15.少女達は戦いを見守る
「お前達、どうやってここが分かった……」
フォートエルが忌々しげに言う。
彼の言葉に、マサトが馬鹿にするように笑った。
「どうやって? はっ、残念だがお前が正体表すまではこっちも分かってなかったよ。でもどうやらお前達もよく分かってなかったみたいだなぁ? お前らがそうやって正体晒すとバカみてぇなヴェルトザイン粒子が派手に出るから方法ありゃどっからでも丸わかりなんだよ」
マサトは挑発するように手甲をつけた右手の人差し指で左腕にあるランチャーギアをぽんとんと叩きながら、ニヤリと歯を見せて笑った。どうやら、怜莉の知らぬ間にいつの間にそんな機能が追加されているらしかった。
そして隣で流海もまた肩にハンマーの柄を乗せ凛々しく笑う。
「そうすりゃ後は簡単よ。そこに飛んでいくだけ。まさか前回アタシ達が公園に来たのも偶然だと思ってた? だったら意外と頭が回らないんだぇーアンタ」
「……ふん、安い挑発を。だが、貴様らがいくら私の出現を察知しようとここはあの街から二百キロ以上は離れているはずだ。どうやってこの一瞬でその距離を詰めた?」
「……私達ってそんなにふらついてたんだ」
小声で怜莉がボソリと言って、当然マヤにしか聞こえておらず、マヤもまた「びっくりだね……」と付け加え小さく頷いていた。
一方、三者は睨み合い会話を続けている。
「そうだな……お前、雷が落ちる速度って知ってるか?」
「……まさか」
マサトの言葉にフォートエルの声色が変わる。砦が如き顔は変化のしようもないが、声には如実に驚きの感情が現れていた。
「光よりはずっと遅ぇけどよぉ、それでも音よりはずっと早ぇんだ。一番遅くて秒速二百キロ、一番速くて秒速十万キロだったか? まあともかく、俺達はその一番速い速度でかっ飛んできたってわけさ。なあアレス」
「はん。オレの背中の上に乗っていただけなのに偉そうに」
憎たらしいほどにしたり顔で言い放つマサトにふてぶてしく返すアレス。
そんな彼が片手を上げると一瞬にして怜莉とマヤがさっきまで囲まれていたはずなのにいつの間にかアレスに首根っこを咥えられ、外側に連れられていた。
「きゃっ!?」
「わっ!?」
突然の事に驚きの声まで遅れた二人。ただ、急にアレスが来ることは察知していたのか、つい怜莉はバッグを手にした状態でそこまで運ばれていた。
「あ、ありがとうアレス……」
「フン、気にするな。戦いに邪魔だから運んだだけだ。せいぜいそこで大人しくしてろ」
アレスはマヤにそう言うとマサトの元に戻る。
彼の背後についたアレスは、ぐるぐるとフォートエルに対して唸っていた。
「まったく……飼い主に似て乱暴なんだから……」
愚痴る怜莉。
だが、その顔はそこまで不機嫌でもなかった。
一方で、マヤは少し難しそうな顔をしていた。
「どうしたの? マヤ」
「……アレスは、確かに『狼』と『雷』の二つの『二重特性』を持つ非常に珍しいエレクティアンだ。だから二人を連れて雷の速度でここまで来れたんだろう。でも、それ故に彼が消費するマハトは大きい。表の地球じゃ余計にだ。しかも最大速度で長距離と移動してきたともなれば相当な負担のはずだ。そんな速度で来るのは、さすがにコストとリターンが見合わない……」
「そういう話じゃねぇんだよ」
彼女の言葉を聞いていたのか、マサトが背中を向けながら言った。
口調は変わらず乱暴だったが、なぜだかカラオケ店のときほどトゲは感じられなかった。
「大事な仲間が殺されかけてるんだぞ? だったらマッハで飛んでこねぇと意味ねぇだろうが。確かにすっかりクソアマになっちまったが、それでも俺達の仲間だった事には変わりねぇんだよ。こんなの損得とか数字で見るもんじゃねぇだろ普通」
「……マサト」
――あんなにひどい態度でぶつかったのに、たくさん暴言を吐いたのに、それでもまだ、私の事を仲間なんて言ってくれるの? あんなクズって見限ってもいいのに。マヤだけ助けて私は見捨てる事もできたのに。それなのに、それなのに……。
「……フフ」
怜莉はあえて不敵に笑って見せる。
