第44話 「山登りと進化」
「イノノフは......完全に伸びているな。まあいい、依頼の話を進めよう。ワシはこのブローチについて装飾品と使用されている宝石としての価値を見ている。もし、ワシの知らない力を持っていたとしてもそれは依頼料に換算しない」
そう言って、ゲロル商会長は懐から赤い宝石が付いたブローチを取り出して机の上に置いた。
俺の探しているブローチだと断定するには持っている情報が足りないが、少なくとも依頼主から提出されたブローチの見た目と合致している。
「正直なところ、私としてもこのブローチを探して欲しいと言われただけなので特別な力があるのかはわかりません。単純なブローチとしての価値だと助かります」
「よろしい、では我がココナ商会の長としての立場で価値を計った結果、このブローチはこいつと同価値だと判断した」
ゲロル商会長は机の下から紙を出して、サラサラと必要な情報を書き出していく。
淀みなくペンを進めている様子を眺めていると、ピタッと止まり俺に紙を手渡してくる。
受け取った紙に書かれていたのは『オリハルコンディアー』という鉱魔獣の名前と生息地だった。
「君に討伐してもらいたい鉱魔獣は鹿型の鉱魔獣であるオリハルコンディアーだ。オリハルコンディアーを覆う魔鉱石は研磨することで最上級の宝石となる。稀に落ちている甲殻を拾っただけでも、一般市民が10年生活出来るほどの金が手に入るほどにな」
「オリハルコンディアーですね......無知で申し訳無いのですが、一般的に言われている強さなどは教えていただけるでしょうか」
「討伐者たちの基準ではA級鉱魔獣とされているな。これ以上の強さになると、龍種や神獣種に下界種などの普通では前に立つことさえも許されない存在しかいないとされている」
龍種より下か......なら行けるな。そろそろ俺のなかでくすぶっている外器の力の出番が来たな。
「ありがとうございます。最速で明日、遅くても三日後にはゲロル商会長にオリハルコンディアーをお渡しすると約束します」
「ゲッゲッゲ!楽しみに待っておるぞ!」
俺はゲロル商会長に深く礼をしてから商会長室を出ていく。
「一歩進んだな......次は鹿狩りか」
まずは現地に行ってみるか。渡された紙によると。オリハルコンディアーは俺の出て来た鎮魂の森とは離れた山の頂上にいるらしい。
特別用意するものは......ないな。
「――山の名前は『至宝の山』ね」
とりあえず行ってみようか。
◇◆◇◆
ココナ商会を後にした俺は、現在山の麓へと来ていた。
至宝の山は今のところ特に変な場所も見当たらない、至って普通の山に見える。
「ここの頂上にオリハルコンディアーがいるんだな。相手はA級鉱魔獣って言ってたし、少し慎重に行くか」
普段であれば魔力探知をすることで場所を特定してから行動を始めるが、もし俺の魔力に反応してここまでオリハルコンディアーが下りてくることがあれば堪ったものじゃない。
今回はオリハルコンディアーを目視出来るまで魔力を使わない方がいいだろう。
「とりあえず時間はある。焦らず、のんびりと山登りを楽しもう」
それから俺は、至宝の山をゆっくりと登っていた。
商会長室を出た後に店員に教えてもらった情報では、至宝の山と呼ばれている所以は、鉱魔獣が住みついていないこと。そのおかげで自生している山の幸が危険を冒さずに採れることからつけられたらしい。
その情報通り、鉱魔獣が現れるような気配もなく爽やかな風と揺られる木草の音しか聞こえない。
「本当にピクニックが出来そうなほど、のどかな場所だな」
本当にこの山にオリハルコンディアーがいるのか。
「まあ、万全の状態で戦い始めることが出来るのはこちらとしてはとても助かる」
可能であれば素材を傷つけることなく持ち帰りたい。外に出てる魔鉱石全てに価値があるのなら、ボロボロにしないよう注意しなければ。
俺は山の中腹まで来たところで止まり、忘れていたことを思い出す。
「そういえば、狂魂の魔鉱鎧が進化可能ってなってたよな。戦闘になる前に確認しておくか」
俺はステータスを開いて【外器】の鎧に目を通す。進化先を見たいと思い浮かべると、頭の中に『暴魂喰の魔鉱鎧』という選択肢が現れた。
【外器】狂魂の魔鉱鎧++
〈進化可能〉
↓
【外器】暴魂喰の魔鉱鎧
└ 今まで喰らった魂の力を引き出して扱う
「進化する」
暴魂喰の魔鉱鎧に進化したいという決意を固めた俺の内側で力を引き出されたことで、これまで吸収した魂が荒れ狂う。
『殺したい』『壊したい』『闘争を』『破滅を』『混沌を!!!』
――静かにしろ。
俺が口から小さく発した言葉で魂たちは完全な静寂を取り戻した。
「余計な力を消耗させるな。お前たちがいくら暴れたところで俺のシャーマ様に対する想いには勝てるわけがないんだから」
これで準備は完了した。
頂上で待っているオリハルコンディアーに会いに行くとしよう。
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