表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/34

ナスタ姉の修行の成果だな

感想で誤字指摘があったカナデとリアニが逆になっているところを修正しました。

こんなミスを気付かなかったなんて……すいませんでした。

温室を半壊して余りある爆発の中、カナデは何が起こったのか分からず呆然と突っ立ていたとしていた。

リーヴァがルナ・ドラゴンと比べても遜色がないスピードでナイフを魔力で具現化したのを見て、見惚れた瞬間、突然の大爆発がカナデを目の前で起こったためだ。


「な、何っ!?なんなのっ!?」


先までカナデの眼前に居たはずのリーヴァの姿はとうに無い、温室はガラスのほとんどが吹き飛び、骨組みにまで損傷を受けたのだろう、外観が撓みギシギシとあちらこちらから異音が漏れていた。

割れたガラスはほとんど内側に落ちておらず、温室を襲った爆発が室内で発生したことを示していた。

それほどの爆発にも関わらずカナデは五体満足は元より、爆発前と寸分違わない日本の足で立っていた。

土の竜人ドラゴン・テッラ、

にも関わらず、対して強い肉体を持たないヒューマンたるカナデは不思議な事に全くの無傷であった。

その答えはすぐ目の前にあった。


「え、これって?」


余りの惨状に気付くのが遅れたが、カナデは今、水の膜に覆われていた。


「これ私のじゃない?」


無意識に水の精霊が自分を守ったのではとカナデは考えたが、直接触れて解除しようとしても水の膜を構成する水の精霊達はカナデには耳を貸そうともせず、小揺るぎもしない。

つまり、これはカナデ以上に精霊制御に優れる者が展開したとカナデは解釈した。

そうリーヴァがカナデを守る為に防御壁を展開してくれたと。


「っ!?オールス君と……あ、あれは!?」


甲高い音が幾つか響き、そちらを向くカナデ。

そこにはナイフを構えたリーヴァと鞭剣を掲げる少女の姿があった。


「ちょっと……とにかく止めさせないと」


目を瞑り精霊をより深く感知しやすいように精神を切り替える。

他国への留学が許される程に卓越した彼女をして、舌を巻くほどの水の精霊の制御。

防御壁を解除するにはまだ幾ばくかの時間がかかりそうだった。






「どわあああああっ!?」


困惑の声をあげながら、リーヴァは空中を吹っ飛んでいた。

ナイフをカナデの目の前で物質化して、その物質化のコツでも教えようとした瞬間、横から抗いようがない衝撃に飛ばされた結果だった。

隠密性にこそ他に比肩する者がいない彼だが、その肉体はただの人間に過ぎない。

しかも、それが不意打ちとくれば彼に防ぐ手段はほぼ無い。

温室を半壊させる程の爆発は、彼の体を窓ガラスに叩きつけ、ぶち破ってもなお余りある。

木の葉のように飛ばされたリーヴァ、その距離は十メートル近く。

リーヴァにとって幸運だったのは、爆発の威力が高く飛ばされた距離が長かったことだった。

これが短かったら思い切り地面に叩き付けられていたであろうが、飛距離がある分、着地に衝撃があるだろうが、滞空時間の長さを体勢を整える時間にリーヴァは利用した。

体を捻りあげ、両足を地面へと向け両手を広げ空気抵抗を増大させ、着地点に視線を巡らせる。


「ん?あれは……そういうことか!」


そこには、頭からフードを被った如何にもな人物が温室に右手を突き出して突っ立っていた。

その姿もどう見ても怪しいが、なにより温室がいきなり爆発したにも関わらず、身動ぎ一つせず立っているというのは不自然極まりない。

それに突き出された右手の方向は先までリーヴァが居た位置だ。

状況証拠は十分だ。


(俺の温室を!よくも!!)

「っ!!」


先までの空気抵抗を高める姿勢を急ぎ止め体を細め、自身の体を一本の矢に見立てる。

両足のつま先を矢じりとごとく突き立て相手の胸に定め、衝撃の全てを相手に叩き込む。

まさか爆発に喰らわせた相手が爆風により自身に飛び込んで来ると予想できる者はそうはいないだろう。

それに生来の影の薄さもある。

心理的、物理的死角に入った彼を防ぐ手段は無い。

不審人物もその例に漏れず、リーヴァの反撃は完璧なる奇襲となった。


「ぐっ!がああああああああ!」


まるでハンマーを思い切りぶちかまされたような衝撃が不審者に胸に襲い掛かる。

胸部をを強打され、不審人物は一瞬息を強制的に止めさせられた後、痛みから甲高い声をあげ、リーヴァから受けた運動エネルギーそのままに蹴られた小石のように何度もバウンドしながら地面を転がっていった。

