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彼の亡骸
お兄ちゃんの亡骸を葬儀で見た時、そこに中身を感じなかった。
棺の中に彼は存在せず、ただ殻だけがそこに残っていた。
その夏は猛暑日が続いていた。
お兄ちゃんが死んだその日から、耳元でおかあさぁんと泣き叫ぶ声が聞こえるようになった。
その声が耳障りで思考が捻れた。頭が少しずつ壊れていくような感覚があった。
お兄ちゃんの死からほどなくして、私に「家族になろう」と言ってくれたおばあちゃんがいなくなった。
私は気付いた。ぼんやりとした輪郭しかなかったはずの世界に、数多くの線が滲むように浮かび上がってきていたことに。
その視界は、いつも少し焦点が合わない。まるで、背中に張りついた誰かの目を通して、これまで見えなかった世界を覗かされているようだった。
歩くたび、肩甲骨のあたりに冷たい重みを覚える。息を吐くと、その重みがわずかに震え、視界も揺れた。
おかあさん、とまた声がする。
あの時お兄ちゃんを裏切って、悪者に仕立て上げた罰なのだと思った。
お兄ちゃんはまだ、私のことを許していないらしかった。