――彼がいわゆる男気というのを見せているのなら、私も彼に発破をかけてやらないといけない。ただ弱いだけの女より、こういうときに笑っているような女が彼は好きって言ってたから。昔から良くも悪くも変わってないのなら、きっと今もそこは変わってないだろう。
「あぁ? よく笑えんなこんなときに」
「まあね。でもマサト、マッハだとさっき飛んでいた速度よりずっと遅いぞ? 相変わらず勉強苦手か?」
「そういうことじゃねぇよ! 文脈読めやクソアマ!」
言葉は変わらず荒いが、彼の声色はそんな悪くはなさそうだった。
怜莉の企みは成功していた。同時に、今も彼女の手が震えている事も隠す事ができたようだった。
「まったく、熱いやり取りしちゃってさぁ。羨ましいね、そういうの」
マサトの横で流海が言った。
彼女はそう言いながらも視線はフォートエルから逸らさず、ハンマーを突きつけた。
「さて、じゃあアタシは力で語ろうか。……今更、私のやらかしは取り返せないし、いくら言葉で取り繕ったって何の意味もないしね」
「……流海」
彼女の言葉に、怜莉は眉を下げ寄せ細めた瞳を下げる。
自然に組んだ両手が肘の裾をぎゅっと掴んでいた。
「アタシはたくさん間違えちゃったから、もうこれしかできない。てか、もともとアタシはそういうの苦手だったわ。悩むといつも空回り。ならヘタに考えないで一球入魂ストレート! どんな球でもフルスイング! それがアタシ! エースで四番の繭澪流海のスタイルだっ!」
流海はとても快活で気持ちの良い、かつ気迫が満ちる笑顔で言い放った。
それは背後にいた怜莉達にもよく伝わってきた。
「流海、野球ちゃんと今でも続けてたんだ……。昔はちょっと悩んでたのに……よかった」
ぼそりと、怜莉は呟く。袖を握っていた手の力が緩み、瞳から暗さも落ちる。
穏やかな彼女の顔も声も、バディであるニケと共に反対方向の敵を向いてやる気に満ちている流海には伝わらない。
でも、今はそれで良かった。
「ふん、血気盛んでよろしい。だが、そういうのはこの手勢を越えてから言ってもらおうか」
フォートエルが手を上げると、ざっと彼を守るようにダストボットの軍団が隊列を組みフォートエルの前後に並ぶ。
流海とマサトは、それを見てもなお余裕の笑みを崩さない。
「うわー、ねぇ見てよマー坊、あいつ、この程度の数でアタシ達を止められると思ってるよ?」
「ハッ! 随分と舐められたモンだぜ! なんで俺達がこっちに戻って来るのに選ばれたか、しっかりと教え込んでやらねぇとな。あとマー坊はやめろ」
「…………」
「「…………」」
僅かな静寂。
夜の冷たい風が、両者の間を吹き抜ける。
「……行け!」
不意にフォートエルが上げていた腕を振り下ろし、叫ぶ。
ダストボット達が流海とマサトめがけて走り出す。
均衡は破られた。
「いくよぉっ!」
「だあああっ!」
おそらくダストボットの数は百を越えるだろうと、怜莉には見えていた。
だが、その軍勢に自信満々に突っ込む二人の姿を見ると、そんな数的不利はまったく意味のないように思えた。
「ニケッ!」
「承知っ!」
走る流海に合わせて飛行していたニケが、そのまま前に飛びながら槍の柄の底で地面を叩く。
すると流海の体が黄色い光に包まれる。
ニケの力、あらゆる戦闘能力の向上である。
「はあああああっ!」
流見は力強くハンマーを横に振るう。
するとその攻撃に当たった敵だけでなく、背後に続いていた大量のダストボットも中に舞った。ハンマーの風圧だけで、殴り飛ばしたのと同じ程の火力を出し、吹き飛ばしたのだ。
「おっしゃあ! お前は右だアレス!」
「遅れるなよマサト!」
ハンマーを振り切った流海の横をマサトとアレスがそれぞれ左右に通り抜けていく。
目にも止まらぬ速さで駆けた二人は吹き飛ぶダストボットの下をくぐり抜け、次に備えるダストボット達の目の前に肉薄する。
「オララララアッ!」
そして両者、それぞれ左翼の敵と右翼の敵に、それぞれ目にも止まらぬ一撃を加えていく。
マサトは手甲で、アレスはその牙で。
人間の怜莉の目ではとうてい捉えられないほどの攻撃スピード。それで倒れていくダストボット達にふさわしいのは、まさしく「瞬殺」という言葉であろう。
「はいはい! 次いくよっ!」
