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なに?このちっさいの

 オルスナリアの闘技場。

 その名の由来は九大竜族の一角ノクス・ドラゴンであり、公爵の爵位を有する名家クレイヴ家の祖たる女傑、剣雄オルスナリアにあやかって名付けられたと言われている。

 オルスナリアはかつてリヴァイオールの建国に寄与した九大竜族の中で、その筆頭に数えれる程の英雄である。女性の身でありながら、多くの国々を滅ぼしてなおも進軍を続ける魔人種達に真っ向から戦い、国を失い疲弊し傷ついた人々を救い、そして後の王となるフェニキスを守り続けたその姿勢は今も語り続けられていた。

 そして、フェニキスの幼馴染みという事で冒険の最初から彼女の姿は有る為、話が進む中で徐々にただの少女から英雄へと成長していくオルスナリアの姿は、感情移入しやすいのか多くの人々に高く評価されていた。

 そんなリヴァイオールでは知らぬ者無しと語られる大英雄の名を冠した闘技場の真ん中にケティル達は横一列に並んでいた。

 いつもの制服を着こんだケティル。執事服に蒼いマフラーで口元を隠すリーヴァ。緑色のローヴを羽織ったカナデ。腰に二本の鞭剣を差したリアニ。そして制服というか服を身に纏っていない岩窟人リリオネル。

 目をぎらつかせ、やや興奮気味のリアニを除き、その瞳には恐れや怯えといった感情はあまり浮かんではいない。……かりにも九大竜族を相手に決闘するというのにだ。

 決闘の立会人ライスナーは常識的見れば、絶望的な差にも関わらず物怖じしないケティル達を見て小さく笑みを浮かべていた。

 


「お目見えするのは初めてねミス・オーシャン。決闘を受けて頂けて感謝しているわ」


 自らに怖気づく様子を見せない面々に内心苛立ちながら、金髪の長い髪をフェアリーカールに纏めた少女が勝ち気そうな瞳を更に険しくさせて口火を切る。感謝しているという言葉とは裏腹に右手の甲を腰に当てており、感謝しているようにはお世辞にも見えなかった。

 少女の名はアストリア・テスラ。侯爵家テスラ家の令嬢である。


「……なにか言いなさいよ」


 返事をしないケティルにより一層、険しい表情をアストリアは浮かべるも、当のケティルはというと自信と苛立ちを内包させながら胸を張るアストリアを見下ろし(・・・・)やや放心していた。


(あれ?……なに?このちっさいの)

 

 ケティルの身長は百六十五センチほど、そして目の前にはケティルの胸の高さほどのどう見ても百五十センチにすら満たない身長の少女が頬を膨らませている。全くの余談だが、ケティルはアストリアを金髪縦ロールのオーホッホッホの我儘系お嬢様だと勝手に定義していた。自身もあまりお嬢様然としていないのを棚に上げて。

 つまり目の前のアストリアは金髪の除けばケティルの想定外の人物だった。

 想像の埒外の事態にケティルの脳は若干の機能不全に陥ってしまう。そんな正常判断を失ったケティルはぷんすかという擬音がぴったりの少女の怒り様を見て何を思ったのか、右手をふらふらと動かしていた。


「な、何をするっ!?」

「きゃあ!?」


 パチッと乾いた音が微かに響き、次いでケティルが悲鳴をあげた。

 見れば、アストリアは左手を自身の頭に乗せ、今まで立っていた場所から大きく後退していた。そしてそれに対しケティルは左手で右手を押さえ驚きに目を開いていた。


「……?」


 いまいち事態が飲み込めていないケティルは後ろを振り向きリーヴァを見やると、やれやれとリーヴァは肩を竦めて一言。


「今のはお嬢が悪い。……初対面で頭に手を乗せられて喜ぶ者はそうは居ないぞ」

「わたし、そんな事してた?」


 こくりと頷くリーヴァに右手の痛みの原因を理解してケティルは、右手の掌を注視する。さっと見た分には分からないだろうが、指先がやや赤く腫れていた。頭に置かれた手を掃うのに電気を放たれた事は想像に容易かった。

