18.少女達の夜明け
「……ん……んん、がっ……!?」
マサトはぱっと瞳を開き飛び起きる。
そして、首を左右にブンブンと振り、周囲を確認した。
「怜莉っ!? 流海っ!?」
「あ、やっと起きた」
混乱している彼に、冷めた声が飛んでくる。
そこにいたのはマヤだった。
彼女は彼の側で体育座りになっており、片手を向けていた。
「……もしかしてお前、俺に力注いでくれていたのか?」
「そうだよ。マハト切れで倒れたんだから、さっさと起こすにはこれが一番だしね。ああ、アレスは先にランチャーギアに戻したから気にしないで」
「……お前と俺が、こうしてるって事は」
「そう、全部終わったよ。流海がエヴォルヴ・モーフィンしてフォートエルを倒した」
マヤが手を引っ込め、両手を膝に回した状態で顔を横に向ける。
マサトもそれにつられて首を向けると、そこには近くの木の下で、互いに寄り添い合って眠る怜莉と流海の姿があった。
「……マジか、使ったのかアレを。こっちで」
「そうだよ。ホント無茶するね。ボクがいたから変進状態を解除する前にエネルギーを注いでとりあえずなんとかしたけど、ボクがいなかったら絶対酷い事になってたしあれも対処療法に近いからね。理屈を無視するのはいいけど後から辻褄合わせる身にもなってよまったく」
口を尖らせて露骨に不満そうに言うマヤ。
彼女を見てマサトは訝しむ。
「……お前、なんか機嫌悪くねぇか?」
「は? そんなことないけど? 何言ってるのかな? 勝手に盛り上がって怜莉とイチャイチャしてその挙げ句あんな風に寄り添って寝てる流海に嫉妬して不機嫌になってると言いたいのかい? そんな事あるわけないじゃないかこのボクが妄言も甚だしいね反省したまえ」
「ああうん悪かった、俺が悪かったよ……」
早口で捲し立てる彼女にとても面倒臭いものを感じたのでマサトは早々に話を切り上げる。
そして、そこで痛む自分の足を見る。
「痛っ……!」
「はぁ……そりゃ痛いでしょうよ。ボクはエネルギー専門で治癒は専門外だからね。悪いけどその怪我がご自身でなんとかしてください」
「分かってるって。ったく、後でランチャーギアでいろいろとやらねぇと」
「結構な便利グッズだよねぇそれ。まああっちでデスティニーチルドレンに使われる代物なんだから当然だけどさ」
「まあな、おかげで命拾いしてるよ。……なぁ、ところでよ」
「ん? 何?」
「……お前、やっぱこっちにいるのか」
「当然」
即答だった。
あまりの即答ぶりに「マジかよ……」とマサトは笑い混じりに言ってしまう。
「マジだよ。ボクは戻る気はない。そっちの問題はそっちで解決してよね」
「ああ分かった。そうするよ」
「……なんだか、やけに素直じゃないか。マサトらしくない」
今度はマヤが訝しんだ表情で聞いてきた。
彼女の言葉に、マサトは軽く笑う。
「まあな。確かに俺らしくねぇよ。でもよ、なんだかんだお前がこっちを気に入ってるなら、俺もあっちで頑張ってやるかって、そんな気持ちになったんだよ」
「へぇ……そういう気配りもできたんだ。絶対そんな情緒カケラもないと思ってた」
「お前人の事なんだと思ってるんだ?」
「活躍はするけど大事なとこでは決められない三番手以下の単細胞キッズ」
「そんな風に思ってたのかよテメェ!?」
「ちなみにこれは受け売りだからボクの言葉じゃないよ。誰からの受け売りなのかは内緒。犯人探しでモヤモヤしてね」
「さっくり爆弾投げて満足してんじゃねぇよ!」
怒涛のツッコミで息を荒げるマサトに、マヤは意地悪く楽しそうに笑う。
マサトはそんな彼女にため息を付きながらも、再度マヤの方を見る。
「……夢、見たんだよ」
「は? 急に夢の話? そういうのって一番つまらないんだよね……学校で陰口言われてそう」
「俺お前に恨み買うような事したかぁ!? ……まあそれはともかくよ、夢の中で、すげぇ懐かしい声を聞いたんだ。昔の……アイツの声をよ」
マサトはそう言って怜莉の方を見る。
彼女はとてもぐっすりとしているのが分かる顔で寝息を立てていた。
「ガキの頃のアイツはまあ本当にビビリで泣き虫だったけどよ……その、なんか目が離せなくてな……アイツはセレーネにベッタリだったが、それはそれとして俺達にも普通に優しくて頑張っててよ。いい奴だったんだ。……そんな頃のアイツの声と顔が、なんか、夢に見ちまった」
「……そうなんだ。それは良かったじゃないか」
「そうなのか?」
「そうだよ。だって、それは今の怜莉を見て思い出したって事でしょ? つまり、今も昔も、怜莉は怜莉って事だよ」
優しく笑って怜莉の方を見ながら言うマヤ。
彼女の顔を見ていると、なんだかマサトも気分が安らいでいくのを感じた。
「……ああ、かもな。ま、だからよ、そんな夢もあったから、向こうの面倒事の解決はあっちで頑張ってるガキ共のケツ叩いて踏ん張らせるしかねぇなって、そう思ったのさ。んだからまあ、任せろよ。お前は、せいぜい逃げ回ってろ」
「うん、言われなくても」
二人は笑い合う。
こんなに落ち着いて話せたのは、互いにとって始めての事だった。
「でも惜しいよなぁー! 今もアイツってやっぱキャラがクソアマだからよぉ! 苦労は多そうで同情するわマジ! まあさっきも言ったように根は変わってねぇみてぇだが普段があれじゃあ……って、ど、どうしたマヤ? なんか、急にすっげぇムカついてねぇ?」
「……いーや? ただ一瞬でもクマムシ以下の生き物を人間だと思った自分が馬鹿だなぁって深い後悔を心に抱えただけさ」
「アァ!? どういう意味だオメェ! てかクマムシってどんな虫だコラァ!」
「……あー本当に疲れるよこいつ」
二人がそう言い争っている中でも、怜莉と流海は幸せそうに眠っていた。
いつしか、朝日が昇り初めていた。
光が、四人を照らした。




