↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
口寄せ巫女と泡の子  作者: 淡雪みさ
第四章 過去との決別

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/46

古瀬美古の罪 二



 お兄ちゃんへの恋愛感情を自覚したのは、中学二年生の時だった。

 私は弱視学級にいて、お兄ちゃんは通常級の新任教師だった。

 私のお兄ちゃんは、女子生徒から人気だった。まだ若いお兄ちゃんに本気で恋をしている生徒もいた。お兄ちゃんは、時々ラブレターを送られているほどだった。

 生徒たちがお兄ちゃんの噂をしている声を、何度聞いたか分からない。私からしたら顔の見えないお兄ちゃんが、一般的に見て美形であり、女子からモテるということを知った時、私の中にどうしようもない、激しい焦りが生まれた。

 ――奪われたくない。私には、もうお兄ちゃんしかいないのに。

 幼い頃から目の見えない私の世話をしてくれた、年の離れたお兄ちゃん。私は、お兄ちゃんがいなければ生きていけないと感じるほどに、お兄ちゃんにべったりだった。

 そのお兄ちゃんを今、横取りされそうになっている。

 強烈な焦燥を覚えた。

 他の女の子たちは何も知らない。学校では新調したスーツを着ているお兄ちゃんが休日は派手な格好を好んでいることも。お兄ちゃんの好きな食べ物も、お兄ちゃんの寝る時間も。お兄ちゃんがどんな風に自慰するのかも。何も知らないくせに、お兄ちゃんのことが好きだと言う。

 お兄ちゃんに恋人ができるくらいなら、私がお兄ちゃんの恋人になりたかった。


 私はお兄ちゃんの気を引こうと、我が儘を言うようになった。

 あれを買ってきてほしいとか、一人じゃあそこに行けないとか、一緒に眠ってほしいとか。優しいお兄ちゃんは、私の我が儘を全て聞いてくれた。


 そのうち、珍しく早い時間に帰ってきたお母さんに、


「あんた達、まだ一緒に寝てるの?」


 と訝しげに聞かれた。


「美古、いくら目が不自由だからって。あんたもう中学生なんだから、一人で寝れるようにならないと」


 と怒られもした。


 本当に、耳障りだった。汚い女のくせに、私たちより男が好きなくせに、私たちの邪魔をしないでほしい。

 お母さんは、普段家庭を顧みないわりに、男女の仲にだけは一丁前に敏感で、大きくなってもべったりな私たちのことを不審がっていた。

 でも、その後すぐにまた遅くまで家を空けるようになって、私達のことは気にしなくなってしまった。

 私とお兄ちゃんは、また二人ぼっちになった。



 お兄ちゃんと初めてキスをしたのは、バレー部の大会の帰りだった。

 バスで学校に着いた後、家までの帰りはお兄ちゃんの車だった。そこでお兄ちゃんと口喧嘩をした。

 きっかけは、お兄ちゃんがチアリーダー部の子に執拗に話しかけられていたことだった。私はひどく不機嫌になった。

 普段大人しい私にしては珍しく、ふつふつと沸き上がる怒りが収まらなかった。今思えば、怒っていたというよりも、焦っていたのだろう。教師という立場のお兄ちゃんが生徒に手を出すわけがないのだけれど、それでも私は、お兄ちゃんを取られるような気がして、嫌な気持ちがしていた。

 お兄ちゃんが苛立ったように、「いいだろ、お前には毎日構ってるんだから」と吐き捨てた。私が不機嫌だから、それが伝染したかのように、お兄ちゃんも不機嫌になっていった。


 そして、


「お前だって、バレー部の男子に話しかけられてたじゃん」


 と、低い声で続けた。


 私はこの頃になると、薄々気付いていた。お兄ちゃんも、私のことをいやらしい目で見ていることに。お兄ちゃんは、夜中に私が眠っている時、私の体を触っている。


「お兄ちゃん、私のこと好き?」


 助手席から投げかけた質問に、お兄ちゃんは答えなかった。


「私の体、触りたいんでしょ。いっつも、触ってくるもんね」


 私からお兄ちゃんへの感情は恋でも、お兄ちゃんから私への感情は、もしかしたら恋愛感情ではないかもしれない。お兄ちゃんが私の体を触るのはただの肉欲で、私のことなんかこれっぽっちも好きじゃなくて、むしろ、目が見えない面倒な女、自分の人生を壊した女だと、私を憎んでいるかもしれない。

 それでも、そこに多少でも男女の欲望が存在しているのなら都合が良かった。

 お兄ちゃんに与えてもらってばかりの私が、お兄ちゃんに何かしらのメリットを与えられるとしたら、胸が膨らみ始めて、初潮が来て、少しずつ女に近付いている、この肉体しかないから。


「私は、お兄ちゃんのこと好きだよ。どんな男の子よりも大好き。一生好きだよ。この先、お兄ちゃんが自分の人生を生きようとしたって、絶対に離してあげない」


 私のせいで、人生おかしくなればいい。


 最初は、私からだった。けれどその後、口付けを深くしたのは、お兄ちゃんの方だった。

 初めてのキスは、お兄ちゃんの舌のピアスの感触がした。

 私はお兄ちゃんの顔を知らない。知っているのは、優しい触れ方と声だけ。でも、それだけで十分だと思った。

 お兄ちゃんが好きだというこの感情が罪だということは分かっていた。

 でも、お兄ちゃんと共犯者になれるならそれでいい。




 ――――そう思っていたのに。

 妊娠した時、私はお兄ちゃんだけを罪人に仕立て上げた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。