派手に地面を転がる相手とは対照的に、リーヴァはさきまで不審人物が居た場所に涼やかに降り立った。

怒りとともに衝撃を全て不審人物に叩き込むことで自身への衝撃をゼロにしたのだ。



(ナスタ姉の修行の成果だな)


ただの人間……というか精霊制御ができなりリーヴァは、なにもしなければ影が薄いだけの少年に過ぎない。

それ見抜いたケティルの専属メイド、ナスターシャに体術を徹底的にリーヴァは叩き込まれていた。

特に衝撃緩和、受け流しは耐久力、膂力に劣るリーヴァには魔力の物質化と並んで数少ない武器だった。

内心で感謝の念をナスターシャに抱きながらも、リーヴァは警戒を解いてはいない。

不審人物は吹っ飛ばされる姿勢そのままに大地に倒れ伏すかと思いきや、ゆるゆると起き上がり今は膝をついてこちらを睨んでいるのだ。

骨を折る感触を足先からしっかりと感じていたリーヴァにとって相手のその反応はやや予想外と言えた。


「……女か」


転がるうちにフードがずれたのだろう、不審人物はその顔を白日の下に晒していた。

リーヴァと同じく黒髪ながらも、女性特有の艶を讃えた髪。

強い意志を宿したやや釣り目がちな黒い輝きを湛えた瞳。

血を唇の端に滲ませた唇は赤い色と相まって、蠱惑的な魅力を湛えていた。

ヒューマンの女性の姿がそこにはあった。






水の精霊の力を用い、不審人物ことリアニ・リーフラインは体内の状態を診断していた。

ダメージは中程度、今すぐ命に別状はないものの、逆に言えば放って置くのは不味いし、なにより戦闘には耐えられない。

そうリアニは判断した。

心臓や大動脈の損傷は無いものの、胸骨骨折、肋骨骨折、および左の肺の気胸。

骨折も無視出来ないが、特に気胸は肺外に漏れた空気が多すぎる為に、心臓や大動脈を圧迫する緊張性気胸に移行しつつあった。


「ぐっ……水の精霊達よ頼んだわ」


リーヴァへの視線を逸らさずリアニは水の精霊により外傷の修復に入る。

見る見るうちに、リアニの体の傷は塞がっていく。

些細な傷を癒すように重症と言っても過言では無い傷を癒すことから彼女の精霊魔法の練度が窺えた。


「はぁ……くぅ」


肺の損傷が癒え膨らむが、肺の外の空気がそれを拒み、苦しさがリアニを襲う。

痛みの原因が分かるのだろうリアニは、小さな水のナイフを作り、肋骨の間に軽く差し込んだ。


「ぐ、かはぁっ!」


肺を圧迫していた空気が抜ける音が響き、ついでリアニが苦悶の声をあげる。

大方の治療を終え、リアニは片膝を着いたまま、リーヴァを睨みつける。

不意打ちの爆破攻撃を即座に攻撃に転用する機転の良さは異常と言って差し障りない機転の良さ。

一緒にいたカナデの存在が無ければ見落としていたであろう隠密性から、一筋縄ではいかないとリアニも感じていたが、それを以上の力をリーヴァは持っていると彼女は誤解していた。


「……」

「……」


互いの視線が交差したまま、どちらともなく戦闘は一気に加速した。

リアニは鞭剣を伸ばさず剣のままで左右に握るとリーヴァに向って真っ直ぐに突っ込む。

元々彼女は難しい戦術などを構築するタイプではない、戦いの空気、流れを的確に読みその場で最も適した行動をとるのが彼女の戦闘スタイルだ。

右手の鞭剣をリーヴァの脳天に向けて勢い良く振り下ろす。

見た限りリーヴァは無手、精霊術師と考えれば接近戦には弱いだろうし、無手を得手としていたとしても武器を持っている自分が有利だと踏んだのだ。

剣はもとより、杖も楯も、手甲も無いリーヴァにその攻撃を防ぐ手段は、回避ともう一つしか残されていなかった。


「魔力の物資化!?」


肉を切り裂く音とは全く異なる金属音が高らかに響き渡るとともにリアニの驚愕の声が辺りに木霊する。

リアニが振り下ろした鞭剣はリーヴァが物質化した二振りのナイフによって完全に防がれていた。

左手を更に添えてギリギリと手が震えんばかりに力をリアニは込めるが、いかんせん女の身たる彼女では男たるリーヴァの腕力には勝てない。



「はぁっ!!」

「くっ!」


勝機。

これ以上、リアニの力が入らないとみるとリーヴァは一気に両手に力を込め、鞭剣を思い切り弾いた。

ありったけの力を込めたそれに、リアニは後方に大きく体勢を崩す。

そのまま追撃のかけようとしたが、その攻撃はあえなく未遂に終わる。


「炎璧!」


突然の炎の壁が現れリーヴァとリアニを隔てたのだ。


「熱ちぃいい!?」


髪の毛や服を炙られ、慌ただしくリーヴァは安全圏へと一時撤退する。

炎の壁は依然として、空気を焦がし、リアニを守り続けていた。


(あいつ……出来る。精霊術それに格闘術を使うかと思えば魔力の物質化なんてマイナーな技を、とっさに防御できたけどあのままだったらやられてた。……とりあえず距離をとって遠距離から……っ!?そんな気配が……無いっ!!)