マサトとアレスの姿に目を奪われていた怜莉はいつしか流海の姿が消えているのに気付いた。
しかし声はどこからかするので顔を動かす。
数秒後、やっと彼女の姿を怜莉は見つけた。
彼女はいつしか高くジャンプして、大きくハンマーを振りかぶって落ちてきているさなかだったのだ。
「どっかぁーん!」
気の抜ける掛け声と共に流海は地面に金のハンマーを叩きつける。
すると、地震かと思うほどの衝撃が大地を揺らした。
遠くにいる怜莉ですらそこそこの揺れを感じたのだが、近くにいたダストボットはその比ではなかった。
彼女の一撃により叩かれた地面は大きくひび割れ、隆起し、目の前の軍団をまるごと吹き飛ばしたのだ。
「んじゃ、フィニッシュだよマー坊!」
「マー坊って呼ぶな分かってんだよっ!」
二人はそこで横並びになり、流海は大きくハンマーを振りかぶり地面を踏みしめ、一方でマサトもまた拳を大きく振りかぶって力を溜める姿勢を見せる。
「「おらあああああああああああああああああああっ!!」」
そして落ちてきたダストボット相手に、二人は声を合わせ叫び獲物を降る。
すると彼女らの正面の空に大きく衝撃波が飛ぶ。それをダストボット達は、揃って粉々に砕け散ってしまった。
わずか四手であった。
たった四手の攻撃で、流海とマサトは百を越えていた軍団はすべて元の灰へと還った。
「……凄い」
怜莉は、思わずそう呟く。
流海とマサトの背中は、間違いなく頼もしかった。
だが、怜莉はすぐさまハッとする。
そしてさっと視線を彼女らから移した。横にいるマヤに。
「マヤ、大丈夫……?」
怜莉はそうマヤに声をかけ、背中に手を添える。
だが、怜莉の手に答えるように彼女の顔の方を向くと、少し困ったように笑った。
「大丈夫だよ。……それにしても、ボクって本当に良くないよね。今、まさにボクは助けてもらってるのに、それでもやっぱり、争いを見るのは辛くて好きじゃないや。それが、例えもう命を失って人形にされてしまった残骸が相手だとしても、ね……」
マヤがずっと自分の目の前で争いが起きることを苦しんでいたのは怜莉も知っていた。
でも、それを実際に見るのは始めてだった。
暴力という行為自体に心を痛める少女の姿が、そこにいた。
――そうか、この子はずっと、こんな風に……。
怜莉は、そう思った瞬間に体が動いていた。
マヤの背後にそっと動いて、彼女の目に両手を被せたのだ。
「えっ? 怜莉?」
「……いいんだよ、見なくて。二人は間違いなく私達のために頑張ってくれてる。でもね、それでも辛いと思うものを見るのは義務じゃないよ。二人でいつも言ってるでしょ? 嫌なものは見なくていい。二人だってマヤにそんな顔をさせるために戦ってるんじゃないはずだもの」
「……ありがとう。やっぱり怜莉は、優しいね」
マヤの手が怜莉の手に伸びて静かに彼女の腕を下ろす。
そして、怜莉に向かって笑いかけた。
「大丈夫だよ、怜莉。その優しさだけで、ボクの心はずっと楽になれるんだから」
マヤはそして再び目線を正面に戻す。
間違いなく辛いはずなのに、彼女は目の前の戦いに再度瞳を向けたのだ。
怜莉は、それはきっとさっきの自分の行為に対しての彼女なりの答えなのだと感じた。
マヤは優しいから、なるべく怜莉を煩わせたくない、泥を被らせたくない、そう思ったのだと伝わってきた。
彼女を思っての行為がむしろ彼女に辛いものを見せてしまう事に、怜莉は少し己の軽率さを恥じた。
「だあああああああああっ!」
「オラオラオラオラオラァ!」
一方で、目の前の戦いは随分と進展していたようだった。
フォートエルに辿り着いた流海とマサトが、息もつかせぬ連撃を浴びせかけていたのだ。
「どうしたのっ!? その程度っ!?」
「ふん! 口ばっかかよテメェ!」
流海の重い一撃に、マサトの目にも止まらぬ連撃。
それに加えアレスやニケの能力を交えた息のあったコンビネーション攻撃。
見事なまでの連携に、フォートエルは手も足も出ないようだった。
「…………」
フォートエルは、ただ黙ってカメのように体を丸めその攻撃を受けている。
なぜ倒れていないのか不思議なくらいだった。
「……何か、おかしい」
だが、そんなことを、なぜだか怜莉は思ってしまった。