 無礼と呼んで差支えない位の事をしたのに静電気程度の雷撃で済まされたのは幸運であると言えた。


「あのごめんなさい……」

「よ、よくも……あ、頭を……っ覚悟してなさいよ!!」






「じゃれ合うのはそこまでだ。放課後も無限じゃないし、始めるぞ」


 ライスナーが口を開いた。ただそれだけで緩みかけた空気がガラリと変わる。一瞬にして場の雰囲気を自身中心に変えるそれは、まさに上級貴族、公爵家の血が成せる業なのだろう。


「は、はいっ。申し訳ありません」

「ええ、お願いします」


 ライスナーの発する気配に自分よりも爵位が高い者が少ないが故にアストリアはびくりと体を硬直させたのに対し、女王ミトラに幾度と無く会っているケティルは自覚無くそれを受け流す。

 そんなケティルをライスナーは何処か面白そうに眺め、アストリアは子爵家の分際で物怖じの欠片も見せないケティルに頭を撫でられた以上の怒りを覚えていた。


「さて、先鋒戦からだ。それぞれの代表者は前に出てもらえるか」








 五メートル近い距離を置き二人の人物が対峙する。片方、アストリア側からは予想通りの先鋒アデル・ウンデルス。そしてケティル側からはリアニ・リーフライン。

 亜人で竜人、しかも九大竜族で貴族という地位を持つアデルに対し、リアニは留学生でただの人間、しかも町娘。何もかもが違う二人だったが、お互いを眼前に据えての態度は奇しくも同じものだった。自らの勝利を欠片も疑っておらず自信満々に向かい合う様子は何処か似た雰囲気を感じずにはいられない。


「降参しろ。下等種とはいえ女に手を上げる趣味は無い。痛い目に遭いたくなければ尚更だ」


 それは貴族然として本人は言ってるつもりなのだろうが、傍から見れば見下し精神満載の言葉以外の何物でもなかった。


「ローレンツさん。始めてもらって結構です」

「貴様っ。聞いているのか!?この俺がっ……」

「煩いわね。こっちはもう準備できてるのよ。それともなに?あんたの決闘ってのは口先でやるもんなの?」


 ほぼ無視に近い扱いをされ先まで纏っていた貴族然とした態度があっさりと砕けるアデル。所詮は付け焼刃に過ぎなかったのだろう。そんな彼に対しリアニは右目をやや大きく開き、口元に嘲笑を浮かべていた。舌戦と言うには相手があまりにも張り合いが無いが、一応の勝者は誰が見てもリアニであろう。


「くっ……ふふふ。良いだろう。降参すれば良かったと後悔させてやるからな!」


 アデルは全身に魔力を走らせ両手の指を伸ばし、それぞれの爪をブレード状に変える。その長さは八十センチほどであたかも二振りの剣を携えている様な形になった。

 それに対しリアニは愛用の二振りの鞭剣を左右に手に握り、ハの字に構えた。

 まさに、一触即発。


「ちっ始め!……やれやれ」


 戦いの合図が舌打ち混じりに告げられる。試合開始を宣言したライスナーだったが、本当なら名乗り位はさせるつもりだったのだ。二人の勝手に盛り上がってしまったので、もはや名乗りを上げさせるのは少々無理があった為、渋々省略していたのだ。









 合図と共に二人は同時に互いに向かって突撃していた。

 そして、二人の中間地点よりもリアニ寄りの地点で、それぞれの得物がぶつかり合った。アデルの褐色の肌とは対照的な白い爪剣を縦向きに上から、リアニの鞭剣が横向きに下に相手を得物に喰らい付く。井の字型に組み合ったまま二人は鋭い視線で睨み合う。先までどちらも自身に満ち溢れていたが、この激突でそれは崩れていた。

 先と変わらず自身に満ち笑みを浮かべたアデルに対し、リアニは苦々しげにその表情を歪ませていた。


(九大竜族……甘く見てたわね)


 二人は同時に地を蹴っていた。にも関わらず、二人がぶつかったのは中間地点では無くリアニ寄りであった。それは直線距離におけるスピードはアデルの方が秀でているという事に他ならない。火、水の精霊魔法の他に性格的に合っていた身体強化はリアニにとっては得意分野である。ただ魔力を纏っただけのアデルに勝てると踏んで突っ込んだのだが、一方的に負けるというのは想定外だった。