「ど、どこに行ったの?」


反撃に打って出ようとリーヴァの位置を掴もうと精霊知覚を働かせた瞬間リアニは異変をつぶさに感じ取った。

先までは、半ば恒常的に働かせている精霊知覚の粗を突かれて奇襲を許してしまったと思っていたのだが、意識的に発動させた精霊知覚ですらリーヴァは見つからない。

精霊使い同士であれば、実力差があれば理論上相手の精霊制御を奪うことが出来る。

だが、それは余程の実力差……そう例えるなら大人と子供程の隔絶した実力差があってようやく成り立つ力任せの技。

しかも、リアニは水と火以外の精霊との相性が凄まじく悪い代わりに、水と火これ自体の二つの相性は火、水の竜人と比べて遜色が無いという極端なものだった。

そんな彼女の精霊知覚をもってしてもリーヴァを捉える事は出来ない。

ここでリアニはリーヴァは卓越した精霊制御を行える使い手だと誤認してしまった。


「散れっ!」


炎璧を解除することに一瞬の逡巡はあったがリーヴァの姿が見えない以上、死角を増やすのは得策ではない。

リアニの指示を受け、火の精霊はタイムラグ無しに霧散する。

視界を確保し、次にリーヴァを見つけたら全魔力を注ぎ込んだ攻撃を叩き込まんと魔力を練り上げておくことも忘れない。

しかし、それも徒労に終わった。


「……えっ」

「は?」


二人を分かつ壁が取り払われ、互いの間抜けな声を双方の耳に届かせた。

咄嗟の事に二人ともきょとんした互いの顔を凝視する。

リアニはまさか目の前にリーヴァが居るとは思っても見なかったが故に。

そして、リーヴァは突然、防御をリアニは解いたが為に。


―――――――――――――――


二人の間にまるで時が止まったかのような感覚が包み込む。

その二人に限った時間停止の中、驚愕の度合いがリアニよりも小さかったリーヴァの体が半ば自動的に動いた。

鞭の様に右腕をしならせ、狙うはリアニの顎先。

先の手加減無しの攻撃を受けて気を失わないばかりか、並々ならぬ治療術を持つリアニに真っ向からぶつかるのは悪手だと判断したからだった。

脳を揺すって気絶させれば当面の脅威は取り除くことが出来る。

そこらの相手であれば、リアニを守護する精霊達が自動で彼女を守ったであろうが、リーヴァは精霊に感知されない。

リーヴァの右拳は吸い込まれるようにリアニの顎へと向かって行った。

迫り来る拳に対し、リアニの体の反応は思った以上に鈍い、意識はリーヴァの拳の握り方が分かる程に研ぎ澄まされているのに体は一切反応してくれない。

しかし、だからと言って甘んじて攻撃を受けようと思う精神をリアニはしていない。

ここに来た目的をまだ何も果たせていない。


(こんなところでっ諦めてたまるもんですかっ!)

「くあああああああっ!」


なんとか首を左に傾け、リーヴァの攻撃を受け流す方向に持って行く。

その試みは僅かではあるものの達成された。

ある程度、脳を揺すられはしたものの、戦闘不能になるほどのものではない。

多少グラつく視界の中、リアニは右手に持っていた鞭剣をリーヴァに向って薙いだ。

脳を揺すったと思った相手からの思っても見ない反撃に、一瞬リーヴァは驚くものの、所詮は全力とは程遠い攻撃。

それに反応できないリーヴァではない。

リーヴァの実体化させていたナイフが鞭剣を見事に食い止めていた。


「……やるな女」

「あんたもね、犯罪者にしておくには勿体無いわ」

「犯罪者?」


まるで親の仇を見るかのような仄暗い闇を孕んだ瞳でリアニはリーヴァを睨んでいた。

無論、彼は犯罪者呼ばわりされる心当たりは無い。

詳しく聞きたい気持ちが込み上げてくるが、相手の実力が高いが故に下手な行動が出来ず精々が睨む程度しか出来ない。

そのまま、時が凍りついたように二人の睨み合いが続く。


「……」

「……」


――――――――――――――――――――――――――


「二人とも止めて!特に何やってんのよリアニ!!」

「あ、カナデ」

「……はぁ?」


爆発とともに始まった二人の戦いは、リーヴァの間抜けな声と共に終わりを告げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