準備は出来ているか?
決闘のシーンを考えてたら更新が遅れてしまいました。
圧倒的に勝たせるか、それとも拮抗状態にするか、あっさり負けるか……。悩みます。
「リーヴァが向こうの参加メンバーを調べてきたわ」
さらっとそう言うケティルとは対照的に、カナデとリアニは目を見開いて驚いていた。実は休み時間ごとに数人の上級生が教室の外からケティルを始めとした明日の決闘の参加メンバーの様子を窺っていたからだ。ローレンツの目がある以上、妨害の可能性は低い事を考えれば、情報収集が目的であった可能性は非常に高い。だが、それは同時に向こう側も警戒しているという事だ。それを僅か一日で情報を手に入れたリーヴァの手腕は驚きに値するものだった。
「リーヴァ、報告をお願い」
「あぁ、まずは……」
リアニの言葉に淀み無く報告を始める。
アデル・ウンデルス
ノクス・ドラゴン。伯爵家の三男。地位を鼻にかけた典型的な貴族。無理矢理派閥に入れられた者の中では珍しくテスラに心酔している変人。玉の輿を狙っているらしく、テスラ嬢に良い所を見せるために決闘に参加した。
ガイナン・ブレイバー
ドラゴン・テッラ。男爵家の長男。父がリヴァイオール国防軍に所属し上司にテスラ家に連なる者がいる為、派閥に入れられた。忠義の欠片も無いが、父に迷惑は掛けられない為、決闘に参加したらしい。
キュアン・イラクリオン
ドラゴン・フロンス。イラクリオン家の次男。自身が仕えるに足る人物を探している模様。ドラゴン・フロンスだけあって自由な気質が強い。ただ誘われたという理由だけで派閥に入ったらしい。
アイラ・ローテスラ
フルメン・ドラゴン。テスラ家の執事、メイドを代々輩出しているテスラ家の分家ローテスラ家のメイド。伯爵家の長女のメイドを勤めるだけあって、同年代の中でも抜きんでた実力を持つらしい。
アストリア・テスラ
フルメン・ドラゴン。侯爵家の長女。今回の面倒事の原因。腹立たしい事に爵位と九大竜族に相応しい実力を持ち、雷の上級精霊雷鳥の守護を受けている。ライスナー・ローレンツとは既知の様で、彼には頭が上がらない様子。
つらつらと手元のメモ帳を読み上げていくリーヴァ。一部私心が込みまくった説明や、らしい、様子という単語が多いが半日と言う短い期間で手入れたにしては十分すぎる報告だった。決闘のメンバーが全て爵位持ちの九大竜族という節操も何も無い五人を見てケティルの顔が明らかに歪む。予想通りと言えば予想通りだが、悪い予想だけに当たっても何も嬉しくなかった。
「諜報分野はリーヴァの得意分野なのよ」
そんなケティルの内心とは裏腹に呆気に取られているリアニとカナデにまるで自分の事の様に誇らしげな表情をケティルは浮かべる。人に気付かれにくいが故にあまり認められる事の少ないリーヴァが評価されるというのが嬉しい様である。
「……えっと、このメモの順番通りに決闘していくってことでいいのかな?」
「ん?ああ、連中はそう言っていた」
皆が興味深げにリーヴァのメモを眺める中、リアニがメモの一番上に書かれた名前を指で撫でながら問う。ちなみにその名前はアデルである。
「確かこいつが教室に来た奴よね?」
「……多分」
「多分って……そのアデルって人で合ってるよ」
リアニとケティルが本人たるアデルが聞いたら怒り狂いそうなボケをする中、やれやれとカナデが突っ込みを入れたりと、少々呑気そうながらも五人はそれぞれの決闘相手を決めていく。
とは言え、九大竜族はそもそも魔力、身体能力とほぼ全ての面で人を悉く凌駕している。あまり細かく決める意味は無く、アデルをリアニが相手にする事と、大将はケティルに任せる事くらいしか決める事は無い。
決闘の順番は特に話し合うまでも無くあっさりと決まった。
リアニ・リーフライン対アデル・ウンデルス
リリオネル・アフリー対ガイナン・ブレイバー
カナデ・アステル対キュアン・イラクリオン
リーヴァ・オールス対アイラ・ローテスラ
ケティル・オーシャン対アストリア・テスラ
順番と名前を確かめる様に、ケティルは名前が書き込まれた紙をつつっと嫋やかな指で撫でながら、ふとある疑問がふと脳裏に過り、その疑問を誰に問うでもなく漏らす。
「まぁ下手に悩むことも無いしね……でも、このリリオネルって誰?」
「?何言ってるのリリオのフルネームでしょ」
何を言ってるのとばかりにリアニがその疑問を氷解させた。
一瞬、ケティルにはその解が理解できずに、自室にいるメンバーに視線を向ける。
そこには、当然の様に四人の人物、リーヴァ、リアニ、カナデ、岩窟人がいる訳だが、きょとんとする岩窟人とリアニ以外、カナデとリーヴァは岩窟人にやや驚きの色を込めた視線を送っていた。
「……そ、そうだったわね。フルネームで呼ばないから分からなかったわ」
(リリオって……まさか女の子なの?見た目からは全然判断できないわ)