「怜莉……? どういうこと?」
隣で同じくその姿を見ていたマヤが聞く。
怜莉は、ふと湧いた違和感を、マヤに答えるために、そして自分で整理するために一つずつ口にしていくことにした。
「えっと……まず、いくらなんでも静か過ぎるなって。だってあいつ、人間の姿に化けてたときとか、戦う前とか、結構ペラペラ喋ってたのに。いくら防戦一方だからって、無口過ぎない……?」
「……言われてみれば」
「…………」
勢いに乗って攻撃を繰り返す流海達に、やはり一切反応する様子が見えない。
いくら防戦一方だからといって、感情がなさ過ぎるのである。
怜莉はそこで、連続してもう一つの違和感の正体に気づく。
「……そうだ、それとあんなに守ってるばっかなのもおかしいよ。あいつ、別に動きがノロマってわけじゃなかったはずだよ? 最初に流海達と戦ったときも結構キビキビ動いてたし、さっきの奇襲のときも気付いた瞬間に跳ねて避けてたし」
「確かに……反撃の素振りすら見せてない。あれじゃまるでワザと攻撃を受けているみたいだ……」
マヤもさすがにおかしいと思ったのか言う。
フォートエルは動きすらしていない。回避できる攻撃もあるはずなのに、すべてを受けている。そう見えるのだ。
そう、まさに攻撃を受ける事そのものが、目的のように――
『いいかい怜莉、僕達の能力は“ここ”の使いようなんだよ』
頭に、ふと在りし日の光景が浮かんできた。
そこにはセレーネが得意げにこめかみを指で叩く姿があった。
『僕の能力はただバリアを張るってだけじゃないんだ。例えば敵の攻撃を跳ね返したり、溜めて何倍にもして返したりもできる。防御能力だけど決して闘えないわけじゃないのさ。大事なのは、いかに相手を乗せてこちらの思い通りに攻撃をさせ利用するかが、僕の力の肝なんだ』
セレーネはそう言った後、今度は落ち着いた笑みに切り替えて怜莉と視線を合わせるためにしゃがんで頭を撫でてくる。
『僕の力だけじゃなく、怜莉の力だってそうだよ。直接戦えなくてもやり様はいっぱいある。だから自分を卑下しなくていいんだよ。むしろサポート系の力は頭を使える者の特権だからね。それはむしろ君が賢い証拠なのさ、怜莉』
そう語るセレーネは、再び得意げな顔をしていた。その表情がとても頼もしかった事は印象深く、また実際に戦闘中にそうして彼女が相手を手玉に取るときには、いかに劣勢に見えてもその瞳にもチャンスを伺う余裕の炎が灯っていたと怜莉は記憶している。
――そう、まるで今のフォートエルの目に当たる場所、窓枠のような闇の中で揺らめく青い光の如く。
「っ!? 二人ともすぐ離れてっ!! 罠だよ、それっ!!」
刹那、怜莉は叫ぶ。
「残念、少し気づくのが遅かったな」
だが、怜莉の叫びに応えるようにフォートエルが言った。
彼が言い放った瞬間、その体から強力な波動が発せられ、流海達だけでなく遠くにいたはずの怜莉とマヤまでもを吹き飛ばした。
「きゃああああっ!?」
「うっ!?」
二人はそれぞれ、左右斜めに吹き飛ばされる。
怜莉の足元にあったカバンも一緒に飛ばされ、ギリギリ腕が届くか届かないかぐらいの位置に落ちる。
「ぐはっ!?」
「ガアッ……!?」
同時に、当然ながら流海とニケ、マサトとアレスも吹き飛ばされていた。
彼女らはフォートエルの至近距離にいたため衝撃波の影響が強かった。しかし、とっさにそれぞれのバディが受け止めるように飛ぶ二人の背に回り、なんとか衝撃を抑えた。
それでも、彼女らは結果として怜莉とマヤよりも遠くに飛ばされていた。
「くっ、今のは一体……えっ!?」
痛みを感じながらも立ち上がろうとしていた流海だったが、すぐにおかしな事に気付いた。
倒れた体を、起こせないのだ。
ニケを下にしながらも地面に仰向けに倒れ込んだ彼女の下半身、そして両手が動かせない。
原因は明白だった。
彼女の手足は凍りつき、貼り付けにされていたのだ。
それは彼女だけではなかった。
マサト達も、怜莉も、マヤも、どれほど凍りついているかという程度の差はあれど、全員体の一部が氷結しそのまま地面から動かせなくなってしまっていたのだ。
「そんな……!? みんな、動きを封じられて……!?」
