9.少女達、再会する
怜悧、マヤ、そしてかつての友人である流海とマサトの四人は今、街中にあるとあるカラオケ店に来ていた。
扉に近い順に怜莉、マヤ、流海、マサトの順で座っている。
発起人は流海であり、とにかく一度人に聞かれない場所で状況を整理した方がいいという話になり、じゃあ近くにカラオケがあるからそこでと怜莉が提案したのである。
そして今、その個室で怜莉は足を大げさに組んで、右手の人差し指で毛先をくるくると回しながら、嘲り笑う表情をしていた。
「……で? 何がどういうことか、さっさと説明してくれなぁい? こちとら殺されかけたんだけど? それとも何? 地蔵なのかテメェらは」
怜莉は近くに座る流海とマサトに癇に障る喋り方で言った。
流海はずっと暗い表情で俯いており、一方でマサトは不機嫌そうだった。
「う、うん。ごめん、レイちゃん……」
「怜莉」
「え?」
怜莉の冷たい言葉に、流海は思わず聞き返す。
一方で、怜莉は不機嫌に満ちた顔をしていた。
「だから怜莉。呼び方だよ。あのさぁ、もうガキじゃねぇんだからさぁ、いつまでも馴れ馴れしい呼び方してんじゃねぇよって話。しかもこの七年間顔合わせてないでしょ私達。それを急に昔のあだ名呼びとか、随分と勇気があるじゃん? さっすが世界救った勇者様」
「あ……う、うん……ごめん、怜……悧」
荒く冷たい怜莉の言葉に、流海は俯きながら頷く。
対して、マサトは黙っていたが彼女の態度に明らかに苛ついていたようだった。その証拠に、眉間に深い皺が寄っている。
「じゃ、じゃあ、説明するね……私達七人は、今、エレクティアに新しく現れたネオザナドゥと戦っている新しいデスティニーチルドレン達を支援してるんだ……私達としても、見過ごせない話だし……」
「ふぅーん……なるほどね」
怜莉はつまらなさそうな顔で言い、指で髪を弄んだままチラリと隣のマヤを横目で見る。
彼女の視線に、マヤは萎縮したように縮こまる。
「……別に、攻めてないよ。あのときマヤが昔のデスティニーチルドレンを『七人じゃ?』って言い方してたのと『支援してる別の人』って情報は出してたのに、私は察せなかった。それだけだし」
「……ごめん」
「だから謝る必要なんてないって」
俯きながら小声で謝るマヤに、視線を向けずに言う怜莉。
二人の姿は、端から見たらあまりよろしくない姿に見えるだろう。
「え、えっと、話を続けるね。それでその中で、戦いはマヤを奪い合う方向になっていったの。マヤの持つ、無限のエネルギーを求めて……」
「……正確には、あらゆるエネルギーに転換できる尽きない力の源、と言ったほうが正しいよ」
流海の言葉にマヤが訂正するように言った。
彼女は、膝の上で両手をぎゅっと握っていた。
変わらず横目でそれを見た怜莉は、ギリ……と、こっそりとだが奥歯を強く噛み締めた。
「マヤの『特性』は『人形』のはずだけど、何故かそんな力を持ってて、それで、ネオザナドゥは彼女を自分達の侵略行為のための燃料タンクにしようとして、狙ってたんだ」
「なんでボクがこんな『特性』と関係ない力を持ってるのかはボク自身にも分からない。でもこの力は生まれたときから持っていて、ボクの人生から一度も切り離された事が、ない……」
「そんで俺達が守ってたら、急にマヤが逃げ出して、なんかこっちに来て、てめぇが拾った……らしくて、それを追ってあの要塞野郎と俺達が来た。っていう話だよ。分かったか?」
流海に続いてマサトが言う。
彼の口調には明らかにトゲがあった。
だが、それは当然だと怜莉は思った。
だって、自分はかつてすべてを放り出して逃げたのに、今の自分はそれをまったく悪びれてないどころか、不快な姿を見せているのだから。
「ああ、分かったよ。つまり、あんたらが無能で人でなしって話でしょ?」
しかし、それを理解していてもなお、いや、理解しているからこそ、怜莉は態度を改める事はなかった。
「んだと? テメェ……」
怜莉の言葉に、明らかにマサトの怒りのボルテージが上がる。
対して、怜莉も怯まずバカにした笑い顔を続けて嫌味な声色で続ける。
「はぁ? 何キレてんだよ本当の事言っただけでしょうが。そうだろう? お前らだってマヤをただの電池としか見てなかったんだろうが。思ったんだろ? マヤの力があれば戦いが有利になるって。だから言う事を聞けよ、って。結局、同じ穴の狢じゃねぇかくだらない」
「だぁ!? 何が分かるんだよテメェに! 俺達は俺達なりに必死にマヤの事を――」
「――何が“俺達なりに”だぁ!? 自己満足で終わってるところも七年前と変わってねぇ! だから昆虫なんだよてめぇらは!」