(単純な身体能力は圧倒的に上ってわけか……それなら)


 そう。まだ劣っているのは身体能力だけだ。まだリアニが負けるというわけではない。



「はっ!」

「――――――――っ!?」


 裂帛の気合と共にリアニの魔力が迸り、異変を察知したアデルは優位な体勢を放棄して大きく後方に飛び退った。

 その僅か刹那の間に今までアデルが居た位置に炎の壁が生まれていた。

 

「危ねぇ――っとおおおおお!?」


 ほっと胸を撫で下ろそうとした瞬間、炎璧の一部が爆ぜアデルへと迫って来た。獲物に喰いつく蛇の様なそれを何とか右手の爪剣で受け止める。

 辺りに甲高い金属音が響き渡った。蛇のように見えたそれはリアニの炎を纏った鞭剣だった。致命的な一撃を止める事に成功するアデルだったが、形を持つ鞭剣はともかく炎を剣で完璧に防ぐことは出来ず、じりじりと熱気がアデルを炙る。


「くっ!」


 体勢を崩すのを承知でアデルは思い切り右手を払い、同時に鞭剣も熱気が自身に影響を及ぼす範囲外にはじき出す。

 がくりと膝を着いてしまうアデルだったが、現状に限ってはそれは幸運だった。なぜなら今までアデルが上半身があった場所を水を纏った鞭剣が通り過ぎていたからだ。熱気に炙れたせいで生まれた汗とは違う、背筋を冷やす汗をアデルはしかと感じていた。

 このままでは同じ場所に居たら間違いなく負ける。戦いが始まる前までの自信は既に彼の中には残っていなかった。浮かび上がる思いは理不尽な怒りだった。


(くそっくそっ!な、なんだなんだ!?人間がサル風情がっ!)


 肥大しすぎたプライドを守る為だけにアデルは地を蹴った。最初の衝突で身体能力だけなら自分が勝っているのは分かっていた。魔力で身体能力を限界まであげて縦横無尽に闘技場をかけて攪乱し決定的な一撃を加える。それが、彼に残された策だった。

 後先考えずに、全力でアデルは右に左に走る。身体強化では九大竜族でも上位のその動きは、最初の早さを遥かに上回っていた。

 鞭剣が、炎が水がアデルに次から次へと襲い掛かるが、そのスピードに追従できずに地面に傷をつけることしか出来ない。

 もはや、激突の瞬間のカウンターしか狙えないだろうとリアニは十字に剣を構える。その構えを見て、アデルは一層体を縮めた。追撃が無いと分かれば左右に体を振る必要は無い。

 アデルは真正面からリアニ向かって突撃した。それは貴族のプライドなのだろうか。

 リアニもそう思ったのだろう。そしてアデルのそれはカウンターを狙う彼女には好都合だった。


「ここっ!」


 アデルが避けられるか避けれないかギリギリの位置に合わせてリアニは全身から炎を噴き出させた。仮にアデルが方向転換していても全身から炎を出せば避けられるわけがないからだ。


(とでも思っていたのだろうな!)


 アデルは炎が出るその瞬間にぴたりと動きを止めていた。あれほどのスピード、止まれるわけが無いと思うだろうが、何も彼が操れるのは手の爪だけでは無い。足の爪を伸ばしてスパイク代わりにしていたのだ。


(終わりだっ!)


 炎が弱まるのを見計らい、アデルはリアニに向かって跳躍し、せめてもの情けに爪剣の腹を驚きに目を見開いているリアニに叩き付けた。これ以上無い手応えに絶対の勝利をアデルは確信した。

 だが、そのまま倒れるかと思ったリアニは、にこりと笑い色が無くなっていく。右手がまるでハンマーの様な形に成り、そこでようやくアデルは不味いと認識がするが、すでに時は遅かった。


「ぶげっ!?」


 無様な声をあげ、アデルは意識を失いながら宙を舞った。

大分、更新が遅れてしまい申し訳ありません。

新人教育プランやら、新人歓迎会の出し物やら色々やってました……言い訳ですが。

おかげで胃が痛いです。

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