「戦いで一番大切なのは、何だと思う?」
そこで、それまでカメのように丸まっていたフォートエルがすっと背筋を伸ばして言った。
その体は、節々から白い煙が吹き立っていた。
まるで蒸気のようであったが、見ているだけでもその煙に一切の熱量を感じる事ができなかった。
「私は、それは忍耐だと思っている」
フォートエルは続ける。
口調こそ落ち着いているが、同時にとことん人を見下した侮蔑の感情も見て取れた。
「勝利へと至れる道があり、それのために耐える事が必要ならば、どんな苦渋を舐めても耐え抜き、最適なタイミングを見計らい、最大効果を発揮する一手を打つ。これが私の考える戦いの基本であり、極地なのだ」
フォートエルが背中に背負っている大砲に、彼の体から出ている煙が集い始める。
「私の城壁は敵からの攻撃を自らの力に変換する能力を持っている。そして、その力がある程度を越えたとき、今のように波動を放ち、一定範囲の相手を凍結させ行動を阻害することができるのだ。今の君達のようにね」
彼はおもむろに片膝と両手を地面につく。
そして、背中の大砲を水平にする。
「更に、それだけでなくこの大砲にその力を集結させ、強力な一発を発射する事ができる。到底、君達に耐えきれる一撃ではない。まさに必殺技、とでも言うべきかな? クックック……」
フォートエルは笑った。初めて笑い声を聞かせてきた。
丁寧な口調の裏に隠れた嗜虐的な彼の本性がそこにあった。
彼の砲塔は一人に向けられる。
そのターゲットは、尻もちをついた状態で太ももから先が氷結して動けない状態の、怜莉だった。
「……あ、う、あ」
怜莉は感じる。
これは逃げられない、確実に殺される、と。
「どうしてっ!? どうして彼女なのっ!? そんな強い一発なら私やマー坊にしなさいよっ!? 意味分かんないっ!」
両手両足が氷結し、ニケが下にいるおかげでなんとか上体を起こせているも微動だにできない流海。
彼女はそんな状況でも必死に叫ぶが、フォートエルに聞く耳はないようだった。
「私の任務はあくまでマヤをネオザナドゥにつれていく事だ。それには、そこの女を殺す事が最も効果的でああると認識している。故に、私はそこの女を殺す。貴様らが一切手出しできない今こそ、確殺できる最高のタイミングだ。それに……きっとそこの女の死が、最も美を描く」
フォートエルはあくまで冷静に、だがあからさまに私情混じりに言った。
そしてそれは、流海もマサトも、最優先にするほどの敵でもないという宣言でもあった。
傲慢でありながらも、誰も動けぬ状況はそれを裏付けていた。
「クソがぁっ……!」
マサトが怒りの形相で必死に藻掻いている。
彼が凍りついているのは足だけであり、姿勢としても片膝状態、氷結範囲もふくらはぎから張り付いているぐらいで軽いものではあった。
「無駄だ。それはただの氷ではない。空間ごとの氷結で通常の氷の何十倍と硬い。相当なマハトを消費せぬ限り抜け出せぬし、既にここまでの移動でマハトを消費している貴様には無理だろう」
フォートエルの砲塔に、煙が集まっていく。どんどんと砲塔は煙を吸い込み、発射が近くなっているのを告げる。
「くそっ……! くそっ……!」
怜莉は、近くにある自分のカバンに必死に手を伸ばした。
――あそこに入っているアレがあれば、なんとかなるかもしれない……私は、まだ死にたくないんだ……! マヤを残して、死ぬわけには……!
だが、怜莉の手がカバンのヒモに届いた、そのタイミングで、であった。
「充填完了……ではさようなら。貴様の命、この凍土の中で雪と散らし美として完成させよう。私が描く究極の美として完成せよ……!」
勝利を確信したフォートエルの言葉と共に、すべての冷たい煙が砲塔に吸い込まれた。
「その命、雪華の美と舞え――【糸紡ぎをする宰相の孫】……!――」
フォートエル最強の一撃、その名が宣言されると共に砲撃が発射される。
放たれたのは白色の光弾。
それは一瞬に怜莉へと飛んでいき、そして――
「――させるかああああああああああああああああああああああああっ!!!!」
着弾する直前、怜莉と光弾の間に、マサトが割って入ってきた。




