていたのは知っているのよ?」


 アストリアの最後の放った轟雷。その威力は水に支配された領域にあって、その支配者たる水を一方的に押しのける程の威力を有していた。水の聖域と言う自身に圧倒的に有利な状況にも関わらずケティルは右足と右手にかなりの火傷を負ってしまったのだ。だが、ケティルはあの時、全力で防御したわけではなかった。闘技場内の他の人達に自分以上に厚い防御壁を展開させていたのだ。


「う……。でも、それは先輩が先に攻撃を当てなかったから出来たからで……」

「それは先も話したでしょう?ここは戦場じゃないわ。あくまで決闘。なら決闘の流儀で勝負を決めるべきよ」

「おいおい。二人で言い争いをするんじゃない。何の為に俺が居るんだ?一応は審判だぞ」


 自分達の力に自信がある以上、負けだと思ってしまった以上、互いに引かない二人を宥めたのはライスナーだった。彼の役目は審判。いくら二人が勝ちを譲り合ったとこで、所詮は主観の押し付け合い。客観的に二人の戦いを見て、実際の勝敗を決めるのは彼の役目だった。


「とりあえず、結果からさっさと言うぞ。総合的に見て……ミス・テスラ。お前の勝ちだ」


 さっさと言う言葉通りに、あっさりとライスナーはアストリアに勝利を告げた。そこには熟考の気配は微塵も無い。


「ちょ……」

「焦るなミス・テスラ。説明ならするさ」


 勝利を告げられたにも関わらず、文句を言おうとするアストリアだったが、そんなことはお見通しとばかりにライスナーに手で制され、口を紡がざるを得ない。


「まぁ概ねはミス・オーシャンの言った通りだ。ミス・テスラが槍を叩き込んでいれば、ミス・テスラの勝ちだった。……ミス・テスラはミス・オーシャンが自分の攻撃に対して全力で防御をしていない、と言っていたが、そもそもミス・テスラが寸止めしなければ、最後の雷撃をしなくても良かっただろうな」


 ライスナーの言葉は概ね、ケティルの主張と変わらないものだった。アストリアは依然として納得出来なのだろう。形の良い眉はやや不機嫌に歪められていた。しかし、ライスナーの言葉はそこでは終わらなかった。


「だが、ミス・テスラの言葉も無視は出来ない。俺も、槍を突き付けられたミス・オーシャンを見て、勝負は決まったと思っていた。確かに戦場であったなら、命取りになっていたかもしれないな。その点を見るなら……ミス・オーシャンお前の勝ちだ」


 今度はケティルがアストリアの代わりに怪訝な顔をする。


「それって……」

「結局、私達が話してたことと変わらないですよね」

「まぁな」


 もっともらしいことをライスナーは言っていたが、それは結局のところ、二人の話を統合したに過ぎない。二人の美少女が同時に放つ白い目はリヴァイオールの国家中枢を担う上級貴族足るライスナーをして、思わず後ずさりしたくなる程に強烈なものだったが、腹芸にも秀でたライスナーはそれを表に一切出さない。


「色々言ったが、やっぱりミス・テスラお前の勝ちだよ。あくまでこれは決闘だ。なら勝敗も決闘のルールに準ずるのが適当だろう?」

「ぐ……で、でも」

「文句を言いたいのは分かるが、この決闘の審判者は俺だ。文句を言うなら今、俺が言った決闘のルールに該当する形で文句を言ってくれ。ちなみに最初から本気を出していないとかは無しだぞ」


 やや強引にライスナーは自身の決定を最終判定にしようとする。それに感情的に抗議をしようとしたアストリアだったが、その後に続いたライスナーの言葉には口を噤む他無かった。


「第一どうして、そんなに負けたがるんだ?勝ったんだから、派閥の取り潰しは無しだぞ。今後、自分の家の権力を笠にした強引な勧誘は禁止するが、お前自身の力で派閥の勢力を伸ばすのは自由だぞ?」


 ライスナーの抱く疑問はもっともなものだった。そもそも今回の決闘は互いの派閥の存続を掛けてのものだった。……無論、ケティルが派閥を作った事実は一切無く、そこからして勘違いから行き着いた決闘なのだが、アストリアの派閥の未来が掛かっていた決闘だったのは揺るがない事実であった。だからこそ、勝ちに固執して然るべきなのに、何故かアストリアは自身が負けたと主張しているのは不自然だった。


「う……そ、それは」


 思わずアストリアは口ごもる。彼女としては負けたくはない。ライスナーが勝ちを素直に受け取りたい気持ちはある。


(……でもやっぱり納得できないところが有るのよね)


 アストリアはどうしても最後に放った大雷撃を他に余力を回しながら防いだのがどうにも気にかかっていた。言うなれば試合に勝って勝負に負けた。そんな状態だった。


「お嬢様……」

 

 悶々と悩み続けるアストリアに忠実なるメイド少女アイラが心配そうに声を掛けた。アイラは自分の主であるアストリアが何を思い悩んでいるかを正確に理解していた。幼き頃より仕えるべき主の傍に侍り、侍従とは何たるかを教え込まれた彼女にアストリアの心の内を察するなど、雑作も無い事だった。