テーブルに両手をバン! と叩きつけたマサトに対し、怜莉は変わらず嘲笑の顔で、だが、声色は非常に怒りの籠もった声で叫び返した。
「間違いなくあんた達は想ってたんだろうさマヤの事を! 心配してたんだろうさ! でもさぁ、そこで止まってるからどうしようもねぇんだよ、外見ばっか見てるから大事なもの見過ごしてるんだよ! そんなんだからマヤは逃げ出したんだろうがっ! えぇ!?」
いつしか表情を笑みで取り繕うのすら止めて、怜莉は叫ぶ。
大声で、荒々しく。
彼女の隣で、マヤは静かにうなだれていた。
怒る彼女の横で垂れる銀髪で表情を隠しながらも、泣いているのが分かるぐらいに震えていた。
――ああ、よくもこんな偉そうな事を言えるな私は。それで一番の間違いを犯したのは、私なのに。
その傍らで、怜莉は自分で自分に吐き気がしていた。
マヤのために怒る一方で、自らの言葉で、自分の罪業を刺していて、それがあまりにも愚かで最低過ぎて。
「それは……ああ、クソがっ……!」
だがマサトはそんな怜莉の心中を知る由もなく、反論できずにテーブルを叩いたときに浮かせた腰をゆっくりと椅子に下ろした。
一方で、マサトの横でより暗い顔で俯いていた流海が、そっと顔を上げた。
彼女の表情に満ちていたのは、憂心であり、その感情は、怜莉に向けられていた。
そして、流海は、ぽつりとこぼした。
「……怜莉は、やっぱりまだ、許せてないの……? あのときの事を……あのとき、二人を助けられなかった……セレーネを救えなかった、アタシ達を」
怜莉の、時が止まる。
流れる血が、氷結する。
心が、崩れ落ちそうになる。
『無事で、良かった……ごめんね、怜莉……僕、最後まで、守って、あげられ、ない……君と、一緒にいられなく、なっちゃった、よ……』
――行かないで、死なないで。
燃え盛るビルの間、崩壊した道路の上で、消えていく笑顔。
――嫌、嫌、嫌、嫌、嫌。
幼い怜莉の涙を拭おうとする、彼女の指先。
――待ってよ、やめてよ、あなたがいなくなったら、私。
『さようなら……怜莉……どうか、君は……』
――私の、私のせいで、私のせいで、彼女が。嫌、私の、私が、私の、私が、私が、私が。
力が抜け、地に落ちる彼女の手。体。頭。
頑張って命を繋ぎ止めようとしたけど、死なないでって、とにかく、とにかく頑張ったけど。
いくら時間が止められたとしても、自分一人じゃどうやっても繋ぎ止められなくて。
――ごめんなさい、ごめんねなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんねなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんねなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。
結局、彼女は二度と口を開くことはなく。
――彼女は、私の、せい、で……。
「……は? 何のこと? 急に人の気持ちを知ったかぶらないでくれる? 図々しい」
怜莉は、なんとか強い語気で言い返した。
外側からでは、彼女の人を馬鹿にした態度は一切変わっていない。
声も、顔も、変化はない。
だが、確実に魂からは、どくどくと赤い血が流れていた。
「勝手に責任感じてもらっても困るんだけど。あのときも言っただろ? 私はね、嫌になったって。まったく馬鹿馬鹿しいったらありゃしない。顔も知らない、人ですらない、恩返しも期待できない。そんな連中のために命を捨てるとか、アホだろ。だから私は、逃げたんだよ」
怜莉は尚も吐き捨てるような口調で言う。言葉にせずとも態度で「くだらない」と明言するように。
彼女のその姿に、流海はさらに表情を暗くし、マサトは怒りを募らせているようだった。
そしてマヤは、それをとても辛そうな顔で怜莉を見ていた。
「私の『バディ』が……セレーネが死んじゃったのは、そういう運命だった。それを割り切れないほど、ガキじゃないよ。あんたらと違ってね」
鼻で笑いながら、怜莉は言った。
ふてぶてしさが満ちるその態度は、まさに冷血極まっていた。
その中で、頭の後ろに回した両手が、左手首を掴む右手の爪が、肌を、肉を貫き血が付いていた。
「……チクショウが、胸糞悪ぃことばっか言いやがって……本当にムカつく女になったな、てめぇ」
マサトが突き放したように言う。
怜莉は、それに歪に笑って返す。
「どうも。昆虫の囀りもたまには悪くないね」
頭に回していた腕を彼女は前に持ってきて組む。
片や怒りの形相で、片や侮蔑満ちた笑みで、両者は睨み合う。
流海はそんな中で、辛そうに俯いている。
