おばあちゃんは本物でした
祖母は、夏と秋の大祭の時期に、大勢の人々の前で口寄せを披露するらしい。
美古はその場を実際に見たことはない。けれど、祖母がそれなりに有名であることだけは薄っすらと理解した。祭りの時期でなくても、屋敷に観光客が訪れることが多かったからだ。テレビ局も、何度か取材をさせてもらえないかと打診に来た。祖母はそれらを全て断っていた。
美古は、少しでも祖母の力になればと、毎日家の手伝いをした。
目の見えない祖母の代わりに広い屋敷の掃除をしたり、屋敷に来た人を案内したり、お茶を出したりした。定期的に訪問してくれるヘルパーが作り置きした料理に加えて、美古も料理をした。
祖母は美古が家事をする時の足音の速さに違和感を覚えたのか、「あんた、目ぇ見えでるのか?」と少し驚いたような声を出した。
美古はそのたび、誤魔化した。赤子の霊に取り憑かれているなどと言って、祖母に余計な心配をかけたくなかった。
幸せな日々だった。
けれど、祖母が亡くなってからは全てが変わった。広い屋敷は取り残されたように静まり返り、美古は一人きりでそこに住んでいる。
「……おばあちゃんは本物でした」
「本物?」
正一の問いに、美古は頷いた。
「最初は皆、軽い気持ちで来るんです。折角来たからイタコの話が聞きたいって。身近な人の命日を伝えて、遊び感覚で降霊を見る。でも、最後には青ざめて、泣きながら帰っていく人も多くいました」
「……君の祖母は、本当に来客の知人を降霊させていたということ?」
「はい。おばあちゃんが降霊を行うと、喋り方から姿まで、来た人から見て死んだ身内そのままなんです。おばあちゃんに口寄せをやってもらったお客さんは皆口を揃えて、死んだ母にそっくりだった、とか、自殺した友人の姿をしていた、とか言うんです」
実際、美古から見ても、口寄せをする時の祖母は、|姿形そのものが変貌していた《・・・・・・・・・・・・・》。
「青森に来ても、赤子の泣き声はずっと止まないんです。だから、おばあちゃんに死んだ兄を降霊してもらって、死んだ兄に、私の赤ちゃんをどこに持っていったのか教えてもらおうと思ったんです。そうすれば供養ができるかもしれないから……。でもその頃には、おばあちゃんの体が悪くなっていって……」
美古が祖母の屋敷に住むようになってから、一ヶ月半ほどが経った頃だった。ずっと元気だったはずの祖母が、ある日を境に寝込むようになったのだ。
美古はそれを、呪いのように感じた。自分が傍にいるせいで、大切な人を弱らせてしまったのだと。
「家族になろう」と言ってくれたのに。最低なことをして母に見捨てられた自分に、手を差し伸べてくれた人だったのに。自分のせいで、祖母は呪われた。
「おばあちゃんはいなくなりました。ある日突然、家に帰ってこなくなって。今も、どこにいるか分かりません」
美古の胸には深い空洞が広がってる。その穴は、祖母が姿を消したあの日から埋まることなく広がり続けている。
警察に行っても、解決しなかった。一度は相手にしてくれたが、次の日行くと「いやでも、おばあちゃんとは連絡取れてるから」と意味の分からないことを言われ門前払いされた。家に帰ってきてないんです、と訴えても、「でもおばあちゃんは大丈夫って言ってるよ」と言って聞いてくれなかった。彼らは存在しないはずの祖母とやり取りしているようだった。
終いには、
「あの子、目が見えないそうだから。いるはずのおばあちゃんのことが見えてなくて不安なんだよ」
と、勝手なことを噂していた。
やはり呪いだ、と思った。
背中に乗っているこの赤子がいる限り、自分は良くても周りが不幸になる。だから。
「正一先輩。私が兄を降霊させるので、兄に私の子供のことを聞き出してもらえませんか」
意を決してお願いした。このお願いは予想外だったようで、正一がぱちりと目を瞬きさせる。
「……降霊させるって、君が?」
「はい」
「やったことあるの?」
「本格的には、一度も……。でも、私はおばあちゃんの家に身を寄せてからはずっと、おばあちゃんと一緒に修行してきました。それに、私もおばあちゃんの血を受け継いでいます。もしかしたら、できるかもしれません」
美古は出ていってしまった母の代わりに、自分が口寄せを継承しようと思っていた。祖母の役に立ちたかった。だから、修行も熱心に受けていた。
口寄せに必要な情報は、呼び出したい故人の名前と続柄、そして――命日だ。
「兄の遺体が山奥で見つかったのは死んでからかなり時間が経った後で、亡くなった正確な日付は結局分かりませんでした。だから、命日さえ分かれば……」
正一はふむと口元に手を当て、考える仕草を見せた。
「それって現実的に可能なのかな? 専門家ですら命日が分からなかったのなら、俺達にできることってそんなにないよ」
「兄は、死ぬ前におばあちゃんの家に行ってたんです」
美古は即座に答える。
「これはおばあちゃんから聞いた話なので確実です。その時、〝しばらく青森にいる〟って言ってたみたいなんです。……もしかしたら、周辺に聞き込みをすれば、兄の目撃情報を得られるかもしれません」
美古はスマホを取り出して、兄の写真を画面に映し正一に見せた。
ロングヘアに、ひょろりと背の高い体躯。唇にはリップピアスが光り、服装は派手でだぶついた大きめサイズを好んでいる。そのうえ顔には大きな火傷痕が刻まれているため、一度見れば記憶に残る見た目だ。特にこのような田舎では。