 そんなアイラの憂いを帯びた視線を受け、アストリアは自身の葛藤を抜きにして、なんとか答えを出すことに成功した。


「アイラ……そう、そうよね」


 うん、うんと一人で頷きながら、幾ばくか晴れやかになった顔でケティル、そしてライスナーに見据えた。


「分かりました。ではお言葉に甘えます。……私の勝利。つまり私達の勝利ということでよろしいですね」

「だからそう言っているだろう?」

「私は構いません」


 まだ、心中では納得はいかないが、自分の負けが派閥の解体に繋がっているのを思い出した以上、これ以上、アストリアは自説を固持すること出来なかった。

 アデルの強引な派閥への勧誘を端にし、公爵家まで関わった一連の騒動は、アストリアの派閥の勝利という形で一応の決着となった。








 飾り気の無い、それでいて品質の良さが滲むドアが開かれ、そのドアの内に蒼い髪を靡かせた華奢な少女が転がり込むように入り込むと、ソファーに寝転ぶ。ちなみにケティルの火傷は既に治癒済みだ。水の魔法は心身の回復にも高い効果を発揮できる。流石に四肢の欠損は専門の術者でなければ難しいが、火傷程度であればケティルでも十分だ。


「お嬢。もうちょっとお淑やかにだな」

「……リーヴァ。疲れてるんだからお説教は後にしてよ」

「後って言っても聞かな……しょうがないな」


 制服が皺になるのをあまり気にしていないケティルに反射的に小言を言うリーヴァだったが、リーヴァの小言なぞどこ吹く風と言った様子で、そのままソファーに身を預けていた。仰向けになりながら、自分を見上げるケティルの可愛さにリーヴァの小言は中断される。無論、その後が来ることは無い。

 自分の、ケティルに対する甘さに内心で苦笑しながら、リーヴァは夕食の準備に取り掛かる。流石にいつもりよりも夕食を作り始めた時間が遅い今日は手早く調理できるものにするつもりだ。


(しかし……俺が負けた事がナスタ姉にバレタラ……おっと今は料理に集中しよう)


 熱したフライパンをバターを落とし、常に中が低温に保たれるように作られている魔法具、氷室から肉を取り出しながら、今日の決闘につらつらと思い出し、一瞬意識が負に落ちかける。同じケティル専属であるナスターシャに自分の失態がバレた時の折檻が脳裏に浮かんだからだ。リーヴァがケティルに甘い様に、ナスターシャもケティルには大甘だ。故にケティルに何かあった場合、もしくはその専属であるリーヴァが何か失態を犯した場合にリーヴァに降りかかるお叱りは半端では無い。

 皆無極まる気配を駆使して逃げてもリーヴァの行動パターンを把握しきっているナスターシャはリーヴァの居場所を看過できるというリーヴァにしか使えないスキルを習得している為、逃げると言う選択肢は存在しない。


(お嬢か俺が言わなきゃバレない……よな。おっとスープを温め直すか)


 鼻腔をくすぐるバターの香りを嗅ぎながら、考え過ぎかと料理に集中する。肉が完全に焼ける前に氷室から今朝作って置いた野菜スープを別のかまど型の魔法具に置き火を入れた。

 この時のリーヴァは知る由も無かったが、公爵家まで首を突っ込むことになった今回の決闘騒ぎが貴族間の噂になって、僅か数日後にはナスターシャの耳に入るのだった。




 カチャカチャと食器が触れ合う。二人はテーブルを挟んで向かい合い夕食を摂っていた。本来、執事やメイドなら主の給仕をすべきところなのだろうが、ケティルは堅苦しいのが嫌いな為、普段二人はこのスタイルで食事することが多かった。ちなみにこれもナスターシャにバレると面倒な事になるのは言うまでも無い。


「はぁ……すごく疲れたわ」

「自業自得だ。そもそも力を抑えろと俺は進言したぞ」

「えー抑えたじゃない」

「嘘を吐くな嘘を」


 互いに遠慮を感じさせない会話を聞く分には二人が主従の関係にあると思う人は少ないだろう。恋人同士、とまではいかないが気の置けない間柄なのは誰が見ても明らかだろう。


「しかし、負けたけど特に何をしろっていうのが無かったのは運が良かったわよね?」

「そもそもが向こうの勘違いで喧嘩を吹っ掛けられたからだろうな。まぁ勝っても何も無かったわけだが」

「それもそうか。でも、メリットが有ったら有ったで面倒な事になりそうだったしね」

「そうだな」


 あまり興味が無さそうにリーヴァは呟いていたが、その内心では色々と考えを巡らせていた。


(どちらにしてもメリット、デメリットは無かったにしろ、お嬢が暫く注目されるのは間違いないだろうな。そうなれば俺も少なからず注目されるやもしれん。多分) 


 人に気付かれないのを地味に気にしているリーヴァ。だが、そこに居ると強く意識されれば、その存在を感知できることも稀にある。


(……偶然か?だが、もしこれが狙いだとしたら……ライスナー・ローレンツ侮れないな)


 国家機密、特に諜報分野における自分の機密性の高さを知るが故にリーヴァは自分を暗剣と疑うライスナーに対する警戒度を高めるのだった。 



 夏休みだったり夏バテだったりと中々時間が割けず更新が遅れてしまいました。今年の暑さは異常ですね。あまり室温と外気温が違うと体を壊すと言いますが、それに準ずると部屋の温度が30度を越えるという。……果たしてこれは体に良いと言えるのか……。謎です。

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