「…………えっと、その、とりあえず……うん、そうだ。……とりあえず、今はこれからの事、話した方が……いいんじゃないかな」
と、そこでマヤが恐る恐ると言った様子で、顔を上げて言った。
怯え辛そうにしながらも、なんとか絞り出した言葉なのが表情から分かった。
「そ、そうだね……うん、そうしよう」
流海が同調するようになんとか笑って頷く。
辛そうだったが、頑張って作ったのが分かる微笑みだった。
それを見て、怜莉もマサトも一旦ため息をついてクールダウンし、それによって場の空気はリセットされた。
「では、改めて……」
流海は他の三人に軽く視線を送りながらそう言うと、一度瞳を閉じ、開いて話し始める。
「ええと……あのネオザナドゥのエレクティアン……フォートエルって言ってたね。あいつ、とんでもない強さだった……でも、途中で粒子切れ起こして帰ったって事はやっぱり強いと長時間いられないんだねこっちに」
「ああ、俺達の『バディ』もこうやってランチャーギアに入れてないと駄目なんだ。単独じゃあそりゃそうだろうよ」
「うん……だから、それなりの粒子を溜めてからこっちに来るだろうけどそれにも限界はある。だからと言って安心は当然できないし、それどころかあっちとこっちどれだけ時間に差があるか……」
「……ねぇ」
と、三人がなんとか話題を現在の問題に修正し話している中、怜莉は変わらず不機嫌そうな顔で入ってきた。
「私、三人が何話しているか分かってないんだけど? できれば私にも分かるように説明してくれない?」
「……ハァ」
彼女の言葉に大げさにマサトがため息をつく。
それに怜莉は「ちっ」とこれみよがしに舌打ちをしたが、そこで話の中断はなかった。
「えっとね……本来、ボク達エレクティアンがこの表の地球に存在するためには《ヴェルトザイン粒子》っていうものが必要なんだ。それは僕達エレクティアンと君達デスティニーチルドレンが戦闘で消費するエネルギーである《マハト》とはまた別の、存在のための力だね」
マヤがすっと怜莉に説明を始める。
《マハト》と呼ばれるエネルギーについては怜莉も知っていた。かつてデスティニーチルドレンとして向こうで戦っていたときに教えられたもので、これを使って彼女らも敵味方のエレクティアンも能力を行使し、なくなったら戦えなくなっていた。
そこも含めての説明に、これもマヤなりの気遣いなのだろうと怜莉は感じた。
「強いエレクティアンほどこの粒子の消費が激しいしPtP……ああごめん、あっちとこっちを繋ぐ出入り口を通るのにも強いエレクティアンほど沢山の粒子を消費する。それはデスティニーチルドレンの『バディ』であるエレクティアンも一緒なんだ」
マヤの視線は流海とマサトが腕に付けているひし形で白色のブレスレット――ランチャーギアに向かっていた。
怜莉もまた同じくランチャーギアに視線を合わせる。
「『バディ』……デスティニーチルドレンととりわけ良い相性を持ち、ランチャーギアを通じて力を貸し合うエレクティアン……そんな彼ら彼女らでも、表の地球で体は維持できない。それができる例外は、無限のエネルギーの源を持つボクだけだ」
自らの胸に手を置いて言うマヤ。
彼女は今、とても寂しそうな顔だった。
「だからこそボクは、一度こっちに来てしまえば奴らは追ってこないと思った。でも、それは楽観的な考えだった。どうやったか分からないけど、やつらは既に使徒一人ならPtPを通り抜けられるぐらいの技術とエネルギーは有していたんだ」
「俺達もびっくりしたぜ。だが俺達人間ならあの道は比較的簡単に通れる。だから追っかけるのは苦じゃなかったぜ。だが問題は、奴が想像以上に強かった事だな」
「うん。次戦ったときも、うまく勝てるかどうか……」
難しい顔をするマサトと流海。
だが、それでもまだ怜莉の疑問は解消していなかった。
「あいつの来る時間とかは掴めないの? それに場所とか。こちらとあちらじゃ時間の流れも違うようだし下手したら今ここでやつがここに出てくる事なんてあるんじゃないの?」
「ああ、それは大丈夫だよ。まず時間と空間のほつれともつれの関係で昔よりも流れる時間は近くなってるし、到着する時刻にも大きなズレはなくなってるから」
マヤの言う理屈はまったく理解できていない怜莉だったが、それは昔もそうだったのでそういうものだと流す事にした。
こういうときにマヤがあやふやな根拠で話す事はないと、怜莉は共に過ごした日々でなんとなく分かっていた。
「それに加えてPtPには制限も多い。まずさっき言った強いエレクティアンに比例した粒子消費量もそうだし、出口も鏡や水と言った鏡面に限られる。そして、出現場所も大まかなエリアでしか指定できないから、出る場所に関しては基本運だ」
