第45話 「オリハルコンディアー」
「もうそろそろ頂上が見えてくるか」
魔鉱鎧を進化させたあと、俺はゆっくりと登山を楽しみながら頂上を目指していた。
特に危険も無い、穏やかな自然に囲まれながら。
「鎮魂の森に居たときにはこんな余裕なかったな」
あの時は必死だった。自分が生き残るために、シャーマ様からの試練を最上の結果で終えるために森の全てを戦場として捉えて過ごしていた。
今思い返せば文明も無く、あるのは血生臭い戦いだった鎮魂の森も悪くは無い場所だったのかもな。
「少なくともコラプトのチンピラたちを狩っているよりも楽しかったし」
......シャーマ様からの願いを終えたら一度戻ってみるか。俺を受け入れてくれた洞窟と木龍の居た場所くらいは拝んでおこう。
「さ、頂上まであとちょっとだ」
◇◆◇◆
頂上直前で夜を迎えたため、テントを張り数時間の休憩を挟んだあとの早朝。俺は遂に至宝の山の頂上へと辿り着こうとしていた。
空気も薄くなり、冷たい風が身体に当たるなかでこれから訪れる戦闘への最終準備をしていた。
「――外法の大鎌『機動』」
キーワードに反応して、俺の胸から漆黒の光球が現れ弾けた。空中に漂う光の粒が徐々に膨張していき、俺の右手に柄の先端から円弧の刃が上下の向きに伸びた特殊な大鎌を形作る。
右手に持つ、外法の大鎌を手にしたことで内なる破壊衝動が暴れ始めるのを感じた。
「これが二つの神導武器を持つことの弊害か。今は周りに誰もいないが、人が溢れる街でこの神導武器を出したら暴走しそうだな」
もし街で使うなら完全なる暴力で全てを壊す必要があったときくらいかな。そんな時は来ないで欲しいが。
「後は......顕現せよ、『暴魂喰の魔鉱鎧』」
外器が発動し、俺の身体から漆黒の蒸気が噴出して俺の全身を覆っていく。
俺が蒸気の中で手を薙ぐと、煙が晴れて中から黒鎧を纏った状態に変わっていた。
「よし、完璧。来い、オリハルコンディアー」
これまで抑えていた魔力を全力で解放し、探知を開始した。
すると、探知範囲に引っかかった大量の魔力を持つ個体が俺の方へと向かってくる。
その場で少し待っていると、周囲の木をなぎ倒しながら土埃を上げて迫ってくる影を視界に捉える。
その影は勢いをそのままに俺に突っ込んできた。
「外器『サファイアスケイルレックス』!」
暴魂喰の魔鉱鎧が薄く光り、俺の左手に吸収したサファイアスケイルレックスの鱗で作られた盾が現れた。
そのまま左手を前に突き出して爬虫類の鱗で出来た盾で突っ込んできたやつの攻撃を受け止める。
ギリギリと音を鳴らしながら、拮抗状態を保ったのちに力を受け流すように弾いた。
「――お前がオリハルコンディアーだな」
『ブルルルル』
俺の目の前には全身が黄金の魔鉱石で覆われた大きな角を持つ鹿がいた。
その体躯は普通の鹿の何倍も大きく、首を振るだけで軽く風が発生するほど。
今の衝撃で軽く痺れた左手を振りながら右手の大鎌に力を込める。
「依頼主はお前の魔鉱石がお望みのようだからな。綺麗に狩ってやるよ」
『キヨアアアアアア!!』
俺は魔力を練り上げて身体強化を発動させる。
今回はあまり破壊力の高い魔法は使えないからな。外法の大鎌で戦わせて貰おう。
「まずはその立派な角からだ。魔光斬」
高めた魔力の斬撃をオリハルコンディアーの角にめがけて放つ。
オリハルコンディアーは避けるでもなく自ら角を当てて魔光斬を消滅させた。
普通の鉱魔獣であれば、これだけで首を狩ることも容易な斬撃なのだが。こんな簡単に無効化されるとは。
やはり、Aランク鉱魔獣ということか。
オリハルコンディアーは次は自分の番だと言わんばかりに、俺の方へと突進してきた。
その攻撃は先ほどのものとは違い、研ぎ澄まされた槍のように角の一点だけを俺に突き刺してきた。
「お手並み拝見ってか、なめるなよ!聖樹植生」
俺は相手の突進に合わせるように、聖樹を突進の軌道上に生やしていく。
一本、二本、三本......四本目の聖樹に大きな穴を空けたところで完璧に突進の勢いを殺すことに成功した。
「まずは、片角。属性エンチャント重力魔力」
こちらに差し出すように前に出た角に重力属性の魔力を纏わせた大鎌を振り下ろす。
単純な重さという力によって、オリハルコンディアーの強靭な角はスッパリと切り取られた。
綺麗に離れた角は地面へと落ちる。
『キョオオオオオオ!!??』
大事な片角を失った哀れな鹿は叫び声を上げた後、目を血走らせて俺のことを睨みつけてくる。
「随分とバランスが悪くなったなあ。――このまま終わってくれるなよ?」
お前の憎しみも、残ったプライドも全て刈り取ってやる。
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