第39話 「永遠の悪夢は怨嗟の声」
ベアノフは気づくと隠れていた拠点とは全く違う場所にいた。
どこにでもあるのどかな村で普通に人も歩いている。ベアノフが過去に略奪しようと考えていた村によく似ている。
ちょうど拠点で部下たちと話していた、次に襲おうとしていた村と......
突然のことで困惑しながら棒立ちしていた俺の後ろからざわつきが聞こえてくる。
「おいここどこだよ!」「あのクソガキなんなんだ......」「お、よく見たら村じゃねえか!お前ら襲おうぜ!!」「ボスもいるぜ!」
あそこで死んだ場面を見たはずの部下の声が聞こえてくる。
あの時に終わってしまったと思っていた部下たちの喧騒が。
「よくわからねぇが、お前ら!せっかく村にいるんだ......襲うぞ!」
「「「「「おう!!!!!!」」」」」
何故かわからないが、こいつらから全てを奪いたいという欲望が湧いてくる。
手始めに近くにいた女でも殺してやろう。
「女ぁああ!!まずはお前からだ!!」
「え?どうしたんですか?」
ベアノフは手に持った斧を女目掛けて振り下ろす。
だが、あろうことか女はいつの間にか手に持っていた包丁で斧を受け止め、逆に切り返してきた。
その斬撃はベアノフの心臓まで到達し、血が大量に噴き出した。
倒れながら映る視界には、部下たちが他の村人に殺されていく仲間たちが居た。
完全に意識を失う前にベアノフを殺した女の声が聞こえてくる......
『お前が殺したんだ』
「――は!?」
ベアノフはまた村のなかで目が覚める。
痛みは無いし、身体も自由に動ける。ただ、女の包丁が心臓に届いた感覚は残っているし、血が流れて冷たくなる嫌な気持ちも覚えている。
「何だったんだ......今のは」
気持ちの悪さが残っているなかで、また後ろから部下たちの声が聞こえてきた。
「死んだはずじゃ?」「でも生きてるぜ?」「ああ、でも村を襲いてぇ!!」「俺たちはそれしか生き方を知らねぇからな!!」
部下たちの声が耳に入ると、またベアノフの魂が震えて村から全てを奪いたいという気持ちが湧いてくる。
「駄目だ......我慢できねぇ!!行くぞお前ら!!」
そうして、近くにいたガキに斧を振り下ろす。さっきと同じように。
「おじさん、弱いね」
子供はベアノフの斧をひらりと避けて手に持った草刈り鎌で俺の首を刎ねた。
飛んでいく視界は宙に浮いて、また部下たちが返り討ちにされて殺されていくのが見えた。
『お前が殺した者はもっと苦しかったぞ』『何度でも殺してやる』
――そうして、ベアノフはまた目が覚める。
「何なんだよ......何で俺がガキなんかに負けるんだよ!!!」
ベアノフの力があれば、ただの村人ごときに負けることは無かった。だが、今はどうだ。
自慢の斧がただの包丁に受け止められて、ガキに避けられて、殺される。
こんな屈辱と理不尽を味わうことに耐えられない。
「一度襲うのを止めて様子をみるか」
だが、また後ろから部下たちの声が聞こえてくる。
そして、魂がその声に反応して村を奪いたいという気持ちが湧き出て止まらなくなっていた。
さっきまでの冷静な気持ちが欲望と興奮で塗りつぶされていく。
「がああああ!!!」
焦ってはいけないが、心は......魂は足を村人の方へと向いてしまうことを止められない。
そして、村人に襲い掛かり、また殺された。
『懲りないやつだ』『罰が必要だ』『こちらからの罰が』
ベアノフはまた目を覚ました。
だが、今度は村人がベアノフのことを恨みの籠った目で見てくる。
そして、ベアノフが声を出す前に全員に襲われて鈍器で身体をぐちゃぐちゃにされた。
痛みと苦痛がベアノフの命をゆっくりと削り、また死を迎えた。
――それから、何度も何度も、何度も何度も何度も何度も村人から殺される。
死を迎えるたびに怨嗟の声は増えていく。
『死ね』『お前がしたことだ』『心の痛みを』『我らの恨みを』『報いを受けろ』
「も、もう止めてくれ!反省した、反省したから」
『そうやって言われてお前は止めたか?』『止めなかっただろう?』『なら、俺たちも止めない』
なんとか絞り出した助けの声も村人からの攻撃と怨嗟の声に消されていく。
どれだけ助けを求めても、償いの言葉を口にしても、後悔と嘆きを呟いても、この地獄は終わらない。
これから永い間、ずっとずっと......
『――罪を償うために最適な夢だろ?断罪は俺が死ぬまで永遠に続く。抗う術を持たない弱者となったまま後悔し続けろ』
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