初めてマヤとあった夜の事を、怜莉は思い出す。
すると、そういえばあのゴミ捨て場の近くにはカーブミラーがあったなということに気づいた。
つまり、マヤは偶然あのカーブミラーを通って、怜莉のマンションで使っているゴミ置き場に落ちてきていたのだ。
そして初めて怜莉達がエレクティアに飛んだときには確か近くに不法投棄のゴミ山があって、そこに大きな鏡も捨てられていたな、という事も。
だがまさか自分の目の前にマヤが飛んでくる事になるとは、随分ととんでもない偶然だなと怜莉は思った。
「つまり、あいつがまた来るまでは時間があるだろう、って事ね。でもいつどこでかってのも分からないと」
マヤが話した事を頭の中で反芻しつつも、怜莉は要点をまとめる。
その言葉に、マヤが静かに頷く。
「うん、さすが怜莉。肝心なところをちゃんと分かってる」
マヤが軽く微笑んで言う。
フォートエルと邂逅してから、初めてマヤの笑みを見た気がした。
「……それ、対策立てられなくない?」
それはそれとして、思った事を怜莉は率直に口にした。
「そうだね……結局、出たとこ勝負にしかならないかなぁ」
流海が困ったように言う。
そのとき、彼女はチラリと怜莉の方を向いたが、すぐさま視線を逸らしていた。
「いや、簡単な手段はあるだろ。マヤが俺達と一緒に帰ればいいじゃねぇか」
マサトのその言葉で、落ち着いていた空気が再び張り詰めた。
彼の言葉でマヤの表情は強張り、連動するように怜莉の眼も鋭くなる。
「マー坊……あんたさぁ……」
「あぁ? つっても後回しにできる問題じゃねぇだろ。分かってる事から逃げ回るなんて、そういうまどろっこしいの嫌いなんだよ俺は」
呆れる流海の横でピシャリと言い放つマサト。
怜莉は、そんな彼を鼻で笑った。
「さすがだね、惚れ惚れするよ。その傲慢さ」
「てめぇこそ随分とふてぶてしいのが様になってんじゃねぇか。昔はすぐピーピー泣いてた癖によぉ」
再び、二人の間の空気がひりつく。
不機嫌な怒りと不快な笑みが再度交差する。
だが、少しの間その緊張が続いたかと思いきや、急にマサトはその場を立ち上がった。
「……俺、先に戻ってるわ」
そして彼はテーブルにバンと部屋代を叩きつけ、三人に背中を見せる。
「ちょ、マー坊!?」
慌てて呼び止める流海。
彼はその声に振り向かず、ただ扉に手をかけた状態で立ち止まった。
「そいつといるとどうにもカッとなっちまう。だから頭冷やしてくるわ。俺がいねぇほうが話はうまく回んだろ。……マヤ、考えとけよ」
彼は最後にそう言い残すと、扉を開き部屋を出ていった。
取り残された三人に、重い空気が流れる。
「……私も、ちょっとお手洗いに行ってくる。さすがにバカの相手は疲れたから」
そして怜莉もまた腕を組みながら立ち上がり、そう言って部屋を出ていった。
「……あっ……っ……うん」
彼女の背中に、流海は何かを言おうとする素振りを見せたが、結局言葉は怜莉には届かなかった。
怜莉はそれを分かっていながらも、キビキビとした足取りでトイレに向かう。
「……はっ、はっ……!」
小さく呼吸を荒げる怜莉。
彼女はそのまま足早に誰もいないトイレの一番奥の個室に入り鍵を閉めると、力が抜けたように汚いトイレの床に膝から崩れ落ちる。
「ああああああああああっ……! うあああああああああっ……!」
直後、怜莉は叫び、泣いた。
トイレの便座に手をかけ、すがるように泣いた。
「ごめんね……! ごめんね、みんな……! ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさいぃぃ……! ええっ、おえええっ……!」
彼女は泣き謝罪しながらトイレに嘔吐する。
胃の中のものをすべて吐き出しても、体の中身の逆流は止まらない。
「おおおおおおえっ……! ごべんなざい……! ごめんなじゃい……! おええっ! おおおおえっ……! 生きてて、ごめんなざいっ……!」
謝り続ける。
何に謝っているのかなんて、本人にも分かっていない。
だけど、謝るしかなかった。
自分がいることで、いろんな不幸が生まれている。
めちゃくちゃでどうかしていて、でも彼女自身は間違いないと思いっている、そんな罪に対して。
「怖いよぉ……痛いよぉ……辛いよぉ……セレーネ……セレーネぇ……」
情けない顔で、彼女はこぼす。
トイレの中にしか吐き出せない心を。
もう二度と戻ってこない、大事な人の名前を叫びながら。
トイレにすがりつく彼女の姿は、とても情けなかった。