まさか、フルネームどころか名前の頭文字すらも分からないと言う訳にもいかず、咄嗟にリアニは誤魔化した。そんな彼女の視界の隅でカナデとリーヴァは同じような表情を浮かべ頷いていた。
その日の深夜。
最低限の物しか置かれていない殺風景という言葉が最適な部屋で、部屋の主リーヴァは明日の決闘の為の準備を進めていた。彼の机の上には様々な種類の武器が所狭しと並べられている。魔力の武器化を得意とするリーヴァだが、魔力量は決して多いとは言えない。基本は前回の依頼の様に特殊な加護を受けた武器を獲物にすることが多い。
「……ふむ」
その多くが女王に下賜されたもので、優れた性能を誇る物が多い。というかリーヴァだからこそ扱いきれる物が半分近く占めている。なぜなら……。
「これが持ち主の魔力を無造作に吸い込んで刃に変える剣。振るう程、寿命を喰らう鎌……流石に使う訳にはいかないか」
その他にも、血を啜る槍やら、魔人種の魂が込められた短剣やらロクでも無い物がまだまだクローゼットの奥に収められている。そうこれらの多くは所謂、呪いが込められた武具達だった。
どれもこれも使えば使うほど、持ち主の命に係わるという物騒極まりないものだが、リーヴァの特異体質は物にすら適応されるという無駄な高性能を誇るので呪いの影響の欠片すらも受け付けない。むしろ呪いの武器で相手を傷つけると、使われている事すら気づかない武器達は使われた相手に対してその呪いを発動させる為、呪いの武具の利点だけを得るという反則的な使い方が出来る。
そんなわけで、下手な相手に渡すことも勿体無くて壊すことも出来なかったそれらをミトラから譲り受けたリーヴァだったが、もちろん利点だけでは無い。呪いを受け付けない体質は同時に加護も受けられないので、結局は差し引きゼロである。
そしてリーヴァが口にした通り、流石に決闘程度で命を縮める様な呪いを持つ武器を使うのも常識的に考えてやり過ぎである。
「そうなると……これか」
呪いの武器達から目を逸らし、リーヴァは小さく畳んであった蒼いマフラーを手に取った。本来なら道具に込められた力を意識的に発動できないリーヴァだが、このマフラーだけは別だった。
リーヴァがマフラーに魔力を込めると周囲に幾つもの水球が浮かび上がる。水球を自在に操ることこそ出来ないが、魔力の込め方を変える事で決められた動作や形に変えることが出来るのがこのマフラーの力だった。他の武具と違ってこのマフラーにはリーヴァを認識出来るケティルの髪の毛が編み込まれている為の例外である。
「本来なら、マントを使いたいところだが……そういうわけにもいかないか」
ケティルとリーヴァ共用で下賜されたマントは女王ミトラの髪が編み込まれており、ケティル・ドラゴンの力が限定的とはいえ込められている為、その性能は無駄に良い。リーヴァにはそのありとあらゆる攻撃に対する耐性しかその恩恵は無いが、それだけでもそこらの武具とは一線を隔するものだ。
だが、それほどの性能を誇る物をやすやすと使えば女王に近しいものとバレる可能性がある為、今回の戦闘では使う事は躊躇われた。
結局、決闘にはマフラーだけを持って行くことに決めたリーヴァは物騒なブツ達をクローゼットに収めると軽く伸びする。大分長い事を考え込んだ為か体至る所が悲鳴をあげるが、日の当たる場所での戦いはリーヴァにとって久しぶり過ぎて不安しかない、だが。
「――――」
マフラーを軽く握り、そっと目を瞑る。ただそれだけ、胸のつかえがあっさりと取れるリーヴァはやはりどこまでも主馬鹿だった。
特に妨害なども無く、決闘日の当日は流れていった。
決闘の事を聞いていたのだろう、クラスメート達はケティル達に注目しているが、何処と無くピリピリとした空気を纏う彼らに声をかける事も出来ず、ただただ視線を送る事しか出来ないでいた。
それとは対照的に教師達は特に何のリアクションを見せてはいない、なにせ決闘場がある学園だ。入学生には初であるイベントも教師からすればよくある事なのだろう。
「準備は出来ているか?」
放課後になるなり、ライスナーが教室の扉を開けてその大柄な体を教室へと滑り込ませる。憐憫も嘲笑も込められていない言葉だったが、妙な強制力をケティルは感じていた。これが公爵家のカリスマかなどと益体の無い事を考えながらも特に急ぐでも無く普段通り鞄を持ち立ち上がる。
「リーヴァ」
頼むわよ。そう言おうとしたが、いつの間にかリーヴァの首に巻かれた見覚えのある蒼いそれを見て、ケティルは口角がうっすらと上がるのを止める事が出来ないでいた。
「どうしたお嬢?」
「なんでもないわ。……ご覧の通りです」
「ふむ。楽しめそうだな。行くぞ」
気負いを一切見せない、貴族然とした態度にライスナーは面白そうに口元を歪ませると、太い首に繋がる顎をしゃくり歩き出した。
決闘が始まる。




